噴き上がる風2
「知識の泉が?」
「知識の泉は知識であり、神でもある。他の神とは少し違う存在であるがな。その話は本来知識ではなく力を使っていないお主には伝える必要のないこと。それでもそうして伝えてきているということはお主を気に入っているのだろう」
「俺のことを気に入ってくれている……」
言葉の意味は理解できるけれど実感としてはなかなか分かりにくい話である。
けれどもそう言われて思い返してみれば圭にだけ見える不思議なメッセージ表示があったこともあった。
もしかしたらあれが知識の泉の行為によるものだったのかもしれないと思った。
「そのメッセージが来たことよりも問題はその内容だな。ゆかりのある悪魔とは何のことか分かるか?」
「そんなの分かるわけが……目を持っていたヘルカトぐらい……」
悪魔と関わりなんてない。
唯一思い当たるのは真実の目と元となったヘルカトぐらいである。
他に関わりのある悪魔なルシファーは目の前にいるし思いつく悪魔なんて他にいるはずがなかった。
「私もあやつのことはよく知らんからな」
ヘルカトは準魔王と呼ばれるほどの力を持った存在だった。
そもそもヘルカトは悪魔の種族名でありヘルカト自身にも名前があるらしいが、ルシファーはそのことも知らないでいた。
調べれば分かるのだろうが死んだ悪魔について調べても意味がないので興味もなかった。
「もしかしたらそのヘルカトの関係者がいるのかもしれないな」
「……何か問題になるかな?」
「分からん。見ているだけなら問題にはならんが動いたら問題になるかもしれない」
「……結局どうなるか分かんないってことか」
「そうだな。まあ心配をするな。さっさと魔界を出てしまえばいい」
手を出そうとしているにしても悪魔が手を出せるのは魔界にいる間の話となる。
魔界から出てしまえば手を出すことなどできなくなるし圭に注目することもできなくなる。
「相手が何か分かんないけど早く行ったほうがよさそうだな」
知識の泉が警告を送ってくれた。
そのことは心に留めつつ圭は先を急ぐことにした。
「あれは……」
「悪魔の町だ」
「悪魔の町だと!?」
歩いていくと遠くに建物のようなものを見えた。
ルシファーに何なのかと尋ねるとそれは悪魔の町であった。
見た目的にはかなり不思議な感じで石でできた家のように見える。
ジャンは悪魔の町ということにまたしても驚いている。
「考えてもみい、お金があるのに町ぐらいなくてどうする?」
「…………確かに」
お金があるということは取引があるということだ。
取引があるということは何か物が集まる場所があってもおかしくない。
お金という文化があるなら家などを作りある程度集まって暮らすような知恵があるのも当然といえる。
「驚くことばかりだ」
「悪魔が野蛮だと思っておったか?」
「……そうだ」
「野蛮だということに否定はできん。しかし悪魔は人より生まれた物だからな」
「どういうことだ?」
「神と違って悪魔は人の欲や願い、薄ら黒い考えなどから生まれた存在だ。今はこうして力を持って独立したようになっているが人の影響を大きく受けることに変わりはない。人が増え、文化的な発展を遂げるにつれて悪魔も人の影響を受けて同じく文化的な考えを持ち始めたのだ」
町やお金というのも悪魔が文化的な考えを持っている一つの証左である。
「ただ闇より生まれる存在であったが今は子をもうけるようなものもおる」
「子供……」
「昔は雌雄などなかったり私のように好きに変えられるものだったがいつの間にか悪魔にも雌雄の区別がはっきりしているものが出てきた。区別なくても子は作れるがな」
ジャンは少し気が遠くなりそうだった。
悪魔に対して描いていた印象が思い切り覆された。
だからと言って悪魔に対する考えが変わることはないけれどかなり意外だったことは確かである。
「子を産むと力の一部を奪われるなんていうこともあるから人のように産んで増えるわけではない」
「何だか悪魔のこと知れて面白いな」
それを知ったからといってなんだという話ではあるがこれまで敵であるとばかり思っていた悪魔の世界の話を知れて楽しくはあった。
きっとこんな話を他でしてもイカれてるのかと思われるだけだろうなと圭は思った。
「ルシファー様、一つお聞きしたいのですが」
「なんだ?」
「この世界に食料や水はあるのですか?」
少し喉が乾いたなとダンテは思っていた。
空気は乾燥しているし少し砂のようなものも飛んでいる。
今はまだ我慢できるけれどそのうち水分補給が必要になってきそうである。
「ないけどある」
「ないけど……ある?」
「なんでそんな謎かけみたいな答えなんだ?」
「悪魔は元来食事も取らないし水も必要としない。だが昔から人間を食らったり人間の願いを叶える対価として供物を受け取ったりしていた。だから必要なくとも食べることはできた。この世界に食べ物はない。だが人間からの供物として受け取ることでそうしたものが存在するのだ」
「つまり……」
「貴重品ということだ」
「なるほど……」
人にとってはかなり酷な世界。
食べ物がそこらへんにあるとは思っていないが手に入れるのも難しそうだと聞いてダンテも顔をしかめる。
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