ボランティア活動1

 塔やゲートの出現によって新たなる素材や魔力というエネルギーを得て人類の技術もまた一つ進歩した。

 けれども塔やゲートから出てくるモンスターとの戦いは人類に大きな爪痕を残し、今でも暗い影を落とし続けている部分もある。


「休みに悪いな」


「いいってこれぐらい」


 車を止めて降りた圭がトランクを開けた。

 カレンは少し申し訳なさそうな顔をしているが圭は普通に笑っている。


「う〜ん! 気持ちいい場所だね!」


「気分はいいけど……本来私はインドア派なんだけどねぇ」


 波瑠と夜滝も車から降りてくる。

 波瑠は大きく伸びをしながら体を伸ばす。


 夜滝は少し不満そう。

 めんどくさいから行かないと言ったのだけど圭と波瑠に行こうよと言われて渋々付いてきたからだ。


 それでも気分のいい場所なことは確かである。

 振り向くと教会のような建物がある。


 自然に囲まれていて穏やかで空気が澄んでいる。

 多少郊外ではあるがそんなに町中から外れているという場所でもない。


「カレンさん、どうも」


「どうも神父様」


 教会から1人の男性が出てきた。

 人の良さそうな笑みを浮かべた白髪混じりの50代ほどの男性はカレンに向かって頭を下げた。


「和輝さんからはご連絡を受けています。今日は若い方々が来てくださると聞いてありがたいです」


 今日圭たちが訪れているのは教会だった。

 しかしその中身は教会ではない。


「カレンお姉ちゃんだ!」


「久しぶりー!」


 教会の中から子供たちがワラワラと飛び出してきてカレンに駆け寄ってくる。

 ここは孤児院であった。


 ゲートのブレイクなどで被害に遭った人には大人も子供も区別はない。

 時には被害者が子供を持つ親のこともある。


 残された子供がどうなるか。

 引き取ってくれる人がいればいいのだが、どうしてもそうした余裕のない人もいる。


 そのようなモンスターの被害による孤児のために大きなギルドや企業、覚醒者協会などがお金を出して支援をしている。

 孤児院もそうした支援の一つで、初期の頃に覚醒者として活躍していた和輝が働きかけて大和ギルドが後援となって運営されている。


 和輝も提案者として孤児院に関わり続けていた。

 大和ギルドから必要な物資を受け取って運んだり、教会の整備や子供たちのおもちゃの修理なんてこともしていた。


 カレンも時々手伝っていた。

 今回圭たちも手伝うことになったのは急遽工房の方に刀匠体験の予約が入ってしまったからであった。


 たまたまその話を圭たちが聞いて、休みの日だからと孤児院にものを持っていくお手伝いをすることにしたのだ。

 カレンは子供たちに囲まれている。


 体の大きなカレンは初見では怖がられることも多いが、知り合ってみると優しい性格をしている。

 明るくて子供相手にも分け隔てなく接するので子供から人気になるのも頷ける。


「今回お手伝いしてくださる方々ですね。私は梅山亀治と申します」


「村雨圭です。よろしくお願いします」


 圭は梅山と挨拶を交わす。


「お荷物どちらに運んだらいいですかね?」


「中の方にお願いします」


 トランクに積まれた段ボールを圭は運び始める。


「はじめまして、おじさん!」


「お……ああ、よろしくな」


 子供の残酷さというものがある。

 まだ若いつもりでも子供からおじさんと呼ばれて、圭は動揺を隠しきれなかった。


「はははっ! 圭もおじさんかぁ!」


「おば……」


「お姉さんだよぅ?」


 おじさんと呼ばれて困ったように笑顔を浮かべる圭を見て夜滝が笑った。

 しかし危うく自分もおばさんと呼ばれかけて素早く子供の口を塞いだ。


 夜滝の目が本気なことを悟って子供は素直にコクコクと頷いた。


「すいませんね、自由な子供たちで」


「いえいえ、のびのびしてていいですよ」


 おじさんと呼ばれるのは心外であるが、気を遣ったようにお兄さんと言われるのも気まずくはある。

 非常に素直にまっすぐ成長しているのだと思えば怒ることなんてない。


 段ボールを教会の中にある倉庫となっている部屋に運び込む。

 物資は食料だけでなくノートや鉛筆などの文房具や下着などの洋服類、さらには子供たちのためにゲームなんてものも含まれていた。


 さすがは天下の大和ギルドである。


「ここは見ての通り元々教会だったのですよ」


 ちゃんと物資があるのか段ボールを開封して中身を確認していると梅山が話し始めた。

 波瑠がふと教会みたいだねなんて呟いたのに反応したのである。


「閑静な住宅街だったのですが空き家に出来たゲートを誰も気づくことがなくブレイクを起こしてしまいました。その時に被害を受けた人や家屋も多く、皆引っ越してしまいました」


 梅山は寂しげに物資のリストから視線を外して遠くを見つめる。


「壊れた家屋でも放置しておくとまたゲートが出てしまうかもしれないので人がいなくなった家は軒並み解体されました。ここも半壊していたのですがアクセスも良く、周りの環境も良いということで大和ギルドが修理改築して孤児院としたのです」


 なので表から見ると教会であるのだが裏の方はしっかりとした住居としての建物になっている。


「あの子たちにはまだ未来があります。皆さんのおかげであの子たちは健やかに日々を過ごせることでしょう」


「俺たちなんて少し手伝ってるだけです」


「その少しもできない人が多い世の中ですから……」


 とにかく梅山が良い人であり、この孤児院はちゃんとした人によって守られていることは圭にも良くわかった。

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