現世に帰って1

 アップダウンの激しいジェットコースターを十倍速で乗ったような気分だった。

 世界がグルグルとしながら急加速したり非常に低速になったりと訳のわからない感覚に襲われた。


[……人がいるぞ!]


[なんでこんなところに?]


「うぅ……」


 奇妙な感覚がおさまった後も圭は気分が悪くて目すら開けられないでいた。

 どこか遠くから人の声のようなものが聞こえてきたが動けない。


[おい、大丈夫か?]


「う……ここは……」


[これは……日本語?]


[日本語話せるやつはいるか?]


「帰ってこれたのか? それに……みんなは……」


 意識が混濁していて状況が理解できない。

 目も霞んでいて今どこにいるのかもよく見えていなかった。


「聞こえますか?」


「う……」


「私はユウカ・ウィリアムズと申します」


「ユ……ユウカ……さん?」


「ああ、良かった。聞こえているようですね」


 その後どうなったのか圭はよく分かっていない。

 体が持ち上げられて何かに乗せられたような感覚があって、そこでまた意識を失ってしまったのだった。


 ーーーーー


「うぅ……」


 目を覚ますと知らない天井が見えた。


「なんか重い……誰?」


 胸からお腹にかけてなんだか重たいと思った。

 何かが上に乗っている。


 ベッドに寝かされている圭が視線を下げると女の子が圭の上でスヤスヤと寝ていた。

 女の子が誰であるのか見覚えがなくて圭は眉をひそめた。


「ん……ケイ?」


 圭が起きたことを感じ取ったのか女の子も目を覚ました。

 確かに今女の子は圭の名前を呼んだ。


 なぜ名前を知っているのだろうかと圭は疑問に思う。


「ケイ!」


 圭と目が合って女の子はギュッと首に手を回して抱きしめる。


「赤い瞳……まさか」


 女の子の目は真っ赤であった。

 まるで吸い込まれてしまいそうなぐらい血のような真っ赤な瞳で圭のことを愛おしそうに見つめている。


「シャリン……なのか?」


「うん、そうだよ」


「……えっ? なんでそんな格好……それにどうしてここに……」


「フィーネモイル!」


 魔界でのシャリンは成人したくらいの女性の見た目をしていた。

 対して今圭の上に乗っているシャリンは子供であった。


 相変わらず美人な顔つきをしているけれどかなり幼いし、身長も相応に縮んでいる。

 ついでにフィーネも服の中からチラリと姿を覗かせる。


「そもそもここはどこなんだ……シャリン、ちょっとどいてくれないか」


 体の状態が良くない。

 子供の体格とはいってもシャリンもそれなり重たくそのまま起き上がるような体力がなかった。


「よいしょ……ここは……?」


 体を起こした圭は部屋の中を見回す。

 どうやら病室のようであるということはすぐに分かった。


「英語……」


 壁に貼ってある注意書きのような貼り紙の文字は英語であった。

 他のものも全て英語で書いてあり日本語の表記はない。


「君はシャリンでいいんだよね?」


 ナースコールを使って誰か呼ぼうと思ったのだけどその前にしっかり確認しておくことがある。

 シャリンの存在だ。


 窓の外から見える景色は魔界のものではなくちゃんとした圭たちの世界の光景に見えた。

 門に入ったことも覚えているし、病院にいることなどからも考えても今いるのは魔界ではなく現世と呼ばれていた圭たちの世界である。


 ならばどうしてシャリンがいるのか。

 ちゃんとお別れをして門に飛び込んだはずなのになんで圭の上で寝ていたのか非常に疑問であった。


「ケイと一緒にいるにはこっちにくればいいと思った。だから私も門に入った!」


 どう? とニンマリ笑ってシャリンは胸を張る。


「えっ?」


「ふふん、閉まる直前に飛び込んだ」


「ええと……」


 大人しくしていたのはこのためだったのかと圭は察した。

 魂の契約なるものがあるからこうして姿を現したのかと思っていたがシャリンは門を通してこちらの世界に来ていたのである。


「まあこっちにいる理由は分かったとして……なんで子供の姿なんだ?」


 門を通ったからこちらの世界に来たということはひとまず理解した。

 けれどもどうしてシャリンが子供の姿であるのかは理解できない。


「……分かんない」


 小さくなった理由はシャリンにも分からなかった。


「…………あとでルシファーに聞いてみるか」


 本人にも分からないのなら圭にも分かるはずがない。

 ここで考えていても理由など思いつくはずもないから理由が分かりそうなルシファーに聞いてみることにして疑問は頭の隅に追いやる。


「フィーネの方は変わりないか?」


「ヘイキ!」


 いつもの四足姿のフィーネには特別変わったような感じは見られない。

 門を通った時の奇妙な感覚もフィーネにはあまり影響を与えていないようである。


「そうか、ならよかった」


「むぅ、私も撫でて」


「はいはい」


 圭がフィーネを撫でるとシャリンが不服そうな顔をして頭を差し出す。

 なので圭はシャリンの頭も撫でてやる。


「そろそろ人を……あっ、すいません……あれ?」


 一応シャリンがシャリンであるということは確認できた。

 あとは今どこにいてどんな状況であるのか確かめるために人を呼ぼうと思ったら部屋に人が入ってきた。


 看護師のようであったが起きている圭を見てすぐにまた部屋を出ていってしまった。

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