異世界の賢き魔王3

「お待ちしておりました」


「しゃべった……!」


 カラスのモンスターは圭たちに向かって頭を下げた。

 さらには言葉を話した。


 圭たちが理解できる言葉であって驚かずにはいられなかった。


「魔王様がお待ちでございます」


「ま、待て!」


「なんでしょうか?」


 圭たちが驚きを受け入れる前にカラスのモンスターはきびすを返して城の中に戻って行こうとした。

 思わず圭はカラスのモンスターを呼び止めてしまう。


 カラスのモンスターは穏やかな目をしたまま振り返った。


「ど、どういうことなんだ!」


 モンスターと会話してもいいのかという迷いはあったけれど言葉は通じそうだし敵意も感じないので会話を試みる。


「……そうご警戒なさらなくても大丈夫です。我々は貴方様方を攻撃いたしませんので」


「あんたらは何者で、何が目的なんだ?」


 警戒しなくてもいいと言われてもこんな状況で警戒を解くわけにはいかない。

 攻撃しないなどと口で言うのも罠の可能性がある。


「私は魔王様の忠実な右腕であるアッシブと申します。魔王様が貴方様方とお逢いになられることを望んでおりますのでこうしてご案内のために迎えさせていただきました」


「魔王って何者だ? なんで俺たちと会いたいんだ?」


「それは魔王様から直接お聞きになってください」


 圭は先ほどからアッシブと名乗るカラスのモンスターについて真実の目で見てみようとしていた。


『エラー! 閲覧権限がありません!』


 しかし赤い表示でエラーと出てアッシブのことは見られないのである。


「ふむ……警戒なされるのはわかりますが……」


 アッシブは悩ましげにくちばしの根元を撫でる。


「どの道魔王様にお逢いになられなければ帰ることもできません」


 最終的に嫌な脅し方をしてくる。

 圭は振り返ってみんなのことを見る。


 みんなは圭に任せるという目をしている。


「……分かった。案内してくれ」


 結局のところ選択肢などないのだ。

 アッシブの言葉を信じて魔王城に飛び込んでいくより他にない。


「よろしいです。では参りましょう。魔王城は広いので迷子にならないようにしっかりとついてきてください」


 アッシブが魔王城の中に入っていき、圭たちはそれを追いかける。

 意外と足が早くて歩いているつもりなのかもしれないけれど圭たちは小走りでついていく形になった。


 他に何もいない無人の城の中を結構歩かされて、大きな扉の前に着いた。


「それでは、魔王様の御前です」


 アッシブが扉に手をかざすとゆっくりと開き始めた。


「うわっ……」


 これが罠だったら完全に終わりだなと圭は思った。

 扉の先は広い部屋だった。


 天井が高い部屋の左右にハーピーやカラスのモンスターがずらっと並んでいる。

 部屋の真ん中にはレッドカーペットが敷いてあって、カーペットが伸びる先は一段高くなっていて玉座が置いてあった。


 そしてその玉座にはカラスのモンスターが偉そうに座っていた。

 非常に威圧感のある光景に圭たちは息を飲んだ。


 横に並ぶハーピーだけでも100体はいそうで、襲い掛かられたら圭たちでは勝てそうもない。


「どうぞ前へ」


 アッシブに促されてようやく圭も動き出した。

 ハーピーとカラスのモンスターの視線を受けながら長いレッドカーペットの上を歩いていく。


 一段高くなっているところの前まで圭たちは進んできた。

 ここまで来ると部屋の入り口も遠くて逃げることもできない。


「よく来たな、この世界の希望よ」


 ジッと圭たちのことを見ていた玉座に座るカラスのモンスターが発した言葉は圭たちにも理解ができた。

 玉座に座っているということはこのカラスのモンスターが魔王というやつなのだろうかと圭は思った。


 ゆったりとした動作で魔王のカラスは立ち上がる。


「デカい……」


 座っていると分からなかったのだが魔王のカラスの身長はすごく高かった。

 一段高いところに立っているので余計に高く見える。


「それに……なんだか息苦しいです」


「あいつ……多分すごく強い」


 息が詰まるような圧力を魔王のカラスから感じる。

 両肩が重たくなるような魔力に薫は顔をしかめていた。


「俺は暴風の魔王ヤタクロウ。こことは違うイユサシュドンいう世界で生きていたものだ」


 そのまま圭たちの方に歩いてきて、高いところから降りてもヤタクロウは見上げるほどに大きい。


「どうして……俺たちを呼んだのですか?」


 おそらくヤタクロウが少し拳でも振るえば圭は死んでしまう。

 ただ冷や汗が吹き出してくるような圧力を感じながらも敵意や殺意は感じられない。


「恐れないか。勇気があるな」


 真っ直ぐに目を見返してくる圭にヤタクロウは不快感を感じるどころか面白さを感じていた。


「どうして呼んだか……それはこのくだらないゲームを負けに導きたくてな」


「なんだと?」


 負けに導く。

 つまりは圭たちを消そうとしているのかもしれない。


 瞬間的にそう考えて圭は剣に手をかけた。


「違う。俺が負けに導きたいのはお前たちではなくゲームを始めたクソ野郎どもの方だ」


 ヤタクロウが圭を手で制する。


「どういうことだ?」


「何から話そうか。そうだな……俺のことから少し話そう」


 ヤタクロウは圭に背中を向けると再び玉座に座った。

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