影響ここにもあり3
「ともあれ事情を聞こう」
「でもあいつらは何も話してくれませんよ? 周りにいる悪魔は何も知らないようですし」
力づくでの突破は最終手段である。
封鎖の中で何が起きているかも分からないのに無理に突破していくことはできない。
やはり情報が必要であるとルシファーは言う。
しかしここまで封鎖されているところを回ってきてどこも様子は同じで、封鎖の近くにいる悪魔に声をかけても封鎖している悪魔に声をかけても情報は得られなかった。
「いかに真面目に仕事しているように見えても悪魔は悪魔。人とは違う」
「どういうことですか?」
「圭、まだ食料はあるよな?」
「もちろん、たくさんありますよ」
「いくらかくれてやればいい。人ならば応じないものもいるだろうけど悪魔なら応じてくれるだろうて」
ようするに悪魔に対して賄賂を渡して情報を引き出そうということなのである。
「なるほど、確かにそれなら話してくれそうですね」
正面から話を聞いてダメなら少し贈り物をしてやればいい。
こんなところにいる悪魔に責任感なんてものはないから賄賂を渡せば通ることはともかく話は聞かせてくれる。
「食料はまだあるから試してみようか」
封鎖をしている悪魔も事情を知らない可能性もある。
ダメで元々ぐらいのつもりで賄賂作戦を実行してみることにした。
悪魔が集まっているところは避けて他の悪魔がいない封鎖を狙う。
「なんだ、貴様!」
近づいてくる圭を見て悪魔が顔を険しくする。
四つ目がある猿のような顔をした体つきのいい悪魔で、ここまでくるとモンスターとの違いも分からなくなってくると圭は思った。
狭い通路なので封鎖をしている悪魔はこの猿の悪魔一体しかいない。
「門で何が起きてるんですか?」
「何もない! さっさと立ち去れ!」
「教えてくださるならタダでとは言いません」
「……むっ?」
そう言いながら圭が取り出したのはカンパンであった。
小さめの缶に入ったカンパンで長期保存もきくために袋の中に入れてあった。
「それは……」
「人間の食べ物です」
猿の悪魔が思わず生唾を飲んだのを圭は見逃さなかった。
「教えてくださるならこれを……二つ差し上げます」
「ふ、二つもだと……」
動揺した猿の悪魔はペロリと舌で口を舐める。
人間の食べ物の味を想像したのだ。
「……いらないなら」
「いや待て!」
「もし。もしそれを渡されたら俺は独り言を呟いてしまうかもしれない」
誰も見ていないと油断はできない。
しかし人間の食べ物が欲しい猿の悪魔は機会を逃すこともできなかった。
「これは聞いた話で……今俺はただ独り言を言っているだけだ」
圭からカンパンの缶を二つ受け取った猿の悪魔はニヤニヤとしながら大声で独り言を言い始めた。
「少し前、急に門の様子がおかしくなった。ガタガタと門が揺れ出して内側から何かがぶつかるような音がしていたんだ。調べてみるとどこかのバカが現世と魔界繋げ、その通り道を崩壊させたらしい」
どこかのバカってベルゼブブのことだろうなと圭は思った。
「現世と繋がる通り道が崩壊したことで同じく現世に繋がる門にも影響が出ていたんだ。何が起きてるのか分からなかったが……あまりにも門の中から音がするものでモルデベルド様が門を開けて確認しようとしたんだ」
「それで?」
「門を開けてみると中からデカい金属の塊が飛び出してきたんだ。なんだったか……人間の…………船? だがなんだかの残骸らしい。飛び出してきた時に巻き込まれて死んだ奴もいる」
「ふむ。流入現象が門の方にも起きていたらしいな」
「そして門の中からあの紫の奇妙な魔力が漏れ出している。あれも門の一部らしくて触れると途端に体がどこかに飛んでしまう。今門は現世にも繋がっているが不安定で魔界全体のどこかにも繋がっている状態なんだ。だから他の悪魔を近づけさせない」
ベルゼブブが作り出した現世と魔界の繋がりが崩壊した。
一応感覚的には現世と魔界の間にも空間というか、世界のような狭間があるらしい。
ベルゼブブが作り出した入り口にも現世と魔界の狭間があって、現世と繋がる門の中にも狭間がある。
そしてその狭間はどちらのものも繋がっているらしくてベルゼブブが作り出した方の狭間の崩壊の影響を門が受けていた。
結果としてベルゼブブの作り出した入り口で吸い込まれた船の残骸が門から飛び出してきたのである。
そして崩壊した狭間は門の外にも漏れ出した。
紫の雲が狭間の一部で触れると魔界や現世に飛ばされてしまうようだった。
「原因は分からない。モルデベルド様にもだ。だから原因が分かってどうにかできるか、あれが収まるまで門には近づけない」
なぜ狭間が崩壊を起こし、なぜ狭間が漏れ出して、なぜ狭間に触れるとどこかに飛ばされてしまうのか。
全てが初めてのことで悪魔たちにもその原因は分かっていなかった。
ただ触れると飛ばされるのは触れた部分だけになって腕が消し飛んだ悪魔なんてものもいて、流石に危険極まりないようである。
「門にも詳しい魔学者が来て調査してる……その話では人間時間で100年もあれば元に戻るらしい」
「100年!?」
悪魔はなんでこともないように100年などと口にしたが圭たちにとって100年など生きてはいられない。
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