不幸を背負う者7

「わぁ……なにここ?」


 一番奥の部屋は宝物庫のようになっていた。

 剣や槍、盾や鎧などの装備品、圭には価値もわからないような絵画や置物、魔道具に見えるようなものまで様々置いてある。


 『シタチュフリスガの巣を探せ! クリア!

 シタチュフリスガの巣から失われた鍵を見つけ出せ! クリア!

 王の墓所を見つけろ! クリア!

 シタチュフリスアを倒せ! クリア!


 シークレット

 王の遺品を見つけろ! クリア!』


「あっ、これがシークレットの王の遺品のようだ」


 圭の表示だけにはシークレットクエストが表示されている。

 そして部屋に入るとシークレットクエストがクリアになった。


 ということはここにある品物の数々は王の遺品なのだなと圭は思った。


「鎧のモンスター……アルデバロンを助けることがシークレットクエストの鍵だったのかもしれないねぇ」


 覚醒者を無視してまでアルデバロンを狙うシタチュフリスアを倒す。

 しかもアルデバロンは弱っていて圧倒的に不利な状況である。


 確かにシークレットクエストの鍵となっていてもおかしくない難易度の行為である。


「それでクリアになったからとどうしたら……」


 来ただけでクリアになった。

 これまでのシークレットクエストではシークレットクエストをクリアするのにどれだけ役立ったかの貢献度によって順位づけされて報酬がもらえた。


 シタチュフリスアとの戦いが貢献度に関わるのだろうか。

 そんなことを考えていると宝物庫の真ん中でぼんやりと立ち尽くしていたアルデバロンが圭たちの方に振り向いた。


「初めまして、村雨圭」


「へえ!?」


「あ、あれ!?」


 アルデバロンが言葉を発してみんなが大きく驚いた。

 日本語を発したからではない。


 それもまた驚きなのだがみんながすごく驚いたのはそこじゃなかった。

 どう聞いても今発されたアルデバロンの声が女性のものだったのである。


 アルデバロンは鎧を着ているとはいえかなり大柄な体格をしている。

 名前も男っぽいしシタチュフリスアと戦っている時に一度言葉のようなものを発した時には低くて渋い男性の声に聞こえた。


 なのに今の声は明らかに女性のものだった。

 柔らかく穏やかな女性の声でアルデバロンの見た目とはかなり程遠くて驚いたのだ。


「私はラクス。愛しき我が子よ、会いたかったですよ」


「え、え?」


「ラ、ラクス……?」


「愛しき我が子?」


 圭たちの動揺をよそにアルデバロンは言葉を続けた。

 その言葉にさらに動揺が大きくなる。


 圭の真実の目で見た時に鎧のモンスターはアルデバロンと表示されていた。

 それなのにアルデバロンは自らをラクスと名乗った。


 しかもラクスという名前には聞き覚えがある。

 圭がかつてシークレットクエストで手に入れたものにラクスの剣というものがあった。


 刃の部分が折れてしまっていて使えない剣であったが時々折れた刃のカケラも手に入っていて、少し前にはイスギスという神になった鍛冶職人が刃のカケラを集めれたら直してくれると約束もしてくれた。

 幸運を司っている女神なのがラクスである。


 目の前の鎧の存在がラクスなのだとしたら圭が抱いていたイメージとはとてもじゃないが違いすぎた。

 愛しき我が子という言葉もどういうことなのか謎だ。


「疑問が多そうですね。介入が大きくてこちらの権限も多くなったので少しずつお答えします」


 鎧なので表情は分からないが、少し笑っているような声をしている。


「まず私はラクスなのですがこの体はお借りしているものなので私本体ではありません」


 アルデバロンはアルデバロンであるらしい。

 今ラクスはアルデバロンの体を借りてこの場にいた。


「塔における試練は基本的に変えられないものですが無理をすれば多少の介入をすることができます。圭、あなたを亡き者にしようと目論む神が試練に介入したのです。そのためにシタチュフリスアは圭を狙ったのです」


「そういえばルールの変更とかなんか変なのがあったな」


 上位存在が介入しました! 塔のルールに一時的な変更がありました! という不思議な表示があったことを圭は思い出した。


「無理なルールの変更は歪みを生む。歪められたルールを戻すことはできませんが歪んだことによる穴を突いてこうして圭に会いに来ました」


 シタチュフリスアが圭を狙ったのは偶然でも何でもなかった。

 圭のことを狙うように他の神によって仕向けられていたのである。


 ただ本来シタチュフリスアはアルデバロンと戦うようになっているのが塔のルールであった。

 それを無理やり圭を狙うようにしたのだ。


 これがルールの一時的な変更というやつである。

 ラクスは歪められたルールの穴を突くようにしてアルデバロンの体を借りて圭に会いに来たのであった。


「どうして俺に? それに愛しき我が子ってなんですか?」


 ラクスという存在が圭に近いことは感じていた。

 剣のこともあるし圭の能力は幸運の才能値が神話級、さらに才能には類い稀な幸運なんてものもある。


 幸運を司る女神ラクスとはどこか関係があってもおかしくない。

 だが我が子とまで言われるほど関係があるようには思えなかった。

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