自首失敗

 人を殺したので自首しようと思う。三年付き合った恋人、たか子に振られむしゃくしゃし、通りすがりの人を刺してしまった。まさか自分が通り魔になるなんて思ってもみなかった。しかし自首しようにも一人で自首するのはちょっと心細い。仲間を集めることにしよう。私は胸に人殺しワッペン(人殺しです、と書いてあるワッペン)をつけ、仲間探しの旅に出た。まずお隣の村上さんのとこに行こうかな。


 ピンポーン


 村上さん宅のチャイムを押すと、旦那さん、村上たかおさんが出てきた。


「はい、ああお隣の佐藤さん。なんか用ですか?」


「はい、私先ほど人を殺しまして人殺しになったんです。だからまあこれから自首しようと思うんですが、一人で自首するのは心細くてね、一緒に自首する人を探してるんですけど、たかおさんは人殺しではありませんか?」


「うーん、そう言えば小学校のときにいじめてたさとしってやつが、この前こじらせて人を殺したらしい。だからまあ、俺も人殺しかもしれんな。よし、一緒に自首しよう。」


 やった!!早速仲間ができたぞ。私はたかおさんに人殺しワッペンを一つあげました。


「ありがとう。」


 たかおさんは喜んでワッペンを受け取った。


「二人だとまだ少し心細い。一緒に仲間探しの旅に出よう。」


「ちょっと待って、もしかしたら妻のまつこも人殺しかもしれない。」


 まつこ〜、ちょっとこっちおいで〜


 は〜〜〜い


 ドタドタドタドタ


 まつこさんがドタドタ階段を降りてやって来た。


「こんにちは。私は先ほど人を殺してしまったので自首しようと思うのですが、一人だと心細くて仲間探しをしています。まつこさんは人殺しですか?」


「うーん、そうねぇ。あ、そういえば昔大学教授をしてて、入試を採点してたんだけどね、どうせバレないと思って適当に採点してたのよ。そしたら、結構ミスってて、そのせいで大学に落ちた子が気を病んで自殺しちゃったみたいなの。だからまあ、私も人殺しかもね。一緒に自首、しましょうか。」


 やった、仲間が増えたぞ。私はまつこさんにもワッペンをあげた。


「まあ素敵。ありがとう。」


 三人も集まればまあいいだろう。私は二人を引き連れ交番へ向かった。横断歩道、信号を待っている途中ふと隣を見ると、たか子がいる。もしかしたらたか子も人殺しかもしれない。


「やあたか子。」


「まあ、ひろかず。どうしたの。」


「俺さっきお前に振られてむしゃくしゃして人を殺しちゃったんだ。それで今自首しに行くところ。もしたか子も人殺しだったらさ、一緒に行かない?」


「そうなんだ。ああ、うーん、私がふったせいであなたがむしゃくしゃして人を殺したのだから、私もきっと人殺しだわ。一緒に自首しましょ。」


 私は喜んで彼女にワッペンを差し出す。耳にかかった髪を掻き分けながら、彼女はそれを受け取った。


 四人で一列に並び、警察へ向かって行く。


 ズンドコズンドコ、ズンドコズンドコ


 ズンドコズンドコ歩いて行くと、あっという間に交番についた。早速みんなで自首しよう。


 ガラガラー


 ごめんくださーい


「はい、どうしました?」


 清潔感のある若々しい警察が対応してくれる。


「私、人を殺したので自首しようと思うのですが。」


「はあ、そういうことなら私もご一緒させて下さい。」


 そう言った警官の胸には、人殺しワッペンが付いていた。これは予想外。まさか警官も人殺しだったとは。


「わかりました。ではご一緒しましょう。」


 私は警察官を仲間に加え、交番を出た。しかし困ったものだよ。一体どこに行けば自首できるのだ。街を歩き回る。なんか知らんが、その辺を歩いている人はみな例外なく人殺しワッペンを付けている。どんどん私の列に加わって行くのだ。上空にはヘリコプター。きっと中に乗っている人物が人殺しなのだろう。車もどんどんついてくる。ゆっくり歩く速度でだ。あっという間に大名行列のように。


 ニョーンニョーンニョーン


 突然携帯が鳴った。


「緊急飛行機警報。世界中の飛行機が〇〇市に向かっています。このままだと墜落します。早く逃げましょう。」


 大変だ。パイロット達も自首するためにこちらに向かってきているようだ。このままだとみんな死んでしまう。早く自首して人殺しワッペンを清算しなければ。


 必死になって街を歩く。どこだ、どこなら自首できるのだ!!コンビニに入っても皆ワッペンをつけている。学校でも、パン屋でも、スーパーマーケットでも!!どうすれば!どうすれば!もう駄目だ、死を覚悟したその時、目に飛び込んできた看板、タニシ産婦人科。産婦人科には赤さんがいる!赤さん!赤さんならば!


 私は産婦人科に突入した。赤さんならば人を殺しているはずがないのだ!赤さんに自首するのだ!!


 産婦人科のドアを開き、突入する。当然のように受付の人もワッペンをつけている。私は階段を登り、部屋を探す。すると、赤さん室、と書いてある赤さん室を発見!!入る!!


 ガラガラガラー


 沢山の赤さんがベットの上に寝ている!ワッペンはつけていない!流石赤さん!さあ!自首しよう!入って右に寝ている赤さんを覗き込む!


 むにゃむにゃ


 赤さんは、寝ている。かわいい。私はワッペンを外しかけていた手を止めた。赤さんに自首なんて出来ない。なぜなら、自首するということは罪を裁かれるということ。人の罪を裁くということは罪だ。こんなに美しい赤さんに罪を背負わせることなんてできない。赤さんは美しい。人類の宝だ。なら私がやるべきことは、赤さんを産むこと。赤さんを作ることこそ生きる意味だ。さあ、赤さんを作らなければ。


「俺たちのラブロードはまだまだこれからだぜ。」


 私はたか子の手を取り言った。


 きゅん♡


 たか子は私に惚れ直したようだ。さあ、早速子作りだ、セックス、セックスをするのだ。私はそのベッドに寝ていた赤さんを隣のベッドに移動させ、たか子とセックスした。赤さんを、赤さんを作るのだ。


 あんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあん


 チュドーーーーーーン!!ドンガラガッシャーン!!


 完





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る