逆夢の獏は夢を見ない

灰月 薫

第一章

プロローグ




“あの日”犯した過ちに___甘く毒されていたかった。



* * *



には、「完璧」という言葉があまりに似合いすぎていた。


才色兼備、文武両道___いっそ詰まらないほど、完璧な人。


それで性格が悪かったならまだ良かったのに。

その上、誰にでも優しく、しかも由緒正しき家の後継だなんて……忌々しい。


彼女にどんな悪口を言おうとも、全てが妬み僻みに変わってしまう。


___その人は、そんな人だった。



「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!」


俺は口の中の血を吐き出しながら喚く。


本当に忌々しい。

なんでその人が___そんな彼女が。


「俺を___俺を!」


誰かが俺の腕を後ろから羽交締めにした。

俺を止めているのは一人かもしれない、二人かもしれない。

___それすら、もう分からなかった。


自分の拳の細かな傷から、赫い血がこぼれる。



「俺を“出来損ないの弟”だなんて言うな!!」



なんで そんな人竹花心呂が、俺の姉なのだろう。


___なんで竹花楽都は、彼女に比べて何も出来なく生まれてしまったのだろう。




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