隠し球の章

「危なかったわね。ケガしてない?」

「危なかったわね。ケガしてない?」

 顔をのぞきこんでくるその少女を見て薫は胸を打たれる。

 長い黒髪が風になびいてどこか和風の香りがする。両サイドに鼈甲っぽいヘアピンをつけ、前髪は軽めのパッツン。まつ毛は長いし鼻はすっきりとして、頬の白さと肌理きめは絹のハンカチみたい。

 可憐な花びらみたいな唇で微笑を浮かべて黒い瞳で薫を見ていた。タイ女のシックなセーラー服がとても似合う、これぞやまとなでしこという美少女が薫を介抱し、膝まくらをしてくれていた。

「あの……あなたは……」

「高等部二年心堂円佳しんどうまどか、園芸部部長よ」

 鈴のように美しい声。

 二年生なのは襟のリボンが赤色なのでわかる。一年生は黄色だ。

「俺……あたしは一年の王乃薫です。はじめまして」

「こちらこそはじめましてっ」

「ところで何ですかアレ……」

「オーストラリアの殺人植物よ。第三生物部が育ててるの」

「それ絶対『三つめの生物部』じゃなくて『未知の第三生物の部』ですよね……!?」

「毎年新入生はこの花壇に近づかないようビラが撒かれるけど、周知が足りないのかしら」

「んなビラあったっけ……ハッ!? まさか先輩、第三生物部の人!?」

「大丈夫よ。わたしはただの園芸部。この『ホルモン操作系瞬間制圧スプレー』は万が一の護身用に持ってたの」

「字面がすごいし、どこで手に入れるんだろう……」

「殺人植物に効くかはダメもとだったけどね」

「とにかく助かりました。ありがとうございます」

「うふっ。どういたしまして」

 木漏れ日のようにやさしい笑顔だ。

「よければ園芸部の花壇も見ていかない? こっちは安全よ」

「! はいっ」

 ホイホイと薫はついていく。

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