潜入、暴食の悪魔の城1

「手伝わせて悪いな」


「いえいえこれぐらい」


 ダンテから衝撃の事実を聞かされた。

 暴食の悪魔の使徒であるアザードは人を食べていたというのだ。


 今回日本に来る時も人を食べるつもりらしく、暴食の悪魔の契約者が暴食の悪魔に気に入られようと人をさらおうとしているらしい。

 一応覚醒者協会の伊丹に連絡もした。


 しかし誰をさらうのかも分かっていない。

 ダンテによると女性がアザードの好みらしいけれど全ての女性を監視して守ることなんて到底できない。


 情報元もダンテだと明かすこともできない上に有名人でVIP扱いのアザード相手にむやみに行動を起こすこともできないために結局覚醒者協会として動けなかった。

 最終的にアザードを倒して無実の人を助けるために圭は船に潜入することにした。


 木山に参加したいと伝えて圭は料理人として船に乗り込んだ。

 ただ料理人といっても今回は木山の思いやりみたいなもので、色々な料理を試してくれるお礼に美味しいものでも食べればいいというなんちゃって料理人である。


 基本的に料理するのは食堂の料理人たちで圭は手伝い程度で美味しい料理を食べてこいということなのだ。

 何もしないのも申し訳ないので覚醒者として鍛えた力で荷物の搬入を手伝う。


 コック服に身を包んだ圭のことを不審な目で見る人はいない。

 船にはすでに乗っていた招待客もいれば新たに日本から乗り込む人も多い。


 見たことある芸能人だなんて人もいてパーティーの規模の大きさを改めて思い知る。

 パーティーの舞台となっている豪華客船も本当に豪華客船でアザードがどれだけお金を持っているのか非常に気になるところである。


「特に緊張することはない。我々はいつものように、いつもの料理を作ればいい」


 食材などを運び込み、キッチンの一角で木山がみんなに声をかける。

 豪華客船は貸し切りと言っていたけれど実はアザードの会社が持っている物でほとんどアザードのものと変わりないらしい。


 そしてアザードの食事パーティーのためにキッチンスペースを増築した特別仕様にもなっていた。

 有名料理店のシェフなんかもいてRSIの料理人たちは緊張を見せているが木山はいつものような柔らかい笑顔を浮かべていた。


 自分の店の代表として呼ばれると緊張もするのかもしれないが、今は特殊な料理を買われてここにいる。

 多少気楽なものだと木山はリラックスしている。


 イロモノ枠みたいなものである。

 だからどうなろうと別になんともない。


 批判されたとしても自分が矢面に立てばいいと木山は思っている。


「それじゃあ料理に取り掛かろう」


 いつも通りの木山にみんなも少し緊張が取れた。

 船なのにRSIのキッチンよりも立派かもしれないななんて冗談言いながらそれぞれ動き出した。


「モンスターの解体やりますよ」


「ああ、助かる」


 大きな箱の中からサハギンの死体を取り出すと他の料理人たちがギョッとした顔をする。

 今回のために狩りたてほやほやの新鮮なサハギンを持ってきた。


 いつもは食堂でモンスター解体の有資格者が解体を担当しているけれど圭も資格持ちである。

 ここぐらいは手伝える。


[ほう、あれが噂の]


「あっ!」


「ん? あ、あれは……」


 キッチンにざわつきが広がった。

 サハギンを見た時とはまた違う騒ぎに圭が顔を上げるとスーツ姿の身なりのいい男性がキッチンの入り口に立っていた。


 その顔には見覚えがある。


「アザード・ロドリゲスだ……」


「えっ、あれが?」


「うわー、時計高そうだな」


 圭は散々アザードについて調べたので顔も知っていた。

 いかにもやり手といった目つきをしていてかなり整った顔立ちをしている。


 とてもじゃないが悪魔教、さらに人を喰らっているようにも見えない。


「これが例のサハギンですか?」


 何をしに来たのかと思ったらアザードがRSIがあてがわれているところにやってきて通訳を通して話しかけてきた。

 しかもよりによって圭にである。


「そ、そうです」


 他の料理人はA級覚醒者であり、町お金持ちで今回のパーティーの主催者であるアザードに気圧されてしまい、圭が引きつった笑顔で対応する。


『アザード・ロドリゲス

 レベル264[187]

 総合ランクB[C]

 筋力B[C](一般)

 体力A[C](英雄)

 速度B[D](一般)

 魔力A[C](一般)

 幸運D[E](無才)

 スキル:悪魔の権能悪魔の口[貸与]

 才能:魔を食らう胃袋』


 対応せねばならないのは正直嫌だけどせっかく目の前に来たので悪魔の目で確認させてもらう。


[君は……いや、僕たちの仲間じゃないか]


 アザードが圭の目を見て一瞬驚いたような顔をした。

 懐に隠れたフィーネが翻訳してくれたのでアザードがなんと言ったのかは分かったけれど、何を言いたかったのかは分からない。


「こちらのものは……」


 圭が困惑していると木山が間に入って対応を代わってくれた。


「俺たちの料理期待してくれてるみたいだな……」


 わざわざここまで来たということはモンスター料理に興味があるらしい。

 キッチンにドンとサハギンが置いてあったから目を引いた可能性もある。


「ありがとう。料理期待しているよ」


「ありがとうございます」


 木山の説明を聞いてアザードは満足したように頷いた。

 圭は振り返って去っていくアザードと最後に目があったように思えた。

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