一緒になれない青紅剣1

「……ということなんだよ」


「ふーん」


「またなんか面倒なことに巻き込まれてんな」


 塔の九階、一面白銀の世界の中で圭はこれまでのことを波瑠たちに説明した。

 ダンテが家にやってきて悪魔教と戦うことに協力してほしいと言われたことや世界的に有名な美食家のアザードが暴食の悪魔の使徒なこと、そして圭が仕事でアザードの船に料理人として行けそうなことなど色々あった。


 アザードのことは遠い人なので悪魔教であってもそれほど驚きはなかった。

 けれど圭が豪華客船に呼ばれたことには驚きがあった。


「どうするかなって思っててな……」


 かなり微妙な問題である。

 正直料理人として行くことも別に構わないのだが圭にできることもないだろうと思う。


 料理人として行くので武器なんかも持ち込みは不可である。

 いざ何かが起きても圭はさっさと避難するぐらいのことしかできないのだ。


 むしろダンテがアザードのことを狙うのなら行かないほうがいいのかもしれないとすら思っている。


「それは難しいですね」


「私は別にトラブルに顔突っ込むことはないと思うけどな」


「たださぁ……良いもん食いたいよな」


「またそんなこと言って!」


「いでっ!」


 普段食べられないような料理が食べられる。

 このことは圭を大きく惹きつける。


 料理人として行くだけで危険なことがないのなら料理を食べられるというのは大きな魅力である。

 危ないかもしれないのにそんなことを言う圭の脇腹を波瑠が小突いた。


「まあでも見つからなかったら俺の方でどうにかするしかないしな」


 ひとまず船に潜入する手段として顔と声を変える方法はダンテに渡した。

 今のところダンテの計画としては他に船に招待された人を探し出してその人の代わりとして潜入するつもりである。


 しかしうまくそうした人が見つかるとも限らない。

 もしダンテがそうした人を見つけられなかった場合圭が料理人として乗り込み、ダンテを圭の招待客として呼ぶしかないと思っていた。


 だから今から断るというわけにもいかないのだ。


「まあでも美味いもん食べたいよな……」


 カレンの生活もだいぶ上向いた。

 覚醒者としての活動が軌道に乗ったのでお金に余裕も出てきた。


 食べ盛りの弟をしっかり食べさせることもできてきたけれど高級店に行くようなことはあまり考えたことがなかった。

 多少節約すれば良いお店には行けるだろうがアザードの船に呼ばれるようなお店は結構行くのも大変である。


「まあもうちょい様子見かな」


「それしかないねぇ」


 圭のみならずダンテの状況も選択には関わる。

 今すぐに結論は出せない。


「いざという時はみんなも招待するからな」


「楽しみ半分、心配半分……かな」


 これまで様々な問題をみんなで乗り越えてきた。

 もしアザードの船で何があるならみんなにいてもらいたい気持ちもあった。


「ともかく今はシークレットクエストだな」


 カレンの盾以来アイテムの重要性というものを痛感した。

 強い武器、強い装備はやはり強くなるに従って必要だろうと思った。


 手っ取り早いのは金で買うことであるが良いものほど高く、そして市場には流れてこないのである。

 よりお金を持った覚醒者たちと札束で殴り合って勝てるはずもない。


 となると作ってもらうか、どうにかゲートなんかで運良く手に入れるしかないのである。

 しかし圭たちにはもう一つ可能性が高そうな手段があった。


 それは塔のシークレットクエストをクリアすることである。

 イスギスが圭の剣を治してくれることになった。


 そのために圭の剣の欠片も探したいので塔のシークレットクエストにチャレンジしようということになったのである。

 ついでに周りを気にせず話をできる環境なのもちょうどよかった。


「つっても今回はヒントなさすぎだよな」


『アイスシープを倒せ!

 アイスシープ 30/30 クリア


 シークレット

 春の木を植えろ!』


 九階のシークレットクエストは春の木を植えろなんてなっているけれど春の木が何なのかも分からない。

 植えろというからにはタネでもあるのだろうかと思うがタネに関するヒントもない。


 どこに植えるのかも不明だし雪を掘って埋めればいいのかとか謎も多い。

 朝から九階をぐるぐるとしながら春の木なるものの存在を探していだけれど何も見つからない。


「もう一個の方もそろそろかな?」


「あっ、そんな時間か」


 今日はもう一つ用事がある。

 用事の時間が迫っていたので圭たちは九階の探索を切り上げて塔を出る。


 まだ薬の効果が残っているのか外に出るとやや暑く感じる。

 圭たちが車で向かった先は覚醒者協会だった。


「村雨さん」


「伊丹さん、お疲れ様です」


 覚醒者協会のロビーでは痛みが待っていた。


「先方はすでに到着しています」


「あ、そうでしたか」


「例のものは?」


「ここにあります」


 圭は手に持った剣を伊丹に見せる。


「ではいきましょうか」


 伊丹に案内されて会議室に通される。

 そこには女性が一人と男性が二人、先に待っていた。


 あれ、と圭は思った。

 想像していた人が会議室の中にはいなかったので少し疑問を抱いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る