潜入、暴食の悪魔の城5

 エレベーターの方向は異端審問官たちが戦っているのでその逆側から会場を出て階段を目指す。

 すでに逃げ出している人たちに混じって階段にたどり着いた圭たちは下の階に降りる。


「みんな、装備を」


「あら、いつの間にそんなものを?」


 階段の途中で立ち止まった圭はポケットの中から袋を取り出した。

 今時あまり見ないような手のひら大の小袋である。


 圭がその中に手を入れると中から盾が出てきた。

 袋のサイズを考えると中に入らないし、袋の口にすら通らないぐらいなのに不思議とニュルッと出てきたのである。


 かなみは驚いたように目を見開いた。


「亜空間の収納袋……かなり高価で珍しいものよ?」


 次々と袋の中から圭たちの装備品が出てくる。

 圭が持っている袋の中には見た目からは想像できないような空間が広がっている。


 亜空間と呼ばれる空間であり、亜空間の中に入るものなら重さも大きさも関係なく収納できてしまう魔道具である。

 船の中に装備品は持ち込めない。


 防具なら男の圭は服の下に隠してなんとかなりそうだが武器は無理だし、ドレスのみんなは隠してなどほとんど不可能である。

 そこで亜空間の収納袋に装備を入れてきた。


「どこでこんなもの手に入れてのかしら?」


「少し前にね」


 これは青龍ギルドから贈られたものだった。

 紅剣とアーティファクトや魔道具を交換することになった。


 リストが送られてきたのだが色々あって非常に迷った。

 そんな時にアザードのパーティーに潜入する必要が出てきた。


 潜入のために何が必要か考えた時に中で万が一戦いになった時のために装備が必要にだろうということになった。

 だがしかし船は警備がしっかりとしていてフィーネも船に入れるために包丁に擬態してもらったぐらいである。


 どうしようかと悩んでいたのだけどリストの中に亜空間の収納袋があることに圭は気がついた。

 亜空間の収納袋に入れれば装備品を中に持ち込むことができる。


 他にもいくつか装備を選んで圭は亜空間の収納袋を受け取り、紅剣を青龍ギルドのリーインに渡したのである。

 だから亜空間の収納袋には圭たちの装備が入れてあったのだ。


「ドレスのままなのは面倒だな……」


「でも仕方ないからな」


 一応みんな分の動きやすい服も持ってきている。

 しかし装備と違って服を着替えるのは手間であるし、何かの事態の時にドレスではない格好で武装していたら言い訳も難しくなる。


 異端審問官がどうするのか分からなくて着替える時間もないのでドレスに装備品という中途半端な格好で行動することにした。


「……あなたたちだけズルいわね」


 かなみはつまらなそうに口を尖らせる。

 圭たちだけ装備を持ち込んでいるのか羨ましいと思った。

 

 亜空間の収納袋が圭のところに届いたのは結構ギリギリで、かなみはちょうど覚醒者としてゲートを攻略している最中でもあった。

 かなみの装備品も持ち込むことができただろうけどタイミングが悪かったのだ。


「次からは圭君に私の大事なもの……預けておかなきゃね?」


「俺は金庫じゃないからな」


「金庫よりも圭君の方が安心だものね」


「そーいう問題じゃないと思うんだけどな……」


 圭が止められた階まで降りて角から様子をうかがう。

 今のところ見張りのようなものはいない。


 まずは止められたところの奥の部屋を目指してみる。


「圭君……あそこの部屋」


 奥まで来てみたけれど同じような表示もないドアが並んでいる。

 適当に一つ開けてみようとしたが鍵がかかっていた。


 破壊でもして調べていくしかないかと圭が渋い顔をしているとかなみが圭の服を引っ張った。


「あの部屋がどうかしたのか?」


 一番奥の突き当たりにある部屋をかなみは指差した。


「あそこから魔力を感じるわ」


 かなみは奥の部屋から強い魔力を感じていた。


「ピピ……イヤナケハイ……」


 同時にフィーネも同じところから何かを感じ取っている。


「……行ってみよう」


 かなみとフィーネが何かを感じ取っているということは少なからず何かはある。

 奥の部屋のドアの前に立つと確かになんだか背筋がビリビリとするような嫌なものを感じる。


「カレン、頼むぞ」


「分かった」


 カレンが盾を構えてドアの前に立つ。

 後ろに圭が剣を構え、ドア横にフィーネが大鎌を構えて待機する。


 そっとカレンがドアに手を伸ばす。

 ドアノブを押し下げてわずかに引いてみると鍵はかかっていないようでうっすらドアが開く。


「いくぞ……」


「いつでも大丈夫だ」


「せー……の!」


 カレンがドアを開けて盾に身を隠しながら中に入る。

 フィーネが後に続いて圭も中に入る。


「……なんだ、ここは?」


 入ってすぐに敵はいなかった。

 罠なんかもなかったのだけど、予想外の光景にカレンのみならず圭も後から入ってきたみんなも呆然としてしまった。


「まるで中世の地下牢のようだねぇ」


 ドアの向こうには石造りの廊下が広がっていた。

 左右には鉄格子の部屋が等間隔にあって、夜滝の言うように牢屋のように見えた。


 天井に明かりはなく壁につけられた松明が廊下の中を照らしている。


「ここは、なんなんだ……?」

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