ジョリン
その日の太陽が僕に言いたいことは何もなかった。
僕は外に出たかったけど、空っぽの死体が布団の中に詰まってるみたいで気持ち悪くて動けなかった。
昨日はジョリンに会った。
久しぶりに会ったジョリンは戦争が始まったときペットの亀のダートゥーがヘルメット役として徴兵されてしまうのではないかと悩み苦しみながらリストカットをしていた。僕はその様子を鼻で笑っていたのだけど、そのとき僕らはマクドナルドでチーズバーガーを一緒に食べていたから流石に人目を気にするべきだなと思い始めたところに金魚みたいな目をした店員がやってきて話しかけてきたんだ。
「お客様、リストカットは浴槽で。」
なんて言うものだから、僕たちは笑い転げてしまった。
「ここに浴槽なんてないじゃないか?マクドナルドに浴槽があるのかい?みんな住み込みで働かされているのかい?そんなに酷い労働環境なのかい?」
て、
「お客様、浴槽はありますよ。確かにマクドナルドに浴槽はあります。そこまで言うならご案内致します。」
ぎょろぎょろした目で斜め上、窓の外を見ながらそいつは言った。
僕とジョナサンは二人で男について行った。店内は閑散としていてカップルやらパソコンに向かうスーツの男やらがいたけれど誰も僕たちに関心は向けていないようだった。みんな各々のディスプレイに向かっていた。金魚みたいな目をした男はたんたんと階段を降りていき、
「ちょっと失礼。」
カウンターの中へ入って行ていく。そしてチラとこちらを見て、僕らに中へ入るように手でジェスチャーした。カウンターの中を3人で奥へと進んでいくとちりとりみたいな扉があって普通中にはトイレがありそうなものなんだけど、男が開いたそこには一人暮らし用アパートに置いてそうな浴槽があったんだ。そしてなんとその中には、無数の金魚が泳いでいた!!僕らはもう笑いが堪えなくて、腹を抱えて笑ってしまった。ジョリンは盛りのついた猫みたいに腕を浴槽に突っ込んでカミソリを動脈に突き立てていたんだけど、それを見て金魚男が
「お客様お待ちください!!少々お待ちを!!」
って急に慌てふためいてどっから出てきたのか金魚取りのポイみたいなので金魚を掬い始めたんだ。だけど既にジョリンは腕を切っていて、浴槽はみるみるうちに鮮血で埋まっていく。
「お客様、私の金魚はドラキュラではありません!!決して、決してドラキュラではありません!!」
真っ赤な顔の金魚男は金魚掬いのポイを投げ捨てて両手で真っ赤な浴槽に手を突っ込み金魚を浴槽から掬い出そうとぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ、プール開きの小学生みたい。僕とジョリンは大声で笑っていたんだけど(僕とジョリンは20年来の付き合いだったが、あれ以上一緒に笑い合ったことはなかっただろう!!)、どんどんジョリンは生気無くしてゴムみたいになってしまうし、変わらず慌て続ける金魚男にもすぐ飽きてしまって僕は一人部屋を出て、食べ残されたチーズバーガーを食べて店を出たんだ。
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