影響ここにもあり1

「にしても……」


 地図を手に入れた。

 だがそれで万事解決とはいかなかった。


「どっちがどの方角だ?」


 地図というものは大体の場合方角とセットである。

 東西南北が定まってこそ地図も読めるのであるが魔界の地図に方角というものは書いていない。


 ルシファーに聞いたところ魔界には方角という概念もない。

 当然ながらコンパスもないし、あっても北なんて向かないだろうと言う。


 となると目的の門がある町がどちらの方角にあるのか圭には分からなかったのである。

 最初に地図を渡された時の上の方向が北だとも限らないし町から向かってどの方角が北なのかも方角がないから分かりもしないのだ。


「進みようがないな……」


 適当な方角に進んで門のある町と逆側であったら時間を浪費してしまう。

 それどころか逆に進んでいると気づくことも難しい。


 ある程度方向を決めて進みたいところであるけれど周りを見ても町以外は変化に乏しい景色が広がっている。

 地図と地形を照らし合わせて進む方向を見つけたいのだけどそれすら難しい。


「とりあえずこれを探してみればいい」


 ダンテは地図上にある家のマークを指差した。

 今いる町からそう遠くないところにあるようで町とは違ってただ一つ家のようなマークがあるだけなのだ。


「何があるのか分からないけれど何かはある。これと町とを照らし合わせて方向を探ろう」


 今いる町が地図上でどこにあるのかは分かっている。

 もう一つ何か目印となるものが分かれば二つのものの位置から進むべき方向を導き出すことができる。


 圭たちは町を中心にしてグルリと周りを回ってみて地図に書いてある家を探してみることにした。


「……あれじゃないか?」


 町が見える程度に離れてそこから町と一定の距離を保つように歩いた。

 町の反対側まできたところでジャンが遠くに大きな建物があるのを見つけた。


 これまでは町の逆にいたから見えてなかったのだ。


「……デカくないか?」


「デカいな」


 少し家の方に向かってみて違和感に気がついた。

 近づくほどに家が大きく見えてくる。


 離れていた時には普通の家に見えていたのだが離れていたから普通の家に見えていたのだ。


「これほどまでのものなら地図に載っていてもおかしくないな」


 まるで城のような見上げるほど巨大な家が立っていた。

 見た目は町中にもある黒い土の家なのにとにかくデカいのである。


 これならば地図に載っていてもおかしくない。


「じゃあ……」


 圭は町を中心に家が北の方角に来るように地図を回転させる。


「あっちの方向かな」


 門のある町は今いる町から見て東の方角にある。

 家を見つけたおかげで進むべき方向が見つかった。


「どこかへいくのも一苦労だな」


 ジャンは大きくため息をついた。

 進み出すべき方向すら問題を乗り越えねばならないとはこれからが思いやられる。

 

 門のある町の方向に歩き出したけれど地図の縮尺も分からない以上どれぐらい時間がかかるのかも分からない。

 すぐに着けばいいけれど長いこと歩かねばならないならかなり面倒だと思わざるを得ない。


「空気悪いし……早く帰りたいよな」


「悪魔の世界など長くいていい場所ではないからな」


「ピピ……オフロハイリタイ」


「俺もだよ……」


 ーーーーー


「もう五日……まだ着かないのか」


 門のある町の方向に向かって歩き始めてすでに五日が経った。

 魔界では日が暮れたりしないので昼夜の概念がない。


 時計で時間を確認しながら一日のリズムを保って移動をしていた。

 魔界には魔獣と呼ばれる悪魔以外の知能のないモンスターがいるけれど、ダンテや圭、ルシファーの悪魔の気配に怯えて近づいてこないので夜の時間もあまり心配なく休むことができた。


 汚れたような空気の中を歩いていると体も汚れてしまう。

 流石にそのままでは気持ち悪いのでダンテに魔法で水を出してもらって体をタオルで拭いたりして少しの気分転換でもして気持ちを下げないようにしている。


「ピッピッピ〜」


「こやつは常にご機嫌だな」


 切り札フィーネであったけれど流石に数日も大人しくしているとフィーネも飽きてしまった。

 だからもうフィーネも自由にすることにした。


 ジャンはフィーネにすごく驚いていたけれど、もう説明もめんどくさくなった圭は自分が従えているゴーレムだよってど正面から説明した。

 あまりにも正面突破すぎる説明と魔界にいるだなんて常軌を逸した状況にいるせいかそんなこともあるのだなとジャンは納得していた。


 普通の状態だったら納得していなかっただろう。

 人型になったフィーネはご機嫌に鼻歌を歌いながら歩いている。


 どんな時でもテンション変わらずにいられるのはフィーネのいいところである。


「地図間違ってるんじゃないのか?」


 あまりにも着かないから地図が間違っていることや進むべき方向が違っていたなんて可能性が頭をよぎる。

 近くに悪魔でもいれば聞けたのだけどすれ違うこともないのでただ信じて歩くしかない。


「間違っててもこれを信じるしかない」


 仮に間違っていたとしたら大問題であるが、間違っていたとしても他には適当に歩く以外の選択肢はないのだ。

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