封印を解いて8

 なんでも圭を迎える準備のためにこの先の町まで剣心は買い出しに来ていたのである。

 孫である風馬と同じく剣心も要請があれば動くタイプの覚醒者であり、圭たちがゲートに入る連絡が行き違いになってゲートまで来ていた。


 右近と左近は剣心が持っている道場の門下生で双子の覚醒者であった。


「この後はどうするつもりだったのだ?」


「お約束は明日でしたのでこの先でホテルに泊まるつもりでした」


「ふむ、ならばこのまま私と来ないか? 泊まるだけの場所はある。何もないところだが……食事ぐらいはもてなそう」


「……ではお願いします」


 どうせ1日泊まれば明日会うことになる。

 ここで断ってホテルに泊まるというのもおかしな話なので圭は剣心の提案を受けることにした。


 ゲートの中で取った魔石は覚醒者協会の池上に渡した。

 ゲート攻略の細々した手続きは後日覚醒者協会を訪れて行うことになった。


「それにしても危なかったね」


 剣心が乗る車が先導して圭たちはそれを追いかけていく。

 もちろん車中の話題はゲートでの戦いについてだった。


「ああ、あんなのがいるとはな」


 ゲームなんかの用語からデバフという状態異常を起こす能力の敵がいることは知っていた。

 しかしあまり数も多くなく、高等級のモンスターの能力であると意識したことはなかった。


 けれど今回挑んだゲートはC級である。

 世の中一般で見れば高等級に差しかかるぐらいの等級になってきているのだ。


 属性を操るモンスターだけでなく環境的に過酷だったりデバフなどの特殊な能力を使ってくるモンスターも出始めるのである。

 こうしたところも気をつけていかねばならないなと圭は反省した。


 ダークリザードマンシャーマンは特殊な例であるが、いつどこでまだあんなことが起こるとも分からない。


「それにしてもあれなんだったんだろうね? カレンの盾がブワーってして、そしたら体の調子戻ったっていうか……むしろ良くなった感じ?」


 ダークリザードマンシャーマンのデバフについてはそうした能力でそんなものがあるのだという話なのだけど、そのデバフを打ち払ったカレンの盾の変化が何なのかみんな気になっていた。

 道具の王なるものが発動したということは圭には分かっている。


 その表示は圭にしか見えていなかったようでみんなは何が起きたのか分かっていない。

 ただ圭自身も道具の王が何なのかよく分かっていない。


 スキルか何かだろうということはわかっている。

 おそらく剣心がやったことなのだろうということも予想はついている。


 聞こうとはしたのだけど処理することもあったし夜になる前に着きたいとすぐに出発してしまったので結局聞けずじまいだった。


「封印解けたらあんな感じですごいことできる盾なのかな?」


「だとしたら嬉しいな」


「まああんまり期待しすぎるなよ?」


 圭も急なことなのであまり覚えていないが効果の極大化とかという文言が表示に見えていた。

 つまりは最大限に能力を発揮した時にああなるのであって普段から常に最大限ではないだろうと圭は思った。


「流石に常にあんなんだとは思わないけどある程度期待はできるよな」


 常にあんな風になるとは思わないが封印を解いたら見られる能力の一端を覗いた気持ちになる。

 圭が贈ってくれたというだけでも特別な盾だけどより大切なものになりそうだとカレンは思った。


 ーーーーー


「うわー、おっきい」


 赤く染まった空が黒くなり始めるぐらいの時間に剣心の家に着いた。

 本来泊まるはずだった町の隣にある小さい町に剣心の住まいはあった。


 町にある中でも一際大きな日本家屋が剣心の家である。

 聞いたところによると家だけでなく道場なんかもあるので外から見た時にかなり大きく見えているらしい。


 ただ中に入っても普通にデカい家だった。

 剣心は剣道などを教えつつも覚醒者相手にも戦い方を教えたりしている珍しい道場をやっていた。


 住み込みで何人か覚醒者もいるようで右近と左近もそうした住み込みで剣心に教えを受けながら覚醒者として活動している。


「村雨さんのお部屋はこちらです」


 圭は右近に案内されて部屋に通された。

 といっても左近に案内されている女性陣の部屋は隣であった。


「食事の時間になったら呼びに来ます。今お布団を用意しますので」


「何から何まですいません」


「いえいえ、師匠のお客様ですから」


 戦っている時はキリリとして年上にも見えていたのだけどこうして話してみると圭と年の近い好青年であった。

 今一度顔をよく見ても圭には右近と左近の違いは分からない。


「お風呂もありますしゆっくりくつろいでください」


 通された部屋は広めの和室だった。

 建物の外見は歴史ありそうだったが中はかなり綺麗で部屋も旅館の一室のようである。


「何かあったら僕か左近に言ってください」


「分かりました」


 右近が部屋を出ていって部屋の隅に荷物を置いた圭は不躾かなと思いながら畳の上に寝転がった。

 圭が元々住んでいたアパートにも小さいが畳敷の部屋があった。


 寮の方は洋室なので畳の部屋は久しぶりである。

 いい畳なのか寝転がっても気持ちがいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る