人工ブレイキングゲート6

 イベントスペースはひどいことになっていた。

 ゲートがあるということは最初にモンスターが現れた場所ということになるので一番被害が大きい場所である。


 イベントがない今はベンチが置かれていて休憩スペースとなっているし商業施設の中心となるので人通りも多かった。

 今はお客として来ていた覚醒者だけでなく近隣の覚醒者も駆けつけてラーナノソルジャーと戦っている。


 大海ギルドはまだ来ていないようで覚醒者たちは押されながらもなんとかラーナノソルジャーを抑え込んでいる。


「……圭さん、どうかしましたか?」


 イベントスペースは吹き抜けになっていて上の階からでも見下ろせるようになっていた。

 状況を把握するためにぐるりと周りの様子を見回していた圭は上の階から見下ろしている人影があることに気がついた。


 逃げている一般客にも見えないし、だからといって戦っている覚醒者にも見えない。

 ただただモンスターと戦っている光景を眺めている。


 たまたま圭の目に止まっただけなのだがなぜかとてもその人が気になった。

 夜滝たちも圭の視線の先が気になって上の階の方を見た。


『浦安省吾

 レベル149

 総合ランクD

 筋力E(無才)

 体力D(一般)

 速度E(無才)

 魔力C(一般)

 幸運E(一般)

 スキル:サモンゲート[貸与]

 才能:無し』


 だから真実の目で見てみた。


「あいつ……!」


 浦安省吾、そいつは少し前に公園で女性を襲っていた終末教の男だった。

 黒い石からモンスターを召喚した奇妙な能力の持ち主だと思っていた。


「サモンゲート?」


 以前公園で会った時にはモンスターの対処で名前ぐらいしか見れられなかった。

 能力を見てみると不思議なものがあった。


 貸与とされているサモンゲートというスキル。


「夜滝ねぇ」


「なんだい?」


「サモンってどんな意味?」


 学がないとまで言わないが英語が得意ではない。

 パッと意味が浮かばないので素直に夜滝に聞いてみた。


「サモン……呼び出すとかそんな意味かねぇ」


「じゃあサモンゲートなら……」


「簡単に考えるとゲートを呼び出すとかそうなるかもねぇ」


「急にどうしたんだよ?」


「あっ、逃げた!」


 圭が見ていることに感づいたのか浦安が見るのをやめて逃げていく。


「……上の階に行こう! 訳は走りながら言うから」


 少し様子がおかしいけれど圭はこんな時に理由もない行動はしない。

 圭たちは近くにあった停止中のエスカレーターを昇って浦安のいた階に向かう。


「つまりさっきのやつが今回のことの原因かもしれないってこと?」


「その可能性がある」


 ただの階段と化したエスカレーターを昇りながら圭が訳を説明する。

 浦安を公園で見かけたこと、モンスターを召喚したこと、そしてゲートを呼び出せそうなスキルを浦安が持っていることをなどを説明した。


 あんな大規模なブレイキングゲートを召喚できるものなのかとかどうしてこんなことをするのかなんて気になることは多くあるが、今あの場で浦安が状況を見ていたことが今回の件と無関係には思えない。

 もし犯人ならこのまま逃してはいけない。


 それにまだ何かやるつもりかもしれない。


「……どこに行った?」


 圭たちが向かった時には浦安は逃げ始めていた。

 浦安がいた階に着いた時にはすでに浦安の姿はなかった。


「……なんかおかしくない?」


 探すにしてもワンフロアだけでもかなりの広さがある。

 見たところ浦安の能力はC級相当だったので分散して探してはかなりのリスクがある。


 ただ浦安がどこに逃げたのかも分からずキョロキョロとしていると波瑠が不思議そうに床を見ていた。


「何がおかしいんだ?」


「モンスターとか、人の死体がない……」


「死体がない?」


「いや、あるだろ」


 圭たちも床を見てみるとモンスターや襲われたのだろう人が倒れている。

 ないとはなんのことか分からない。


「うん、あるけど……こっち側にないんだ」


「…………確かに」


 波瑠が指差した床を見てようやくその奇妙さに気がついた。

 まるで線を引いたみたいだと波瑠は思っていた。


 あるラインから人もラーナノソルジャーも死体がない。

 そこで戦うことがなかったかのようである。


「……あっち側に浦安がいるのかもしれない」


 スッと振り返った圭は浦安が立っていた付近もラーナノソルジャーや人の死体がないことに気がついた。


「モンスターを呼び出した犯人ならモンスターに襲われない方法があるのかもしれないねぇ」


 ラーナノソルジャーを呼び出した浦安がいたからそのあたりはラーナノソルジャーが入り込まずに襲われなかった。

 ある程度納得できる話である。


「あっち側に行ってみようか」


 圭たちは死体がない方に向かってみる。

 周りを見て不自然に床が綺麗なところを進んでいくと駐車場に続く廊下に続いていた。


 奇襲やモンスターの存在を警戒して慎重に進んでいく。

 コンクリートの駐車場はお店の方に比べて空気がややヒンヤリとしている雰囲気がある。


「チッ……どうやら見られたみたいだ」


「何してんだよ?」


「ちゃんとゲートが機能してるのか確かめたかったんだよ」


 駐車場の中に入ると会話が聞こえてきて圭たちは車の影に隠れた。

 特徴的な男性のしゃがれ声と若い男性の声が聞こえている。


 圭が車の影から顔を出してみると一人は浦安で、もう一人は体つきのいい男だった。


「浦安だ」

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