汚れた魔力の天女を止めて7
「くっ……うぅっ!?」
「みんな、まだモンスターが来ておるぞ!」
エスギスのことも気になるけれど周りのクワインデカルトはそんなことも構わずに襲いかかってくる。
仕方なくエスギスのことは一度置いといて圭たちはクワインデカルトに対処する。
チュビダスが現れたというけれどクワインデカルトに変化はない。
「危ない!」
タンクの挑発から外れたクワインデカルトがエスギスに向かった。
無防備に地面に膝をつくエスギスを見てカレンが思わず声を上げた。
「なっ……」
全身から灰色の煙を出しながらエスギスが立ち上がった。
振り向きながら剣を振るいクワインデカルトを真っ二つにする。
「カレン、俺たちはあっちを警戒するぞ!」
「あ、ああ、分かった」
エスギスに何が起きているのか分からない。
一瞬エスギスは理性的な目を見せたが敵が味方かも分からない。
このままただ放置しておくのは危険だ。
圭はカレンにクワインデカルトを引きつけるのをやめさせてエスギスを警戒する。
だらりと剣を持った手を下げたまま動かず、エスギスの体から灰色の煙がまだ出ていて顔色がうかがえない。
「思い出しました……」
ポツリと呟くような声だったが圭とカレンには聞こえていた。
「煙が……」
エスギスの体から立ち上っていた煙が収まった。
相変わらず肌は黒く染まったままであったがエスギスの目は理性的に圭のことを見ていた。
「エスギス……さん、ですか?」
「どうして私の名前を?」
「イスギスさんから聞きました」
「妹に? ……その盾……なるほどね」
ひとまずエスギスが攻撃してくる気配はない。
エスギスはカレンが持っている盾を見て納得したように一度頷いた。
「……そうか。彼女は無事だったんだな」
エスギスは遠い目をする。
「不思議なものだな。私の記憶ではないが私が負けたのだという世界の記憶が状況を理解させてくれる」
「あなたは……敵なんですか? 味方なんですか?」
「私は味方であり、敵よ」
「それはどういう……」
「私はあなたたちが倒すべき敵よ。ただ……」
エスギスは自分の盾を拾い上げて歩き始めた。
「私はあいつを倒さねばならないの」
圭の横を通り過ぎたエスギスはまた跳ね橋の方に走り出した。
跳ね橋の前では風馬と右近がチュビダスと戦っていた。
「やああああっ!」
一気にチュビダスに駆け寄ったエスギスはチュビダスのことを剣で切り付けた。
「ぐわああああっ! エスギス! 貴様!」
「魔王の右腕チュビダス! 貴様はこのエスギスが倒してみせる!」
「ふん! 汚れた魔力に染まった身で私を倒せると思うか!」
「たとえ体が汚れようと心まで堕とすことはできない!」
黒いエスギスの体から白く輝く魔力が溢れ出す。
「なに!? 今のお前にとってそれは毒になるはずだ!」
「だからなんだというのだ! 私は貴様らに屈することはない!」
再びエスギスの体から灰色の煙が上がり始める。
全身をひどい痛みが走るけれどエスギスは歯を食いしばって剣を振り下ろす。
「くそっ! ただの半神のくせに!」
胸を切り裂かれてチュビダスが怒りの表情を浮かべる。
「私もいるぞ!」
エスギスがどうしたのか分からないけれどチュビダスと戦う上では味方ではありそうだと風馬は判断した。
チュビダスが危険なモンスターであることは明らかなのでチュビダスをまず倒すことにした。
「この人間が!」
「右近!」
「ぐあっ!」
風馬の攻撃をなんとかかわしたチュビダスは追撃の右近の頭を鷲掴みにして地面に叩きつけた。
チュビダスが翼を羽ばたかせると黒い魔力が込められた羽がエスギスと風馬に飛んでいく。
「ぐっ!」
風馬は羽を刀で叩き落とす。
思いの外の重たい手応えに顔をしかめる。
「こんなもの効かないぞ!」
エスギスは盾で羽を防ぎながら前に出る。
「ぐぅっ!?」
チュビダスの切られたところから灰色の煙が上がる。
「貴様は裏切られたのだぞ! なぜ抵抗する! なぜ人を守ろうとする! こちらに下れば貴様は魔王様と共に世界を支配できるのだぞ!」
「私は半分でも人だ。人を守るのは当然だろう。世界を支配してどうなる。くだらない欲望に人を巻き込むんじゃない!」
「ふっ……どこまでいつまでも分かり合えない……私は貴様を倒して魔王様に世界を捧げる!」
「ならば私はお前を倒して希望を繋ごう! そこの人間、私を手伝え!」
「はい!」
エスギスとチュビダスが激しく戦い始める。
風馬も戦いに参加するがついていくのがやっとというぐらいの戦いであった。
『汚染された魔力が一定量を超えました。汚染された魔力の霧が強化されます』
「また……」
クワインデカルトと戦う圭の前にまた表示が現れた。
カレンの盾の効果の範囲外の黒い霧がさらに濃くなる。
クワインデカルトの姿は黒くて霧の中にいるとかなり見にくくなってしまった。
圭たちからエスギスとチュビダスの戦いもあまり見えない。
「くっ! もう俺でも厳しいです!」
もう一人いたB級覚醒者は盾の範囲外にも出て戦っていた。
しかし汚れた魔力による黒い霧が濃くなってB級覚醒者も活動が厳しくなったようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます