裏切り者、裏切られる1

 入る前に伊丹に電話をかけたけれど繋がらなかったので浦安がいたことと追いかけていることをメッセージで残した。


「よし、それじゃあ行こうか」


 ラーナノソルジャーが出てきたということはイベントスペースにあったゲートと同じものなのではないかと思われる。

 しかし中身が同じゲートが二つあるなど聞いたこともなくて実際どうなっているのか分からない。


 不安はあるものの圭たちはゲートの中に入っていった。


「うわっ、最悪……」


 ゲートに入った瞬間靴が濡れてカレンは顔をしかめた。


「なんだここ? 川……湖っていうのにも浅いしな」


 入った先は白っぽい岩肌の景色が広がっていた。

 さらに地面には足首ほどの高さがある澄んだ水があってゲートに入ってそのまま足を突っ込んでしまった。


 仮に知っていたところで一面水なので避けることはできなかった。

 よく見ると足元の水は緩やかに流れている。


 ゲート周りにはラーナノソルジャーはいない。

 圭たちは一段高くなったところに上がって周りの様子を窺う。


「びっちゃびちゃだぁ……まだ下ろしたばっかなのに」


 カレンが靴を脱いで逆さにするとパシャリと水が落ちる。


「どうせ濡れるんだから諦めたらいいのに」


「分かってるけどさ……」


 水の上に出ているような場所は少ない。

 今靴の水を抜いたところでまた濡れてしまうことは避けられない。


「さて……」


「まあ行くならあそこだろうねぇ」


 ゲートの周りにある高い場所は今圭たちがいるような水からちょっと出たぐらいの高さまでしかない。

 そのために周りの見晴らしはとても良くて遠くまで見通せる。


 平坦な景色の中で遠くに大きな岩山が見えていた。

 白い岩肌のためにお城のようにも見える。


 他には何もないので何かがあるとしたら岩山だろう。


「向かってみましょうか」


 ラーナノソルジャーもいないのでとりあえず岩山に向かっていく。


「あっ、圭君あれ!」


「なんだ?」


「血の痕!」


 再び水の中に足を浸しながら歩いていると波瑠が地面を指差した。


「本当だ」


 一段高くなって水から出ているところに血痕があった。


「きっとあいつらのだねぇ」


 あいつらというのは浦安と村上のことである。

 村上は波瑠に背中を切られている。


 浅い傷ではないのでカレンのような能力でもない限り簡単には出血も止まらない。

 岩山の方に進んでいくと同じく血痕が残っているところがあった。


 浦安と村上も岩山の方に向かっているようだ。


「上になんかいるぞ!」


 遠くに見えていた岩山だが意外と近かった。

 何もないなと思って上を見上げたカレンが降ってくるモンスターに気がついた。


『ラーナノナイツ

 カエルにもよく似た容姿を持つモンスター。

 女王の騎士であり、女王のためなら命も投げ出して戦う。

 知能は低いけれどラーナノソルジャーよりは賢い。

 槍を持ったラーナノソルジャーの中で認められたものだけが進化を遂げたモンスターである。

 女王を守るために常にそばに仕えていることが多い。

 熱さに弱く、水が好き。

 魔石はぬるっとした味がしてラーナノソルジャーよりちょっとマシ。暑い季節なら少しは美味く食べられるかもしれない』


 なんとなくラーナノソルジャーよりも顔がシュッとしている感じがしていて真実の目で見てみた。


「ラーナノナイツ? みんな気をつけて、さっきまでのやつより強そうだ!」


 ラーナノソルジャーではない。

 ラーナノソルジャーが進化した一つ強いラーナノナイツというモンスターだった。


「おっと!」


 魔力で挑発したカレンのところにまっすぐ向かっていったラーナノナイツが槍を突き出した。

 一瞬カレンの腕が痺れるような威力がある。


 素早さも高くてラーナノソルジャーより強いことは明らかだった。


「ハァッ!」


 夜滝が拳大の火の玉をいくつも作り出してラーナノナイツに放つ。


「ちっ、この!」


 ラーナノナイツは夜滝の魔法をかわしながら槍でカレンを攻撃する。

 まだ防御は対応できる範囲であるけれど攻撃が素早くてカレンに反撃の隙を与えない。


「速いな!」


 圭と波瑠で挟み込むように攻撃を仕掛けたがラーナノナイツは波瑠の攻撃を槍で防ぎ、圭の攻撃は体をねじってかわして大きく飛び退いた。

 体も柔らかく反射神経もいい。


「夜滝ねぇ、動きを止めて!」


「任せておいておくれ!」


 再びカレンに襲いかかるラーナノナイツ。


「どうした? 動かないか?」


 ラーナノナイツの槍を受け流したカレンがニヤリと笑った。

 そのまま動きながらカレンと戦うつもりだった。


 なのに足が動かなくて慌てたようにラーナノナイツが視線を下げた。

 足元が凍っている。


 氷の先を辿っていくと水に手をつけた夜滝から伸びている。


「足元の注意がおろそかだったな!」


 カレンのメイスがラーナノナイツに直撃して大きく水飛沫を上げながら地面を転がっていった。


「圭君!」


「オッケー、まかせろ!」


 ラーナノナイツは圭の近くに転がってきた。

 圭は地面を強く蹴ってラーナノナイツと距離を詰めると首に向かって剣を振り下ろす。


 一撃で切り落とされたラーナノナイツの首が地面を転がり、水に血が広がっていく。

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