シャリンパンチ!1

「どうだ? キツいところはないかい?」


 シャリンに必要なもの、それは周りから見ても違和感のない格好である。

 悪魔でもあるしA級覚醒者と認定されるほどなので肉体としての強度も高いだろうが、見た目子供がなんの装備品もなくゲートの中に入っては怪しすぎる。


 ただ子供用の装備品など基本的には売っていない。

 子供も覚醒者として活動できることにはなっているけれど普通は活動させないからである。


 活動し始めて大体高校生ぐらいなので一番小さいサイズを選んでもシャリンにとっては大きすぎるのだ。

 そのために周りから見ても覚醒者として違和感のない装備ぐらいは用意してあげる必要があった。


 ここで圭たちには素敵な工房がある。

 カレンの家でもある八重樫工房は覚醒者用の装備を作っている。


 圭たちの装備品で塔などから手に入れた魔道具を除いたものは八重樫工房製のものであった。

 和輝に依頼していたシャリン用の装備ができたと連絡があったので取りに来た。


 シャリンの動きを阻害しないように機能性重視で作られた防具はシンプルな見た目をしていてとても軽い。


「うん、大丈夫!」


 軽く体を動かしてみても全く邪魔になるところがない。

 シャリンがニッコリと笑うと和輝も嬉しそうに笑顔を浮かべる。


 シャリンは女性には割と敵対的だけど男性には柔らかい態度を取ることもあった。

 その基準がどこにあるのか圭は分かっていないが実はシンプルだった。


 圭に近づく女性はダメ。

 男は普通で、圭のためになる男なら友好的といういかにも圭中心な判断基準なのであった。


 それでも手を出すと怒られるから圭を害したりしなければ睨みつけるだけに留まっていた。

 和輝は圭のためになる男の人だからシャリンの態度は柔らかい。


 シャリンにニッコリとした笑顔を向けられると和輝もデレデレになってしまう。


「防具は良さそうだな」


「私も手伝ったんだからな」


「……むぅ、ありがとう」


「へへ、どういたしまして」


 シャリンの装備品作りではカレンと優斗も手伝っていた。

 夜滝たちに対してもシャリンの態度はちょっとだけ柔らかくなっている。


「問題は武器の方だな」


 防具はとりあえず着ておけばいい。

 見た目上おかしくなきゃ周りを誤魔化せる。


 だから防具さえあれば良かったのだけど一応武器も用意することにした。

 魔界で見たシャリンはひとまず本能で拳を振り回す戦い方をしていた。

 

 剣など武器の扱い方は知らない。

 さらに問題が一つあってシャリンの力が強すぎるということがあった。


 日常生活では力を抑えておけるのだけど少し力を入れると剣なんか簡単に折れてしまうのだ。

 あまり繊細なコントロールを必要とする武器は無理だということになった。


 そこでシャリンには二つの武器を用意した。

 一つは金属の棒。


 刃はつけず、遊びの無いただの金属の棒で振り回しても簡単には折れたり曲がったりしにくい殴打武器としてシャリンに持たせることにしたのである。


「こっちの方がいいかも」


 ただシャリンが気に入ったのはもう一つの武器だった。

 もう一つの武器はナックルガードである。


 拳による攻撃の際に拳を保護してくれる役割を担う半分防具、半分武器のようなものだった。

 あまり使い慣れない棒を振り回すよりも拳で戦う方がシャリンとしても楽。


 拳を振るいながらシャリンは自慢げな顔を圭に向ける。


「まあこんな感じで大丈夫そうだな」


 見る人が見たら子供に拳で戦わせるなんてと怒り出しそうだが目立たぬように活動すれば問題はないだろう。


「圭のために頑張るからね!」


 なんとなく言葉遣いなんかも子供っぽくなったシャリンの頭を圭は撫でてやったのであった。


 ーーーーー


「今回はC級ゲートを予約しました」


 シャリンの実力試しのためにも重恭にゲートを探してもらっていた。

 良い機会であるし重恭にも圭たちが強くなって等級がB級になったことを伝えた。


 とても驚いてはいたものの挑戦するゲートの等級が上がっていっていたので薄々何かがあるのだろうことは気づいていたらしかった。

 重恭としてはお金の心配をしなくてよくなるぐらいなので歓迎すべきことである。


 でも無茶はしないでほしいとだけ重恭は優しい目をして圭に答えていた。

 他で働くことも考えていたのだけどB級覚醒者の集まりとなったのならお金の心配はいらなくなった。


 なので重恭は完全にリーダビリティギルドのサポートや事務として働くことに決めたようだ。

 今でも重恭に色々と任せているし重恭ならば問題はないと圭以外のみんなも賛同してくれた。


 今回実力試しのために重恭が見つけてきたのはC級ゲートであった。

 少しばかり遠かったけれどむしろ他の人に見られる心配のない良い感じのゲートだ。


「出現するのはハンマーブローツリーと呼ばれる樹木型のモンスターです。鉄球にも似たコブが枝の先に生えていてそれを振り回して攻撃してきます」


 重恭がタブレットでハンマーブローツリーの映像をみんなに見せる。

 過去にも他の国のゲートで確認されたことがあるモンスターで見た感じ特殊な能力もない難しくはなさそうなモンスターだった。

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