潜入、暴食の悪魔の城10

「伊丹さん!」


 周りに指示を出している伊丹のことをたまたま見つけた。


「村雨さん! かなみは一緒じゃないんですか?」


「かなみは船を降りた時にどっかに……」


 船を降りる時は一緒にいたのだけど用があるとかなみは降りてからどこかに行ってしまった。

 A級覚醒者なので一人でどこか行っても心配はしていないがこんな時に用事とはなんだろうと気になる。


「まあ、あの子のことだから平気でしょうね。それよりも村雨さんが言っていた通りに騒ぎになりましたね……」


「異端審問官なんて予想外でしたけどね……」


「それも頭の痛い問題ですね」


「異端審問官が来るってことは知っていたのですか?」


「私は知りませんでしたが実は上の方に話があったようです。アザード・ロドリゲスが悪魔教の可能性があるから戦闘の許可が欲しいと」


 けれども証拠もなく異端審問官の活動を許容するわけにはいかない。

 それになぜわざわざ日本国内でそんなことさせねばならないのかと日本側は異端審問官の要求を突っぱねた。


 しかし異端審問官は無理矢理乗り込んできたのである。

 圭の話や異端審問官の要求があったので問題が起こるかもしれないと事前に人員を用意しておいた覚醒者協会だったのだが、思いの外問題が大きくなって現場は混乱していた。


「中で何が起きているのか分かりますか?」


 覚醒者協会は今船から降りてきた人たちの避難誘導でいっぱいいっぱいになっている。

 話を聞けそうな人もおらず正確な状況を分かっていない。


 圭たちが現れたのは伊丹にとってもありがたいことだった。


「急に異端審問官が乗り込んできて一部の人たちを悪魔教だと言って攻撃し始めたんです」


「異端審問官には相手が悪魔と契約しているかどうか見抜くスキルがあるそうです」


「契約……ですか?」


「ええそうです」


 なるほどと圭は思った。

 なぜ圭のことはスルーされたのか。


 悪魔を見抜く術を持っているなら圭のことも悪魔だと攻撃してもおかしくなかったのに圭たちの中で悪魔だと言われたのはユファだけだった。

 圭は真実の目という悪魔の力を持っているが悪魔と契約して手に入れた力ではない。


 異端審問官が見抜くのは悪魔との契約であり悪魔の力をそのものを直接見抜いているわけではなかったのだ。

 だから圭は異端審問官に何も言われなかった。


「それでその後何が?」


「船に乗っていた警護の覚醒者が悪魔教だったらしく戦闘になりました。さらに今はアザードと異端審問官、それともう一人悪魔と契約した人が三つ巴で戦っています」


「もう一人悪魔教がいるのですか?」


「アザードが契約する悪魔と敵対する悪魔がいてアザードのことを狙っていたんです」


 ダンテのことであるがいざという時のためにややぼかして伝えておく。


「今は異端審問官たちが周りに影響が及ばないようにシールドを張っていますが……A級覚醒者同士の戦いでは持たないかもしれません」


「なら早く戦いを止めなきゃ……」


「だけど中に入るのは危険です」


 圭は魔界に繋がる入り口が船内にはあって不安定な状態で流入現象という危険なものが起こる可能性が大きいことを伝えた。


「魔界への入り口って……」


「今中に入るとどうなるか……そこに囚われていた人も助けたのでここはみんなで避難する方がいいかもしれません」


 状況を理解するだけでもいっぱいいっぱいなのに魔界への入り口なんて知らないことも出てきて伊丹は困惑を隠せない。


「ざっくり言えば船が大爆発する可能性があるってことです」


「上に伝えてきます。情報ありがとうございました。村雨さんたちも避難なさってください」


 ひとまず船に乗り込むのはやめた方がよさそうだ。

 伊丹はより上に圭たちから聞いた情報を伝えに走っていった。


「俺たちも避難しよう」


 ダンテのことは心配であるが圭たちがやることはさらわれた人たちの救出であった。

 目的は果たしたのであとはダンテ自身にどうにかしてもらうしかない。


 圭たちの仕事は終わったので危険に巻き込まれる前に逃げる。


『!!!キケン!!!

 魔王ベルゼブブが降臨します!』


「はっ……?」


 船から離れ始めた圭の前に見慣れない赤い表示が現れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る