暴食の悪魔2

「我が糧となれ!」


 ベルゼブブの体から黒いものが放たれた。


「な、何だあれ!」


「うわぁー!」


 ベルゼブブの体から放たれた黒いものが見えない壁に群がる人たちのところに飛んでくる。

 それは地下牢で遭遇したよく似ているハエのモンスターのブブフライであった。


「ぎゃああっ!」


「助けて!」


 ブブフライが一般人たちを襲い、阿鼻叫喚の状況となる。


「カレン!」


「こっちこい!」


 このままブブフライを放置しておいては一般人がやられてしまう。

 一般人がやられるほどにベルゼブブに力が吸収されて降臨していられる時間が長くなる。


 一般人を守るため、ベルゼブブを早く帰すためにもブブフライを倒す必要がある。

 カレンが魔力を放ってブブフライを挑発する。


「……数が多すぎる!」


 カレンの魔力に挑発されたブブフライが寄ってくるけれど挑発しきれないブブフライもまだ多くいて人が襲われている。

 外という環境も空を飛べるブブフライにとって都合がよかった。


 地下牢では限られた場所しかなかったのでブブフライが飛べても大きな問題にならなかった。

 けれども外では自由に飛び回ることができるので厄介さが大きく増している。


 カレンの挑発も届かないし戦う上でもかなり厳しい。


「村雨さん!」


「伊丹さん!」


「どうなっているのですか?」


 刻一刻と状況が変化していく。

 何が起きているのか圭からの伝聞でしか把握していない伊丹は再び状況が分からないでいた。


「悪魔教が悪魔を呼び出したみたいです」


「あの巨大なハエみたいなものですか?」


「その通りです。あっちのハエたちはあのデカいハエが呼び出したものです」


 圭は簡潔に状況を説明する。


「あんなものどうしたら……」


「あのデカいハエは異端審問官たちに任せましょう。それよりもあのハエを何とかしなければいけません」


「……分かりました。全員ハエのモンスターから一般人を守るのです!」


 覚醒者協会の職員も覚醒者は多い。

 特に今回は悪魔教が関わっているかもしれないので覚醒者協会も覚醒者だけを引き連れてきていた。


 伊丹の指示で覚醒者協会の覚醒者たちが動き出す。


「大地の力!」


「みなさん、この中に逃げてください!」


 カレンはスキルを発動させて土のドームを作り上げる。

 1箇所入り口を作っておいて一般の人たちはそこから中に逃げ込む。


「行かせないよ!」


 土のドームに逃げ込もうとする一般人を追いかけるブブフライの羽を波瑠が切り落とす。

 空を飛べる波瑠ならばブブフライも問題なく戦える。


「ケイ、ブキ」


「あっ、そうか」


 ユファが圭の戦うブブフライを蹴り飛ばして手を差し出す。

 一応ユファの分の武器も圭が亜空間の収納袋に入れてきていたのであった。


 タイミング的に渡す機会がなかったがこうして戦いになるなら武器は必要である。

 圭は袋に手を突っ込んでユファの弓を取り出した。


「アリガト」


 ユファは圭に向かってウィンクするとすぐさま弓を構えて弦を引く。

 魔力の矢が伸びて弓につがえられ、パッと手を放すと空を飛ぶブブフライに飛んでいく。


 矢はブブフライに当たると爆発し、ブブフライは容易く爆散して死んでしまった。

 ユファだけではなくかなみや伊丹たち覚醒者協会の尽力もあって一般人は何とかドームの中に逃げ込んだ。


 ドームの中では薫が怪我をした人の治療を始めていた。

 どうしても助けられなかった人はいるけれど助けられた人の方が多い。


 ブブフライそのものは弱いので守るべき一般人がドームに避難してしまえば戦うこともそれほど負担なことではなかった。


「うわっ!」


 ブブフライの数も目に見えて減ってきた。

 カレンが引きつけたブブフライを切り裂いた圭の前にいきなり人が落ちてきた。


 土のドームに一度衝突して飛んできたその人は若い外国人男性だった。

 綺麗な青い目をしていて端正な顔立ちをしているが、今は痛みに顔を歪めている。


「薫君、こっちをお願い!」


 ベルゼブブと戦っている異端審問官だろうと圭はピンときた。

 ならばこの人が抜けるとダンテが危ないということもすぐさま考えた。


 薫を呼んで異端審問官を治療してもらう。


[君は……神の力を感じるな。ただ嫉妬深さも感じる……]


「何で嫉妬深さなんか……」


 薫は英語がわかるので異端審問官が言った言葉も分かっていた。

 神の力は分かるけれど嫉妬深さを感じる理由なんて分からない。


 圭が他の女性と近いとムカムカしたものを感じるけれどそのぐらいである。


[助かったよ。罪のない人のため戦ってくれる貴殿らには感謝する]


 さらっとお礼を言うと異端審問官はベルゼブブに向かって走っていく。


「村雨さん、この後はどうするんですか?」


 ブブフライもかなり減った。

 ただまだ外には出られないようで伊丹は再び圭に指示を仰ぎにきた。


 今は状況を一番分かっていて冷静に判断できる圭に従った方がいいだろうと伊丹は思っている。


「あのデカいハエが出ていられる時間にも制限があります。だからその制限時間が来るまでどうにか耐え抜くしかありません」


 このままブブフライを倒していけば耐えられるだろうと圭は感じている。


「ではこのままハエを倒していきましょう」


「そうですね。それがいいと思います」


 ベルゼブブに下手に手を出せば圭たちの方が危ない。

 ここはブブフライを一掃して大人しく戦いを見守る他はない。

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