第16話 特訓一日目

「術技はある程度問題ない。同世代の子と対峙したら、まず、負けることはないと思うよ。だからと言って、慢心は良くないけどね。まずは、剣からだよ。君は、北方流だったら、今より、強くなれる。今は中央流だけど、君にはあっていない。北方流は、スピードを意識するものだから、狙いと速度だけを頭に入れてね。」


 私はこくりと頷き、剣を抜いた。


 そう言うと、リーさんは私から、距離をとる。何故だろう?剣の修行ならば、まずは、基礎的なことからだろう?基礎的なことなら、そんなに距離をとることはないだろう?

 そんなことを考えていたら、リーさんが何かを呟いていることに気がついた。


「リーさん!何言っているんですか?聞こえませんよー!」


 私の言葉を無視して、リーさんは、何か、ブツブツと言い続ける


「避けてはだめだからね!」


 その声が聞こえたのと同時に数十個の石が、いや、この数は、数十個じゃない!数百個だ!!

 

 私は、全てを理解した。これは、死ねるほどの量の石だ。そして、リーさんは、手加減をしていない。確実に避けるルートを封じている。


 話の流れ的に、石を剣で弾くことが目的であると考えられる。ならば、やることは、剣を振ること!集中しろ!私!

 今回は深呼吸できないが、剣を握り直し、石に向かって振る。けれど私は、石を弾けなかった。急いで、石の飛んでくる射線から抜ける。が、リーさんは、そんなに優しくなかった。


「リーザ!剣を手放すな!武器は、戦士の誇り!ここを、戦場と思え!リーザは、戦場で武器を、誇りをすてるのか!?」


 リーさんは、私に向かって石を飛ばし続ける

 そこまで、大きくないから、痛くはない。

 いや、やっぱり痛い。

 この石は、恐らく、砂岩。顔付近に当たると、砂ぼこりをたてるから、視界を奪われる。

 どうにか剣を拾った私は、できるだけ、速く剣を振る。けれど、弾く石の量よりか、飛んでくる石の量が多いため、体に、石が当たる。


「弾こうとするからだよ!斬るイメージだよ!」


 斬るイメージ?剣を速く、振るので精一杯なのに?落ち着け私!弾くんじゃない!斬るイメージだ!───





「お疲れ様。大丈夫?」

「リーさんの目には、私が、無事に見えますか?」

「ハハハハ!!」

「何が面白いのですか?」


 結果として、私は全く飛んでくる砂岩を対処できず、砂まみれになってしまった。しかも、全身が痛いし、手には、潰れたまめがある。中一のテニスの練習を思い出す。


「す、すまない。……人間は元々弱い生き物だ。だから、人は強がって生きてきた。この世界で生きていけないからね。故に、昔から、人は強がって生きてる。それが、人間の癖だね。人間の本能と言ってもいい。だから、ウチとしてはリーザには、この本能に抗ってもらいたい。きつい時は強がらずに、『きつい』とか、『もう無理』とか、弱音吐いていいからね。」


 遠くに連なる山々を見て、リーさんは語る。その目は、何故か悔しそうな目をしていた。何より驚いたのは、さっきまでのリーさんとは、打って変わって落ち着いた声で私に語っていることだ。


「リーさん。いえ、先生は口下手ですね」


 この人は優しい。けど、優しすぎない。根はいい人なんだろう。まっすぐ生きられる人なんだろう。立派な人。そう思える。


「……先生!うんうん、良い響きだね!!」

「…あの、先生って、呼んでもいいですか?」

「もちろん!本格的に、師匠になったんだね!ウチ!」

「先生は、弟子をとったこと無かったんですか?」

「あれ?言ってなかったけ……?自分からは、取ってこなかったね。何回か、教えてことがあったけれど、どれも、依頼とか、なんかの条件だったからね。」

「へぇ〜。そうだったんですね。」


 そんな会話をしているうちに、空はだんだん茜色に染まっていく。まだ、昼は短い春時しゅんじだ。茜色の夕日が二人を包む。


「太陽は偉大なりー!!」


「わっ!びっくりした〜」


 急にリーさん(以後先生)が叫んだ。驚いて声が出たよ、、もう、、


「急にどうしたんですか?驚かさないで欲しいです。」

「いやー、黄昏ていたから、このセリフを言って見たくてね。ついね。」

「そうですか…ところでなんです?そのセリフは?」

「このセリフはね、大昔のとある魔術師のセリフだよ」

「とある魔術師…?」

「あぁ、当時の人々は、その魔術師のことをR62《アールロクニ》と記した。」

「R62ですか?」

「そのR62は当時最強の魔術師だったんだ。そこで、R62は考えた。太陽は実際あるが、神は、人の信仰心の中にあって実際会える存在ではない。っとね。神に怒られそうな理論だけど…」

「つまり?」

「存在しない神より、目の前にある太陽をどうにかしたら、もうそれは、神より上の存在になれるという持論を作ったんだ。」

「…なんです?そのめちゃくちゃの持論は?」

「まぁ、結果は、分かりきったことだけど、R62が負けたんだけど。逆にどういう勝負を太陽としたのか気になるよ…まぁ、さっきのはその時に言ったセリフだよ。」

「力があっても、頭はパーですね。」

「まぁまあ、そんなにR62をバカにしても意味はないぞ。R62の妄想癖が酷すぎただけであって、頭はパーではないんだよ。多分」

「…自信、ないのですね」

「……まぁ、そんなこと気にしてちゃ、生きていけないよね。ってことで、家に帰ろっか」

「了解です。先生」

「へへっ、やっぱりその響きいいねぇ〜」

「強い人って頭の中ってパーなんですかね?」

「ウチは大丈夫よ!多分」

「そーですか」


 今の先生を一言で表すならば、無邪気だろう。自由に生きているという点では一番だと思う。けど、R62…どんな人なんだろうか…?

 まぁ、話的に死んじゃっているか…


 私達は、静かな、茜色の光に包まれた山の中を歩いて家に戻っていった。先生は、魔力を全身から微量出している。恐らく、魔力探査をして、魔獣や魔物に警戒してるのだろう。

 すごいな…私には、こんだけの時間魔力を操作するのは厳しい。それに、使う魔力を最小限にしている。通常ならば、もっと、体から、溢れでている。そこから、大分だいぶヤバい人っていうのが伺える。(私は褒めている)


「ねぇ…リーザ…?」


 風の音が響き渡る森の中、先生が私を呼んだ。


「はい、なんでしょうか?」

「あんまり、ウチをジロジロ見ないでおくれ。注目されるのは、慣れていないもんでね。」

「先生は、疲れないんですか?ずっと、魔力探査していて、」


 少し間を置き、先生は、表情を変えずに、


「もちろん疲れるよ。ずっと、魔力を操作しているわけだし。けど、油断大敵。もうすぐで、魔獣の活動も活発になる。家周辺にはいないけど、盗賊だってこの山にはいる。警戒していて損はない。」


 そっか、もう夏が来るのか…

 早いな…

 気がつけば家についていた。


「さっ!風呂に入ろう!」


 家に入った瞬間に先生はそう言う。

「入ろう」と言うわりには、私を椅子に座れとジェスチャーする。

 なぜだ?準備してきな、とかだったら分かるけど。


「ちっと、準備が必要だから、リーザは、ここで待っててね。」


 湯でも沸かすのだろうか?まぁ、そんなことなら気長に待っておこう。

 私は頷いて返事を返す。


 〜〜10分後〜〜


「先生遅いな…大丈夫かな?」


 〜〜20分後〜〜


「さすがに、遅すぎるんじゃ…でも、先生は、待っててって言っていたし…」


 悩んだ結果、もう少し、待っておくことにした。


 〜〜30分後〜〜


「1時間経過…さすがに1回見に行くか…」


 先生が向かった下の階に向かう。

 慎重に階段をおりる。階段って、縦の幅が狭くて急で苦手なんだよね、、

 そんなことを思いながらなんとか、階段を降りる。


「先生?大丈夫ですか?」


 降りた下の階にには、驚きの光景があった。

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