裏切り者、裏切られる3

 少しの間ぼんやりとしていたラーナノクイーンはゆっくり大きく頷く。

 そして後ろを振り向くと何かを指示するように手を動かして一鳴きした。


「な、何をするつもりだ!」


 一体のラーナノナイツが前に出る。

 浦安が怯えたような目をしてラーナノナイツを見上げる。


「う、うわああああっ!」


 何かただならぬ気配を感じた浦安がラーナノナイツに背を向けて逃げ出した。


「ああああっ!」


 走る浦安にラーナノナイツが槍を投げつけた。

 槍が肩に突き刺さって浦安は悲鳴をあげる。


 そのまま浦安の足がもつれて転び、ラーナノナイツは跳ねるようにして浦安に近づく。


「く、くそっ! こっち来るなぁ!」


 肩を押さえながら浦安は剣を抜いてブンブンと振り回す。

 情けない抵抗でなんとかラーナノナイツを遠ざけようとしている。


「急にどうしたんだ?」


 これまでモンスターに襲われる気配のなかった浦安が突然もてあそばれるように襲われ始めた。

 ブンブンと振り回される剣を嫌がってラーナノナイツは浦安に近づかない。


 そうしている間にも浦安は少しずつ後ろに下がっているけれど離れた分だけラーナノナイツも近づくので一向に距離は変わらない。


「……何が起きてるのか全然分からないな」


 圭が思わず振り返るとみんなも同じ感想を持っている顔をしていた。

 モンスターを呼び出したりして、ゲートに逃げ込んで、最後には拠り所にしていたモンスターにやられる。


 自業自得とは言えるかもしれない。


「どうするの?」


「…………助けよう」


 このまま放っておいてもいいかもしれないという思いがないわけじゃない。

 なんであんな奴助けなきゃいけないんだという悪い考えも浮かんでくる。


 けれど浦安は何かを知っていて、何かの理由からこんなことをしている。

 今死なれたらこんなことをした目的は永遠に闇の中に葬られてしまう。


 それに他にゲートを呼び出せる人がいるのかとかゲートをどうやって呼び出しているのかとか聞きたいことは山ほどあるのだ。


「浦安だけ連れて逃げるぞ」

 

 ラーナノクイーン一体とラーナノナイツ三体を相手にするのは難しい。

 その上ケガ人である浦安を守りながらとなると不可能に近い。


 幸い圭たちはまだ存在がバレていない。

 浦安に近いラーナノナイツは一体だけであるし奇襲して逃げることならリスクが少なく実行できそうである。


「……こうしよう」


 圭は考えた作戦をみんなに伝えた。


「……多少不安なことはあるけれどやるしかないねぇ」


「まあやるしかないからな」


 完璧な作戦を立てるには圭たちも能力が足りない。

 ある程度は勢いで押し切っていくしかやりようがないのである。


「いくぞ……3……2……1……行け!」


 圭のカウントダウンで飛び出していったのは波瑠。

 その後ろから夜滝が火の玉を飛ばした。


「おりゃああ!」


 浦安の肩に槍が刺さったままになっているラーナノナイツは武器も持っていない。

 突如として横から飛んできた火の玉は何とかかわしたけれど迫る波瑠のナイフまではかわせなかった。


 波瑠がラーナノナイツの喉元を深く切り裂いて波瑠は素早く後ろに下がる。


「た、たすけてくれ!」


 浦安は駆け寄ってきた圭にしがみついた。

 目には恐怖が浮かんでいる。


「全て話す! 自首するから俺を助けてくれ!」


「分かったから放せ!」


 しがみつかれては助けたくとも助けられない。

 しかしパニックになっている浦安は圭の両腕をガッシリ掴んだまま放してくれない。


「大地の力ぁ!」


 浦安を落ち着かせている時間はない。

 ラーナノナイツとラーナノクイーンが状況を把握している間に逃げなければならない。


 波瑠が下がってきたのを確認したカレンが足を振り下ろしてスキルを使う。

 圭たちとラーナノクイーンの間の地面が盛り上がって広く壁になる。


「うっ!」


「逃げるぞ! 死にたくなきゃ走れ!」


 圭は浦安の肩に突き刺さっている槍を荒く抜き取る。

 傷に配慮している余裕はなく、当然悠長に肩を治してやっている暇もない。


 壁で防いでいる間に岩山から脱出するために浦安の服を掴んで走り出す。

 最初は引きずられるようだった浦安もすぐに状況を理解して肩が痛むのも構わず走った。


「薫、波瑠と夜滝ねぇに力を集中させろ!」


 入ってきた穴を走りながら圭は次の指示を出す。


「夜滝ねぇは全力で魔法を放って道を作って! 波瑠は外に出て助けを呼んでくるんだ!」


「分かった!」


「任せておいて!」


 逃げるルートは二つある。

 最初に入ってきたゲートか、モンスターに囲まれていたもう一つのゲートかである。


 安全を考えるなら最初に入ってきたゲートかもしれない。

 しかし圭はもう一つの方のゲートに向かうつもりでいた。


 なぜなら最初に入ってきたゲートの方では逃げた後がないからだった。

 岩山の後ろに回り込まねばならない距離的な遠さはあるけれど最初に入ってきたゲートの方がモンスターもおらず安全に逃げられる。


 だが逃げた先は人がいない駐車場である。

 もしラーナノナイツやラーナノクイーンが追いかけてきた時に周りに助けを求めることが難しいのである。

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