第22話「琴音とお出かけ! 前編」


 日曜日。

 時刻は9時48分。


 あたしは待ち合わせの場所へと向かっていた。


 服装はかなり迷ったが、普段カナや後輩と出かける時の格好にした。


 いわゆるストリートファッションで行く事にした。

 下は黒のスキニーにお気に入りの白スニーカー。上は柄付きの赤パーカー。そして黒のキャップだ。


 普段黒ジャージ上下のあたしからしたら大躍進だぜ。


 鞄は持ってない。

 ポケットの財布とスマホがあれば十分だからだ。


 ちなみに七瀬には「友達と遊んでくる」とだけ言って出てきた。

 今週末は実家に戻ってカナ達と会おうと思っていたが、琴音にデートに誘われたのでそれは来週に回す事にした。


 待ち合わせは10時に街中の噴水前だ。


 そこに近づいて行くと、光り輝く少女の姿があった。

 本当に光ってる訳じゃねぇけど、すげぇ際立ってる。


 まずそもそも美少女な上に、あんなザ・お嬢様みてぇな服装。

 目立たない訳がねぇ。


 もちろん琴音だ。

 琴音はすでにあたしを待っていたのだ。


「悪い、琴音。待たせたか?」


「あ、ミズキさん。いえ、今来たところですよ」


 琴音は笑顔でそう返してくれる。

 ちなみに今日のこいつの服装は、白のブラウスに深緑色のスカート。

 そして胸元には鮮やかな緑色のリボンが映えていた。肩からは小さなポーチがぶら下がっていて、足元は可愛らしいパンプスで味を出している。


 うん。あたしがどれだけ頑張っても意味ねぇわ。

 どうあがいたって、あたしはこいつの引き立てにしかならねぇ。


 まずだ、素材の質が違い過ぎる。こいつ普通に顔が美少女すぎるもんな。

 あたしもブスじゃねぇとは思うけど、こいつには勝てんわ。


 あたしがじっと琴音を見ていると、琴音は恥ずかしそうに尋ねて来た。


「あ、あの、どうですか今日の服。いつもは召使いさんに選んでもらうんですけど……今日は自分で選んでみたんです。変じゃ、ないですか……?」

「ああ。ばちくそ可愛いぞ」

「――っ! そ、そうですか……ミズキさんもかっこいいですよ」


 琴音は少し嬉しそうにはにかみながら、あたしを褒めてくれた。


 かっこいい、か。

 まぁ、確かにあたしの服は可愛いって柄じゃねぇわな。


「んじゃあ行こうぜ。って、どこに行きたいんだ?」

「えっと、1時から行きたい所があるのですが、それまでは普通にお店とかを見て回りませんか?」

「おっけ。そうするか」


 とりあえずどこかのショッピングモールに向かう事にしたあたし達は、二人で並んで歩き始めた。

 二人で歩いていると、色々な奴らの視線が向けられている事に気付く。


 特に男共の目がすごい。

 やっぱ琴音ってすげぇな。


「そうだ、ミズキさん」

「ん?」

「手を繋ぎませんか?」

「ああ、いいぜ――って、ん?」

「じゃあ繋ぎましょうっ!」

「ま、待って」


 あたしが何かを言う前に、あたしの手は琴音の手のひらに包まれてしまった。


「――っ!」


 や、柔らかいしあったけぇ。


「ミズキさんの手って、何だか頼りがいがありますね」


 琴音が笑顔で言う。

 まぁ、人を殴り続けてきた手だからな。

 そりゃある程度の頼りがいはあると思うけど。


 って、そうじゃないって。


「な、なんで手なんか繋ぐんだよ!!」

「え、だって女の子のお友達同士は良く手を繋いでるイメージがあるのですが」

「まぁ……そうだけどよ……」


 それは同感だけど、ああいうのは小学校までだろ。

 第一あたしは女の子なんて感じじゃねぇしさぁ。


 なんか、妙に照れくさい。


「嫌、ですか……?」

「えっ」


 琴音が悲しそうな顔になる。

 いや、お前その顔はズルいって。


 そんな顔されたら嫌だなんて言えねぇじゃねぇかよ。


「はぁ……別に嫌じゃねぇよ……」


 そう、本当に嫌ではない。

 ただ、何だか恥ずかしいだけなのだ。


「そうですかっ、では行きましょう」


 琴音はさらにギュッとあたしの手を握った。


 はぁ、しゃーねぇか。

 琴音も満足そうだし、今日は女の子になって我慢してやる。


 つーかこの場に七瀬がいなくて良かった。

 あいつがいたら絶対騒ぎまくってるとこだな。


 でも仕方ねぇか……今日はこいつに付き合ってやろう。


 あたしも琴音の手をぎゅっと握り返して、二人でショッピングモールへと向かったのだった。



 ※  ※  ※



「うんめえええぇぇ! さいっこうだな、このケーキ!」

「はいっ、すごく美味しいですね」


 あたし達はとある喫茶店に入っていた。


 そこは色々なケーキがおいてある事で有名な喫茶店で、実際ケーキも半端ない種類があって選ぶのに時間がかかってしまった。


 あたしが頼んだのは抹茶のケーキ。

 琴音はビターチョコをたっぷり使ったケーキだ。


 この抹茶のケーキ美味すぎるんですけど。

 幸せってこの事を言うんだな。


 う〜〜ん! 

うま〜〜い♡


「そういえばもう12時半ですね」


 あたしがケーキの美味しさに表情を崩していると、琴音が時計を見ながら言った。


 あたし達はこの喫茶店に入るまでに、ショッピングモールを周っていたのだ。

 主にアクセサリーや洋服を見て回った。


 今までそういうのはカナとしかした事が無かったから、琴音と回ってみてすごく新鮮だった。


 まぁ、ずっと手を繋いでいたからって言うのもあるだろうけど。


 なんか妙にドキドキしたな。

あたしはその気持ちを隠すような気分で琴音に声をかける。


「1時から行きたい所があるんだったよな? どこに行きたいんだ?」

「はい……実は」


 そう言いながら琴音は、ポーチから2枚の紙きれを取り出した。


 その内の1枚をあたしに手渡してくる。

 それは何かのチケットのようだ。


「わたくしの好きなアーティストのライブチケットです。今日の1時半開演なんです」

「へぇ〜お前こういう音楽聞くんだな」


 てっきりお嬢様ってクラシック音楽しか聞かないものだと思っていた。

 それで、どういうミュージシャンだろうか。


 あたしが知ってる奴かな。


 そう言えば、この間琴音からLINEで『好きな歌手は誰ですか?』と聞かれた事がある。

 あたしは『米津』と返した。


 チケットに書かれている情報から、アーティスト名を探す。

 すると書いてあった。



【キル・ザ・エンジェル 桜と共に散る死の宴!】



 そんな言葉が。


 キル……ザ……エンジェル……?


 なんか、聞いた事あるな。

 どこで知ったんだっけ……。


 必死に記憶を探って、その答えを見つけた。


 あ、思い出した!


 琴音とLINEを交換した時、何気なく見たあいつの一言に書かれてあったんだ。


 キル・ザ・エンジェル! って。


 バンドの名前だったのかよ。

 ていうかヤバそうだな、このバンド。


 ライブの事を死の宴って言ってるし。


「ミズキさん、行きましょう! ライブが始まってしまいます!」

「う、うん」


 あたしは大きな不安を胸に、死の宴が開かれる会場へと向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る