第七章

塔を登ろう1

 ゲートもいいけれど塔も攻略なさい。

 そんなことを静江に言われた。


 なんだかんだと塔の攻略もまだ五階である。

 五階もまた試練がある。


『ボスを倒せ!

 ボス 0/1』


 塔の五階の試練もいわゆる討伐系なのであるが五階に関しては雑魚モンスターを探し出して倒すものではない。

 固定された場所にいるボス級モンスターを倒すというのが五階の試練となる。


 ここで出てくるボス級モンスターは通常モンスターよりも体が大きく耐久力が高いモンスターで大人数での攻略が想定されているのだ。

 そのために五階の攻略もやや特殊な形となっている。


 今では個人や小規模なギルドではなくもっと多くの人数を募ってからまとめて攻略してしまうのが一般的となっているのである。

 ボスモンスターは五階に三体いて、どのモンスターを倒しても試練をクリアとなる。


 一日一回復活するので日替わりで各国の覚醒者を集めて攻略していた。

 攻略の様子はその日によって違う。


 中型ギルドが攻略済、未攻略の人半々のチームを作って他にも外部の覚醒者を募集したり、大きめのギルドが募集をかけてお金を払って安全に攻略させてくれるなんてこともある。

 外国組の攻略に参加することも可能ではあるけれど同じ国の人と参加する方が意思の疎通も取れていい。


 圭もどこかでタイミングが合えばリーダビリティギルドで参加しようと考えていた。


「圭君、調子はいかが?」


「絶好調ですよ」


「敬語も使わなくていいのに」


 今回静江にも言われたので早めに攻略しようと考えていたらかなみから連絡があった。

 圭たちの都合のいい日に大海ギルドが主導して五階攻略を行うので参加しないかというものだった。


 かなみはかなみがA級覚醒者なだけでなく大海ギルドという大きなギルドも率いている。

 手助けとは単純に戦うだけではない。


 ギルドを利用したことでもかなみは圭たちを手助けしてくれるのであった。

 どうせならとかなみの厚意に甘えて五階を攻略することにした。


「そういうわけにもいかないでしょう?」


「でももう周りは私たちの関係疑ってるわよ?」


 流石に圭たちのためだけにギルドを動かすのは職権濫用になってしまう。

 圭たちの行けそうな日を聞いて、その日に向けて一般覚醒者の参加者も集めての攻略となっている。


 ただかなみは圭に笑顔で声をかけた。

 営業スマイルではない笑顔で親しげに話しかけるものだから圭とかなみの関係性について興味を持っている人もいた。


 全くの他人を装うところまでいかないけれど急にかなみと仲良くするのも周りから注目されてしまう。

 けれどもう遅かった。


「腕ぐらい組んで見せようか?」


「敬語やめるから……やめて」


 腕まで組まれてしまうともう周りに言い訳もできなくなる。

 今ならまだ知り合いだったぐらいに収められる。


「ギルドマスター、全員います。上級ボス出現地域に向かう準備もできました」


「ありがとう、絵麗奈」


 かなみの補佐を務める覚醒者の笹ヶ峰絵麗奈が申し込んだ覚醒者が来ているのかの確認を終えてかなみに報告に来た。

 黒髪ロングの知的な女性で、少し伊丹にも雰囲気が似ている。


「……ん?」


 圭は笹ヶ峰に一瞬キツい目で睨まれたような気がした。


「それじゃあ移動しましょうか」


 かなみは全く気づいていないようで笹ヶ峰に微笑みかける。

 笹ヶ峰が圭に向けていた冷たい目をサッと切り替えてかなみの方を見る。


 やはり見間違いではなく睨まれていたのだと圭は感じた。


「あの笹ヶ峰さんって……」


「あの子? ギルドを興す時からいるのよ」


 どうして睨まれたのか知りたくて隣を歩くかなみにそれとなく笹ヶ峰について聞いてみる。


「私がモデルなの知ってるでしょ?」


「ああ、知ってるよ」


「覚醒した時事務所の方でモデルの子を集めて覚醒者パーティーを作ろうとしたの。その時に覚醒者のマネージャーも必要だろうってことになって絵麗奈が来てくれたのよ。私のファンだったらしくてね」


「へぇ」


「そのあと事務所の社長と揉めて私は自分でギルドを作るんだけど絵麗奈はそのまま私についてきてくれたのよ」


 かなみにとって最も信頼できるビジネスパートナーが絵麗奈であった。


「男……嫌いとか?」


 ただ今聞いた話だけでは睨まれた理由が分からない。


「なに? 絵麗奈のこと気になるの?」


 かなみが少しムッとしたように唇を尖らせた。


「そういうことじゃなくて……」


 全員に好かれるなんてことは不可能なので誰かに嫌われることは仕方ない。

 でも嫌われてしまったのなら理由は気になる。


「……別に男嫌いとか聞いたことはないわよ」


「そうなのか……じゃあ」


 かなみが原因かなと圭は思った。

 かなみファンでギルドまでついてきたのだとしたらかなみに対して思い入れがあってもおかしくない。


 急に現れた圭がかなみと仲良くしていることが気に食わないのかもしれないなと推測した。


「もうすぐボスが出没する地点になりますので警戒をお願いします!」


 五階にはボスモンスターが三体いるのだがどれも同じ強さというわけではない。

 日本では上中下級、アメリカではハイ、ミドル、ローと呼ばれるように三体のボスモンスターでも強さに差があるのだ。

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