血の争い、偽の女神の平穏9

「オラァッ!」


 カレンが振り下ろされた平穏の騎士の剣を盾で受け止める。

 全身に強い衝撃が駆け抜けて地面が陥没するがカレンは膝をつくこともなくなんとか受け切った。


『類い稀なる幸運の効果が発動しました』


「うおおっ!」


 カレンが攻撃を受けた隙を狙って圭が平穏の騎士の腕を切り付けた。


「なっ!?」


 腕に深く傷をつけられた。

 その代わり圭の剣が砕け散ってしまった。


 強化された圭の能力に剣の方が耐えられなかったのである。


「続くよ!」


 まるで風。

 緑がかった魔力をまとった波瑠が平穏の騎士の首を狙って飛びかかる。


 平穏の騎士が体を逸らしてナイフをかわそうとした。

 かわしきれずに肩をざっくりと切り裂いたけれどゴーレムタイプのモンスターなので大きな影響はなかった。


 波瑠も能力が向上しているけれど流石に神をも倒したことがあるナイフは波瑠の能力にも負けなかった。


「ふふん! 食らうといいよぅ!」


 巨大な水の塊が当たって平穏の騎士が後ろに倒れる。

 夜滝の魔法の威力もかなり上がっている。


「ほら、戦いなさい」


 さらに攻撃を受けて怪我をした人も即座に傷が治っていく。

 忘れられた女神の力は凄まじいものがある。


「ピピ、マカセテ!」


 武器を失ってどうしようかと圭が思っているとフィーネが飛び出してきた。

 形を変えながら圭の剣にまとわりついて刃の形に変わっていく。


「フィーネ!?」


「マスターノソード!」


 フィーネが黒光りするような美しい刃になった。


「圭! 今よ!」


 翼の騎士が剣を投げ捨てて倒れた平穏の騎士を上から押さえつける。

 平穏の騎士が抵抗して暴れ、翼の騎士の体が破壊されていくけれどそれでも構わない。


 どこか女性っぽい薫の声が聞こえた瞬間圭の体がさらに軽くなる。


『スキル導く者が発動しました。

 守るべきものを守るため眠っていた力が一時的に解放されます』


 ここで平穏の騎士を倒さねばいけない。

 自分のため、そしてみんなのためにもと圭は集中力を高める。


 剣を持つ手に力が入り、視界の端に表示が見えたことも気にならないほど平穏の騎士を見つめる。

 ゴーレムタイプの敵ならば弱点があるはず。


 意識して見つめると平穏の騎士の頭が淡く光って見えた。


「頭……!」


 圭は地面を強く蹴って飛び上がる。

 翼の騎士の頭が平穏の騎士に殴り飛ばされて破壊されてしまう。


 動かなくなった翼の騎士を平穏の騎士が自分の上から無理矢理退かせる。


「食らえ!」

 

 特別な技なんてない。

 刃となってくれたフィーネに全力の魔力を込めて、圭はただ真っ直ぐに剣を振り下ろした。


『類い稀なる幸運の効果が発動しました』


 平穏の騎士が防ごうと剣を持ち上げた。

 しかし平穏の騎士の剣が圭の攻撃を防げたのは一瞬だった。


 高等級覚醒者すらも切り裂いた剣を圭はへし折りながら平穏の騎士を縦に真っ二つに両断した。


(なんだ……?)


 圭には切り裂かれた平穏の騎士の頭から何か白いものが飛んでいくのが見えた。

 逃しちゃいけない。


 そんな気がして圭はもう一度剣を振った。


「ぎゃあああああああっ!」


『平穏の女神の分体を倒しました!』


 白いものを切り裂いた瞬間圭の頭の中に叫び声が響き渡り、見慣れない表示が目の前に現れた。


「平穏の……女神…………あれ?」


 地面に着地した圭は足に力が入らなくてそのままふらりと倒れ込んだ。


「体に……力が」


 足だけじゃない。

 全身に力が入らなくて全く動くこともできない。


「よくやってくれたわね」


 圭の視界に足が見えた。

 なんとか目だけ動かしてみるとそれは薫だった。


「まさかクソ女神の分体まで倒してくれるなんて予想以上よ。感謝するわ。よい……しょっと」


 薫は圭の体をゴロンと仰向けに転がした。


「でも力の使いすぎね。まだあなたの体はそこまでの力に耐えられない」


 薫が圭の胸に手を当て魔力を注ぎ込む。

 淡い光に圭の体が包まれて重たく感じていた体が少しだけ楽になる。


「私にできるのはこれぐらい。ありがとう、圭」


 薫は圭の頬に手を添えると額にそっと口づけした。


「12階。そこにクソ女神の本体がいるわ。分体を倒してしまったから敵対されると思う。気をつけて。しっかり力をつけて塔を登りなさい」


 色々聞きたいことがある。

 しかし圭は声すら出すことができない。


「ありがとう。まだ塔に囚われ続けるけどあの暗い地下からは自由になれた。お休みなさい。もう安全だから……」


 優しい声でささやかれると抗えなくなる。

 重たくなったまぶたを開けていられることができずに圭はゆっくりと目を閉じた。

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