第32話「迫り来る中間テスト!」
ハナチャンから中間テストについて知らされてからというもの。
次の日になってもあたしの不安と苦痛は消えないでいた。
「くそッ!! せっかくテストは全教科赤点を取る予定を立ててたって言うのに!! 予定が狂っちまったじゃねぇか!!」
「あなた史上最低の予定を立ててますわね」
あたしがこぼした憤慨の言葉に金髪が反応する。
その様子に琴音と七瀬も苦笑いを浮かべていた。
そう、あたしを襲う不安こそが2週間後に迫り来る中間テストだ。
今まではテストなんざ適当に受けて、補修があってもサボっていたが今回ばかりはそうもいかない。
だって……
「5科目以上赤点で強制退学とか鬼すぎんだろうがぁぁぁああ!!!! うわぁああああああぁぁぁああん!!!」
あたしは両手で顔を覆って叫び声をあげた。
だって……だって……絶対無理だもん…………ぐすっ!
「みんな……元気でな…………っ」
「み、ミズキちゃ〜〜ん! 諦めるのはまだ早いよぉぉ! わたしミズキちゃんが退学なんて普通に嫌だよ!!」
「そうですよ! ミズキさん、わたくし達も協力するので頑張りましょう!」
「七瀬ぇ……琴音ぇ……!」
「静流さんも協力してくださいっ!」
琴音が金髪へと真剣な視線を向ける。
すると金髪は不服そうな顔を浮かべながらも、やがて小さくため息をこぼした。
「まったく……仕方ありませんわね…………私的には蛮族が消えてくれるのはありがたいですが、琴音様が悲しむと言うなら仕方がありません。……協力してさしあげますわ」
「き、金髪……お前まで……!! いや、でもお前に借りを作るくらいなら退学の方がマシかもしれん…………よし、お前は協力してくれなくていい!!」
「なんですのよあなた!!? ぶっとばしますわよ!!」
「まぁまぁミズキさん。今回は少し事が重大なのでそういうのはなしで、現実的に目標を達成する可能性だけを考慮しましょう。静流さんは力強い助っ人ですよ?」
琴音が諭すように優しく話しかけてくれる。
まぁ……確かに。
今回は退学を賭けた一大事。
金髪が賢いのは事実であたしも認めているところだし、こいつが助けてくれると言うのは大きなアドバンテージだ。
今はプライドより優先すべき事があるな。
「そうだな……今のはあたしがダメだったな……悪かった。金髪……お前のことは好きじゃねぇし、お前だってそうだろうが……今回ばかりは助けてくれ……頼む」
「……っ」
あたしが素直に謝罪して丁重に頭を下げると、金髪が一瞬息を呑む音が聞こえた。
それからもう一度ため息を吐いてから声を発した。
「……最初からそう言っていれば良いんですわ。ただ別にあなたの為ではありませんわよ! 琴音様がお願いするからですわ。そこだけは勘違いなさらぬよう」
「んぐっ…………あぁ、いや、助かる……ありがとな」
「……ふんっ」
相変わらずムカつくが今回ばかりは仕方がねぇ。
大人しく手を借りるとしよう。
「そういや、お前らも赤点5個取ったら退学なのか?」
あたしはなんとなく尋ねる。
まぁさすがにあたしだけがそんなペナルティなんて事はないだろう。
多分みんな同じ条件のはずだ。
質問に答えてくれるのは七瀬だった。
「ううん……ミズキちゃん以外の生徒は赤点2つ取ったら即時退学…………」
「え!!? まじで!!?」
「そー……だからわたしも本音言うとミズキちゃんと同程度には焦ってるんだぁ……」
七瀬が不安げに声を落としていた。
いや、というか待て。なんでこいつらは。
「ま、待てよ! なんであたしだけ赤点5個なんだ? お前らの方が厳しいじゃねぇか!!」
「当然ですわ。私たちは正当に入試を突破した学生。対してあなたは【特別招待枠】で入学した生徒ですもの。同じスタートラインな訳がありませんわ」
「…………ん?」
え、いや、待って。
今金髪が聴き馴染みのない事を言った気が……
「特別招待枠……って、なに?」
あたしがポツリとこぼした言葉に、金髪と七瀬の目が大きく見開かれるのがわかった。
「え……ミズキちゃん、それ本気で言ってる……?」
「あなた……自分がどういう経路で入学したか把握してませんでしたの……?」
「な、なんだよその目!! おい琴音!! どういうこと!? そんな説明受けてないけど!!?」
「あれ……? 言ってませんでしたっけ?」
琴音がほわんとした表情を浮かべている。
いや、こいつの事だ。絶対どっかで説明してくれてる。
なんかのタイミングで聞き逃してたのか……。
いやそれより説明欲しい。
あたしがそう思っていると、琴音が口を開いて優美に教えてくれる。
「聖アルカディア女学園では、一般入試枠以外に【特別招待枠】というものがあります。これは毎年1人だけ、理事長が選んだ女子中学生を入学させる制度です。人の上に立つ人間には【強運とタイミングの巡り合わせを引き寄せる力】も必要。そういう理念のもとに成る制度ですね」
「そ、そんなのがあったのか……」
「まぁ誰がどー見てもあなたは特別招待枠ですわ。こんなゴリラ蛮族が真っ当にあの入試を突破できるとは思えませんもの」
「テメェは相変わらず一言多いな!!」
「あははー……わたしも自己紹介初めて聞いた時に思ったなぁ……あ、この人が今年の特別招待枠だぁ、って」
七瀬が懐かしむように言う。
金髪はマジで腹立つ。
だがなるほど……そういう事情が裏で動いていたのか。
強運とタイミングの巡り合わせ……。
あの時琴音と出会った事。
あの時琴音が窃盗に遭っていた事。
あたしが窃盗犯を撃退できるだけの力を持っていた事。
あたしが折よく高校を探していた事。
それらが重なり合わなけりゃ、この展開は生まれてなかったんだ。
まぁ……相当な奇跡だわな。
理事長が琴音からこの事情を聞いて、あたしを特別招待枠に選ぼうって思うのもまぁ納得はできるか。
あーそうか。
今になって思うが……だからこいつらや他のお嬢様も、明らかにお嬢様学校には異物なあたしを見ても平然としていたんだ。
特別招待枠であれども、制度として認められた方法で正当に入学しているから。
あたしを正当な生徒として扱ってくれていたんだ。
つーことはあたし裏口じゃねぇじゃん!!
ちゃんと認められた方法で入学してんじゃん!!
おーーなんか嬉しいな!
後ろめたさが一気に吹き飛んだわ!
やったぜ!!
まぁ……退学のピンチなんだけどな…………。
あたしが喜びと絶望を同時に味わっていると、琴音が更に説明を続けてくれる。
「本来は欠点が2科目以上で退学なのですが、ミズキさんは特別招待枠であり、勉強的にはわたくし達よりも多少は遅れをとっていると推定します。なので経過措置として、特別招待枠の生徒は定期試験の罰則規定が緩くなっているんです」
あたしはそれを聞いて納得する。
確かにそうでもしてくれねぇと困る。
一般入試で学校に入ってりゃ、この学校が求めるレベルの学力に達していることになる。だがあたしはそうではない以上、テストにおける退学のペナルティも他の生徒より軽くしなければ、速攻で退学になってしまうだろう。
それであたしだけ赤点5個まで許されてんだな……。
それに経過措置って事は……多分いずれあたしも赤点2個で退学ルールが適用されるんだろう。
くぅ〜〜〜勉強からは逃れられねぇかぁ!!
頭を抱えるあたしに向けて琴音が微笑みを浮かべた。
「では早速今日から勉強を始めましょうか」
「え!!? あ、明日からでも……」
あたしが嫌そうに言うと、金髪が眉を顰めた
「あなた自分の現状を分かっていますの? 聖アルの試験は難しいですわ。今この瞬間から始めなければ間違いなく退学ですわよ」
「うくぅ〜〜〜〜〜!! ぐああああああぁぁ!! 勉強嫌だ〜〜!!」
「ミズキちゃん……わたしも勉強苦手でギリギリ入学だったから……一緒にがんばろぉ……!!」
「七瀬ぇ……!! くぅ……そうだな、がんばろう……!!」
あたしは七瀬と思わず抱き合った。
そうでもしないとこの苦痛を和らげる方法が思いつかなかった。
互いにぎゅーっと抱き合っていると……。
「ミズキちゃん……うへへぇ……え、ちょっと待って……!! 今ミズキちゃんと抱き合ってる……女の子と……つまり……え! わたしが百合になってるぅぅぅううううう!!??? ダメダメダメ! わたしが百合になるのはタブーだよぉ! でも……女の子とハグするの……最高〜〜〜! うひょぉぉぉおお!♡」
「……」
七瀬が気色の悪い声をあげ出した。
馬鹿みたいに興奮する七瀬を見て、あたしは急激に冷静さを取り戻していく。
あたしはスッと七瀬から離れ、琴音と金髪に視線を向けた。
「よし、二人とも。勉強を教えてくれ」
「えぇ!? ミズキちゃんが冷たいよぉ〜〜〜!! うわぁぁん!!」
背後で七瀬が咽び泣く声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます