妹分を助けろ2

「作戦……というか方法はある」


「方法ですか?」


「そうだ。そのために……お前たちの協力が必要になるんだ」


 ダンテは考えている作戦を圭に説明した。


「……本当にうまくいくと思ってるのか?」


「それしかない」


「分かった……やるだけやってみよう」


 ーーーーー


 ダンテは密入国で日本にやってきた。

 密入国と言葉で言うだけなら簡単であるが実際に密入国することは簡単ではない。


 お金があれば確実に引き受けてもらえるものでもないし、密入国の最中に死んでしまうような危険だってありうる。

 遠く離れたイギリスの地から密入国することを支援するなんてことはまず不可能なのである。


 では何を助けてほしいとダンテはいったのか。

 ダンテは密入国の方法として塔による違法な移動を考えていた。


 塔の一階はいくつかの国が繋がっている。

 そのために他の国から塔を通って別の国に行くということも可能なのだ。


 ただ他の国から他の国に密入国されては犯罪などに利用されてしまう。

 そのために塔のエントランスがある国ではチェック体制が敷かれている。


 国によって少し違ったりするのだが日本の場合は塔に入るためには事前予約と参加するメンバーなどの申請が必要で覚醒者証で顔を照合する。

 出る時も覚醒者証で確認したり、魔力を測定して入る時と同じ本人かどうかチェックしているなんて噂もある。


 保安上の問題なので細かなことは一般覚醒者には分からないけれど調べはされているのだ。

 そんなチェックをダンテは魔法で誤魔化そうとしている。


 闇を操る魔法を扱えるダンテは圭と会った時のように闇や影の中に姿を隠すことができる。

 それと同じく他人も隠すことができるので圭たちの影に紛れて塔の中に入り、妹分を影に隠して日本に脱出させようというのだ。


 本当にそんなことできるのか不安であるがやってみるしかない。


「リーダビリティギルドの村雨圭さんですね」


 いつものように塔の前に設置された検問所で冒険者証を出してチェックしてもらい塔の中に入った。

 入場では特に止められることもなく、何かを言われることもなかった。


「上手く入れたな」


 塔の中に入ってきて念のために二階まで上がってきた。

 周りに人がいないことを確認して圭の影の中からダンテが出てきた。


 ひとまずダンテを塔の中に入れるのはバレなかった。


「塔の十階だっけ?」


「ああ、早く行こう」


 ダンテの顔に焦りが見える。

 あとはダンテの妹分を探すだけなのだが問題が発生していた。


 イギリスの方ではダンテの妹分は普通に覚醒者としての身分を持っているので塔の中にも入れる。

 連絡を取り合って都合のいい日に塔に入ることになっていたのだが、どうやら妹分の方が敵に見つかってしまったらしかった。


 隠れるのにも限界がきた妹分は一足先に塔の中に逃げ込んでいた。

 塔は上に行くほど行ける人も少なくなる。


 妹分となると覚醒者は以前十階まで登ったことがあるらしく、十階に逃げ込んで隠れると塔に入る前に連絡があったのだ。

 たまたま圭たちも十階まで行けるので助けに向かえる。


 敵に見つかる前に見つけてあげねばならない。


「くっ……」


 しかしさらに問題が発生した。

 圭たちは九階までクリアして十階に行けるのだけど肝心のダンテがいけなかった。


 基本的に塔の攻略など興味がなかったダンテは以前に少しだけ塔を登ったことがあるのだが、四階までしか行くことができなかった。

 影に隠れてもダンテはエントランスを通り抜けることができず四階に置いていかれることになる。


「これがユファの顔だ。頼む……助けてやってくれ」


 今から塔を攻略している暇はない。

 仕方ないのでダンテを四階に置いて圭たちだけで十階まで行くことになった。


 ダンテの持っていた写真でユファの顔を確認した。

 モデルみたいな金髪美人がユファという子で年齢的には波瑠より一つ上だった。


「……さてどう探すかな」


 八階と九階の酷環境ゾーンもさっさと抜けて十階までやってきた。

 それはいいのだけど十階からはこれまでの階よりも一階あたりの広さが大きくなる。


 広い中で一人の女性を探すというのは結構大変なことである。


「とりあえず歩き回ってみるしかないか」


 塔内では一般的な通信機器も使えない。

 連絡を取り合うこともできない以上は足で探すしかない。


 圭たちは適当な方向に歩き始めた。


「ピピ〜」


 いつものメンバーと相変わらずメイド姿のフィーネもいる。

 フィーネは塔の入り口段階では圭の装備として擬態しているので覚醒者証の提示もなく中に入ることができる。


「……今日は人多めだね」


「そうだな」


「ちょっと聞いてみようか?」


「何をだ? 美人外国人お姉さん見ませんでしたかって」


「それいいかもな」


 塔の十階には意外と人がちらほらといた。

 日本人っぽそうな覚醒者の姿もあるのでユファを見かけていないかと聞いてみないかと波瑠が提案した。


 確かにユファは目立つ見た目をしている。

 見たことがある人がいれば探す手がかりになるかもしれない。


「こんな人なんですけど……」


 近くにいた日本人の覚醒者に声をかけてスマホで撮影したユファの写真の写真を見せる。

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