可惜夜の魔女

宮野 智羽

第1話

よく晴れた日の早朝は本当に心地が良い。

私の寝室には暖かな朝の光が差し込み、爽やかな風が吹き抜けていく。


「ふぁ…」


不快な思いを一切することなく目を覚ます。

寝ぼけ眼を擦りながら身体を起こし、小さく伸びをしてベッドから下りた。

朝1番の習慣として、扉の近くに置いてある姿見を見る。


そこに映るのは9歳前後の小さな女の子。

ミルキーブランドの髪に紫色の瞳。

若干引きずっているローブがさらに幼さを引き立てている。


「うん、今日も可愛いな!」


そして鏡の中の少女は腰に手を当てて、満足そうに微笑んだ。



今日も変わらない1日でありますように。



そんなことを願いながら鏡を見つめるも、少しすれば飽きてくる。

美人は3日で飽きるとはよく言ったものだ。

自画自賛ではあるが、この顔は美しさと幼さを兼ね備えている中々なものだと思う。


「なんてな。馬鹿なことを考えるのはやめてよう。さて、今日は本棚の整理をする予定だったな。最近調べ物に耽っていたせいで並びがぐちゃぐちゃになったんだよな」


私は軽く頭を振って、くだらない考えを吹き飛ばす。


それから本棚の前に立ち、どの本をどこに置くのかを考え始めた。


魔法に関する書物

薬草に関する書物

歴史に関する書物

動物に関する書物


他にもあるが、ざっと見ただけでも相当な数がある。

ここにある本の大半は昔から何度も読み返しているものだから、気をつけて扱わないとすぐにページが破れてしまう。

手に入れた時は新品だったが、今では中古本としても売れないだろう。


「えっと、まずはこの辺りか?」


適当に目についた数冊を手に取り、テーブルの上に置いた。

そして背表紙を見ながらタイトルを確認して、気をつけながら本棚にしまう。

魔法が使えれば楽なのだが、如何せん雑に扱えないから魔法を気軽に使えない。


どれぐらい時間が経っただろうか。

気づいた時には太陽が真上に昇っていた。


「…また没頭してしまったか。全く、歳を取ると時間感覚が鈍って仕方ない」


ため息を吐いて、一旦本棚の整理を中断する。

昼食の支度をするのも面倒だが、食べないと動けないことも確かだ。


「あー…面倒だ。近くの店に食べに行くにしろ、ここからでは遠いからな」


魔女であることや幼い子どもが1人で暮らしていることを隠すため、少し前から誰も近寄らないような森の奥深くに住んでいる。

そのお陰で人に会うこともなく生活できているものの、必要なものは全部自分で用意しなくてはならない。


「…って、食材もないではないか」


魔法石を使って常時冷却魔法を発動させている箱の中を覗くと何も入っていない。

そういえば、昨日使い切ったような…。


「あー!めんどくさい!!どちらにしろ買いに行くなら食事も済ませるか!」


そうと決まればすぐに街に出る支度をする。

幼い容姿はどうしようもできないが、お使いと言えばいいだろう。


ローブから外行用のワンピースに着替えてから家を出た。

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