どうあれ、こちらがピッチャーでもいいから

「どうあれ、こちらがピッチャーでもいいから勝負をやりたいのさ。早く済ませよう。それともきみは必勝でなきゃ戦えない臆病者かな?」

「……んなわけねえだろ」

「では、やろう」

「本当に早く済ませるんだな?」

「二言はない」

 ……しかたない。

 再起不能という事実を見せれば「友人を再起させる夢」など諦めるはずだ。

 靴のつま先を使ってタンポポの前にホームベースを書き、ファールラインと打席も書き、ピッチャーの立ち位置も決めた。ホームから二十三歩の距離がだいたい正式規格の一八.四四メートルになる。犬のうん○をどけるのが面倒なのでその横にピッチャーズプレート代わりの横線を引いた。

 昼休みの小学生がやるキックベースみたいなゆがんだ野球場ダイヤモンドが完成。

「ルールは二打席勝負! まずピッチャーはこの多河ヴィッキーちゃんだ!」

 と自分で言う妹は小学生のとき投手経験があり、今は三塁手だが、アンディをキャッチャーにしてさっそく投球練習を始めると一三〇キロほどのスピードが出ていた。

「薫が快打ヒットっぽいのを打てば勝ち! 四死球はノーカン! 次の打席はお兄ちゃんが投げます」

 そのとき薫は――円佳を羽交い締めにしていた。

「で、なんで円佳さんが打ちに行くんですか!」

「王乃さん! 多河さんたちはわたしと勝負したくてほ~むらん☆倶楽部に挑戦状を出したのよ!」

「そんな手紙じゃなかったでしょ!」

「受けて立たなきゃ女が廃るわ! ふんす!」

「あたしが負ければあいつら引き下がりますからっ」

「それに、人間の『生きた球』を打ってみたいもの!」

「どうせ当たりませんよ!」

「……『どうせ当たらない』?」

「わっ、それは空手の構え!?」

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