ゲストスピーカー・のっぺらぼう先生

「はい!!今日のゲストスピーカーはのっぺらぼうさんでした!!質問タイムに入りま〜す。何か質問ある人いますか〜?」


 担任の里子先生が言います。


「はい、なんでも気軽に聞いてくださいね〜。」


 のっぺらぼうさん、気前が良さそうです。


 シュピピッ!!シュピピピピピッ!!


 一斉に手が上がります。さすが小学生。好奇心の塊です。


「はい、じゃあね〜。はい、ええと、一番早かった。先生はちゃんと見てたぞ〜。あいちゃん!!」


 先生は一番前でビシッと手をあげている女の子、あいちゃんを指しました。指先までピシッと伸びています。おかっぱ頭の可愛らしい女の子です。


「はい!!ええと、のっぺらぼうさんはのっぺらぼうなのに普通にお話しされていますよね。どこから声を出しているんですか?」


 確かに、確かにその通り。鋭い質問です。


「いい質問ですねぇ。実は、股間から喋ってるんですよ。いやぁ、最近の若い子たちはすごいですね。実はね、ほら、ここ、ちっちゃいマイクがついているでしょう。」


 そういうとのっぺらぼうはパジャマみたいなスウェットズボンの腰紐を止めるあたりのところをびろーんと前に突き出した。確かに小型マイクがクリップで止められている。


「ほんとだー!!ありがとうございました!!」


 衝撃の事実に目を輝かせるあいちゃん。


「うわー!!すごいーー!!すごいーー!!」


「喋る股間、すごいー!!すごすぎるーー!!」


「喋るんだー!!股間って喋るんだー!!」


 小学生は感動しています。みんな、楽しそう。それを眺めるのっぺらぼうも、なんだか満足そうです。


「はい!!次の質問はありますかー??」


 はいはいはいはいー!!


 また一斉に手が上がります。すごい勢いです。さすが、小学生。さっきの質問が好奇心を爆発させたのかもしれません。


「はい!!じゃあ〜たかとくん!!」


 先生が差します。たかとくん、ガラガラと音を立てて元気よく立ち上がります。


「はい!!あの!!じゃあどうやって聞いてるんですか!!ちゃんと質問に答えてるけどさ!!」


 元気がいい。これこそが小学生の真骨頂だ。


「お、またまたいい質問ですね。」


 のっぺらぼう先生、なんだか微笑んでいるように見える。この声も、股間から発せられているのだ。


「はい、ええと、それも股間です。聞ける股間なのです!!」


「ええー!!すごいー!!」


「ひえー!!私も欲しいわー!!」


「話せて聞ける股間なんてー!!感動だわー!!」


 どっと盛り上がる会場。わいわいがやがや、わいわいがやがや。


「はい、じゃあ次〜。あ、妙子さん。早かった。」


 妙子さんは眼鏡をかけていて、隅っこで本を読んでいそうな女子です。


「あの〜。のっぺらぼう先生はなんか〜、黒板に文字書いたりしてるから、見えてるみたいじゃないですか〜?どこで見てるんですか〜?」


 ぶつぶつ、なんだか呪文を唱えるような声です。


「ええと、それも実は股間です!!股間で見ています!!」


 のっぺらぼう先生は元気よく答えます。妙子さんはちょっと顔を赤くして、むすっと微笑んでいます。


「すごいー!!目も見えるなんてー!!」


「すごすぎるー!!すごすぎる股間だー!!」


「万能じゃないか!!」


 絶賛の声。盛り上がる教室。しかし、異議を唱えるものがいた。たかし君だ。


 バン!!


 机を叩き、立ち上がる。


「おかしい!!おかしいよ!!股間で見るなら、ズボンで隠れて外が見えないはずだよ!!おかしい!!おかしいよ!!」


 怒っています。でも、もっともな反論です。


「ごめんなさいねたかしくん。誤解なんです。実はこのズボンはマジックミラーになっていて、外側から内側は見えなくても、内側から外側は見えるようになっているんです。そういう仕組みなんです。」


 のっぺらぼうさんが答えました。


「すごいー!!すごいズボンだー!!」


「すごいズボンと股間だー!!」


「ワンダフルー!!ワンダフルー!!」


 教室のボルテージは最高潮に達しています。サッカーのワールドカップ決勝のような空気です。


「すごいー!!すごいー!!」


「すごい股間ー!!すごい股間ー!!」


 すごい、すごい空気です。爆発してしまいそうです。


「見せてよ!!」


 鋭い声が空間を切り裂きました。たかしくん、再びたかしくんです。


「見せてよその股間!!僕に見せてよ!!」


 力強い声。決して疑っているわけではないようです。ただ、ただ見てみたい。強い好奇心と意志がビンビンに伝わってきます。隕石のような力強さです。


「う〜ん、それはちょっと、、、法的にちょっと、、う〜ん。」


 のっぺらぼうさんは困ってしまいました。困ってしまったのっぺらぼうさん、顔をうろうろさせて、里見先生の方を向きます。助けを求めているみたいです。


「う〜ん。じゃあ、先生が確かめて判断しますね、じゃあちょっと、のっぺらぼうさん、すみません。」


 のっぺらぼうの股間の辺りに目を向けます。


 ビヨーン


 のっぺらぼうさんは先程のマイクがついていたあたりを広げて見せます。


「指差し確認、いち〜!!」


 里美先生はそう事務的に叫び、指を指します。のっぺらぼうの股間のあたりを指差しし、覗き込みます。


 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク


 束の間の、沈黙......。


 顔を上げる先生。無言で黒板の方へ歩き出します。グッと息を飲む生徒たち。教室自体が息を潜めているようです。


 カッカッカッカッカッ!!


 白いチョークで小気味よく描き始める。そこには大きく「NG」の文字が.......。


「ええっ!!えええええっ!!」


 落胆の声を上げるたかし。


 メソメソメソメソメソメソメソメソメソ


 周りの生徒たちは静かに涙を流しています、、、、、。


「くそっ!!見れると思ったのに!!くそっ!!」


 一人感情を爆発させ、机を叩いているたかし。


 しくしくしくしく、、、、


 周囲のすすり泣きが一層たかしの激しさを際立たせます。


「もういいよっ!!」


 バーンッ


 机を蹴り、窓から外を眺めるたかし。目には涙が浮かんでいる。夕暮れ、夕焼け空が綺麗だ.....。


 ツカツカツカ


 のっぺらぼう先生が歩み寄っていく。


「大丈夫。夢は叶うよ。絶対にね。」


 のっぺらぼうはそういうと、たかしの肩にぽんと、手を置いたのだった。


 完

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