圭の能力1

「村雨さん……一つお聞きしたいのですが現在の覚醒者等級は本当にD級ですか?」


 覚醒者協会を訪れた圭は伊丹に険しい視線を向けられていた。

 ずっと引っかかっていたことがある。


 圭は最初G級だった。

 しかしいつの間にか圭の覚醒者等級は上がって覚醒者協会では圭をD級だと把握していた。


 再覚醒というものはあり得ない話ではない。

 けれどそれにしても等級が一つか二つ上がる程度のものが多い。


 にもかかわらず圭はG級からD級に上がった。

 かなり特殊な例であり、さらには等級の上がり方も急にD級なったのではなくE級になってと段階を踏むように強くなっている。


 これもまた特殊すぎる例である。

 ただそれは再覚醒の途中であるのだろうと覚醒者協会は思っていた。


 圭の等級が低いこともあって大きく注目されてこなかったのである。


「今回アメリカでの健康調査が行われた時に覚醒者等級検査の一部も取り行ったようです。村雨さんが自らご協力なさったものではないので結果の正確性は保証できないのですが……今の村雨さんはB級相当の力があるというのが向こうの検査で出た結果です」


『村雨圭

 レベル77

 総合ランクC

 筋力C(英雄)

 体力B(伝説)

 速度C(英雄)

 魔力C(一般)

 幸運B(神話)

 スキル:真実の目、導く者

 才能:類い稀な幸運』


 圭はこっそり自分のステータスを確認する。

 アザードの船、ベルゼブブ、魔界での戦いを経て圭のレベルは大きく上がっていた。


 確かに能力はいつの間にか総合ランクC、覚醒者等級でいえばB級になっている。

 B級にまでなると国家でも保護の対象になるほどの高等級覚醒者である。


 流石にB級にまでなってしまえば異常さを見過ごすことは難しくなる。

 そうなると圭の周りの人も異常であることに伊丹は気がついた。


 夜滝は最初F級だった。

 波瑠も登録時はE級、カレンや薫も低級覚醒者であった。


 なのにD級ゲートや挙句にはC級ゲート攻略記録もある。

 となれば全員少なくともD級以上、C級やB級なことだって考えられるのだ。


「これまで村雨さんにはいろいろなことがありました。それでも私はなんとか処理してきましたが……もう周りの目を誤魔化すようなことはできません。どういうことか教えていただけますか? まさか覚醒者等級を誤魔化していたのですか?」


 検査を誤魔化して覚醒者等級を低く見せることが可能かどうかは難しいところであるが、できないと言い切れるものでもない。

 圭が犯罪に関与した証拠はないけれどあまりにも多くのことに巻き込まれているために伊丹でも疑いを持たざるを得ない。


 圭は何者なのか。

 あるいは圭たちは何者なのか。


 もしかしたら圭を収監することにもなりかねないと伊丹は思っていた。


「……分かりました。これまで助けてくれた伊丹さんだからお話しします」


「…………何か秘密があるのですね?」


「俺には鑑定スキルがあります。物の鑑定の他に覚醒者の能力や才能を見抜くことができるスキルがあるんです」


「能力はともかく才能ですか?」


「そうです。そして一部の人は覚醒時よりも強くなることができる、ということが分かったんです」


「強くなれる……」


 圭の言葉に伊丹は驚きを隠せない。


「俺もそうですし、俺のギルドに所属している夜滝もカレンも波瑠も薫も……全員強くなれる覚醒者なんです」


「ちょ……ちょっと待ってください! 覚醒者は覚醒した時から強さが変わらないというのは大体における共通認識です。村雨さんはそんな中でも強くなれる覚醒者を見抜けるということですか?」


「その通りです」


 レベルがあってモンスターを倒せば強くなれるとか覚醒時に多くの人はある程度レベルを与えられていて強くなるのは難しいとかそういうことは面倒なので説明から省く。


「そんなこと……」


「実際俺は強くなりました。本当にB級まであるのかは分かりませんがそれぐらいの力はあると思います。他のみんなもC級……B級近くまできています」


「では再覚醒ではなくただ強くなっていっている途中だったということですか?」


「そうですね。色々なことに巻き込まれるのは俺のせいではなく……ただ運が悪いというか」


 トラブルなんて避けるに越したことはない。

 圭が巻き起こしているものでもなければ自ら探して首を突っ込んでいるものでもない。


 トラブルに首突っ込むことに怪しさもあるようだけどそれは強くなっていることとは全く無関係の事象である。


「……リーダビリティギルドの覚醒者の再検査をお願いします」


 悩んだような伊丹はひとまず圭の話が本当なのか確かめることにした。

 本当に強くなっているのなら圭は強くなれる覚醒者を見抜くことができる唯一無二の能力を持っているということになる。


「この話、上にしてもよろしいですか?」


「……あまり多くの人に知られるのは避けたいです」


「では秘密裏に一部の人に話しましょう。本当ならば非常に重大な案件です」


「分かりました。伊丹さんのこと、信頼します」


 圭の能力のことはいつかバレるだろうと思っていた。

 みんな強くなっているし隠しようもない時がいつかくる。


 不意にバレて問題になるぐらいなら今打ち明けて秘密裏に話を進めてしまう方がいいだろうと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る