カレンの悩みのタネ
終末論というものがある。
ゲートが現れてモンスターが出てきたのは世界が終わりに向かっているからであると主張する陰謀論のようなものだと世の中では見られている。
しかし神々のゲームの存在を知った圭たちにとっては笑い事ではなくなってしまった。
さらにこうした終末論から派生した宗教のようなものまで出てきていた。
物欲を捨てて熱心に祈れば終末を穏やかに迎えられると主張する人や今からでも腐敗した政治家を断罪すれば終末は防げるなんて言う人もいる。
「ゼグヴェーラ……なんだって?」
「ゼグヴェーラアンシビン。通称終末教だってよ」
「ふーん……」
「ふーんじゃない! うちの近くに支部ができたみたいでチラシとか入れてくんだよ。興味ねっての!」
終末論を語る人の中でより大きなコミュニティを築いたのがゼグヴェーラアシンビンという組織だった。
今や新興宗教と見られていて終末教とまで呼ばれている。
来るべき終末に備えてあるがままを受け入れようという教えの下に集まる人たちで、覚醒者は穏やかな終末を見出す異端なのだと主張する。
だから少しばかりうるさい側面はあるのだ。
カレンの方には入信勧誘のチラシがポストに投函されるのでやめてくれとカレンは思っていたのである。
今のところ覚醒者だとは思われていないようで何もないからいいけれど、覚醒者だとバレたらそれはそれでめんどくさそうである。
「でもあれだろう? 終末教って危ない噂もあるよね?」
「そうなのか?」
「レジェンド高級住宅街事件というのがあったはずだよ」
「あー、俺は知らないな」
圭は世間の情報にやや疎い。
最近のことはいいのだけどRSIで働き始める前は部屋にテレビもないような生活で何かの情報を仕入れる余裕もなかった。
だからRSIで働き始める前のことはあまり記憶にないのである。
「レジェンドギルドっていう大きなギルドがあってね。こんなご時世だ、大型のギルドが居を構える周辺の土地は価格が高騰する」
大型のギルドがあればゲートなども対処してくれるし安全だということでみんなギルドの周りに住みたがる。
結果として土地や家の価格が上がるのだ。
「レジェンドギルドはギルドを置く建物の周りの土地を買い占めて自分たちで住宅を建てようと計画したんだ。自分たちが守ってやる、ギルドの恩恵を受けたきゃ金を払って入居しろということさ」
周りの土地の価格が上昇してもギルドに恩恵は少ない。
だからレジェンドギルドは最初からギルドを置く建物の周辺の土地を事前に買い占めた。
そして大型のマンションなどを建てて入居者を募集したのである。
ギルドが守ってくれる住宅地というのが売り文句であった。
周りの住宅地に比べて高級な価格であったが応募が殺到した。
これがレジェンド高級住宅街計画である。
「そんなずるいやり方に批判もあったんだ。終末教も覚醒者が汚いマネをすると終末が早まるなんて批判をしてたのさ」
「へぇ〜」
「それでも人は集まって入居し始めると批判もおさまってきたのだけど、終末教の教主が最後にこう言ったのさ。
『覚醒者の欲望が集まるところには負のエネルギーも集まる。この地は災禍に見舞われることだろう』ってね」
「それでどうなったんだ?」
カレンも知らなかったようで夜滝の話に聞き入っている、
「ゲートが出現したのさ。それもブレイキングゲートですぐさまモンスターが出始めた」
「だけどレジェンドギルドが守ってたんだろ?」
「タイミングも悪かったのさ。高等級のブレイキングゲートだった上にレジェンドギルドのメインメンバーは少し離れたゲートに遠征中だった」
ゲートを攻略中だったレジェンドギルドの対応は遅れた。
他のギルドなんかもレジェンドギルドが対応するものだと思っているので全てが後手に回った。
結果としてレジェンド高級住宅街に住んでいる人は甚大な被害を被ったのである。
「結局高級住宅街計画は大失敗に終わったというわけさ」
人は出ていき、レジェンドギルドは被害者たちに賠償のためにギルド周辺の土地も売り払うことになった。
「そんな事件が……」
「他にも覚醒者たちを支援する政治家のところに行って抗議したのちにその政治家がモンスターに襲われて亡くなったとかって話があるんだよ。ゲートを人が思いのままに出せるなんてことはないだろうが当時はそんなことをしたという噂もあった」
「あっ、思い出しました。確か予言者とか呼ばれてましたね」
「その通りだねぇ。ゲートやモンスターの出現を予知する予言者、なんて今は呼ばれているんだよ」
終末教が警告なり批判なりをすると後にゲートやモンスターによって酷い被害に遭う人が出た。
終末教がゲートを呼び出しているなどという噂もあったがそんなことは人に不可能である。
なのでゲートやモンスターの出現を予知できる予言者と終末教の教主は呼ばれていた。
「まあ悪いことでもしなきゃ目をつけられないはずだから大丈夫だと思うけどねぇ」
「まあカレンも気をつけてよ?」
「悪いことなんかしないさ。こう見えても昔からひんこーほーせーだからな!」
胸を張って笑うカレン。
確かに言葉遣いは悪いところがあるけれど良識的で良い子である。
「困ったことがあればいつでも言えよ」
「うん、ありがと、お兄さん」
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