第五章

覚醒者の義務1

 ゲートはどこに出現するのか分からない。

 森の中や広い草原に現れることもあればビルの裏、建物の中、道のど真ん中にまで現れることもあるのだ。


 圭が以前に死にかけた最初からブレイクを起こしていて魔物が出てくるようなブレイキングゲートは珍しく、ほとんどのゲートがブレイクを起こすまでに余裕がある。

 有用なゲートならばギルドに売却してしまうが人気がなくて買い手がつかないゲートは覚醒者協会で攻略する。


 ただ覚醒者協会で攻略をするのも覚醒者協会所属の覚醒者ではなく周辺の覚醒者や覚醒者ギルドに依頼することがほとんどである。

 先日圭のところにメールが来た。


 差出人は覚醒者協会で宛名として圭個人ではなくリーダビリティギルド宛てであった。

 内容はゲート攻略の参加依頼。


 とある雑居ビルの一角にゲートが出現し、攻略に参加してくれる覚醒者を募っているとのことだった。

 覚醒者協会からの攻略依頼は一方では人気があり、他方では人気がない。


 覚醒者協会が攻略するということは人気のないゲートということになる。

 高難度ということではなく手間が多くて儲からないケースのために人気がないのだ。


 しかし覚醒者協会経由でゲート攻略を引き受けると報酬金が支払われる。

 稼げない覚醒者にとってはこの報酬金はありがたいもので、これを目当てでゲート攻略に参加する。


「リーダビリティギルドの皆様ですね。本日は攻略にご参加いただきありがとうございます」


 今回来た参加要請に圭たちも応じることにした。

 多少のお金も手に入りながら覚醒者協会に良い印象を与えつつ社会貢献にもなる。


 みんなで相談した結果引き受けようということになった。


「シゲさん、今日はよろしくお願いします」


「ああ、これも仕事だからな」


 今日はいつものメンバーに加えて重恭も来ていた。

 来た人数分報酬金は振り込まれる。


 重恭も参加して損はないのだ。

 メインの戦闘員でなく荷物持ちやサポート役とはなるがゲートの等級はF級相当と見られていて難しくはないので重恭も普通に戦えるだろう。


 重恭も正式にリーダビリティギルドに加入したことになっているので一緒に活動することも何の問題もない。


「フィーネは大人しくしてるかな?」


「多分大丈夫だと思うけど……」


 フィーネはお留守番である。

 圭の家ではなく今日は工房の方で和輝が預かってくれていた。


「なんだかんだ爺さん、拾ってきた犬にも甘かったから大丈夫だろ」


 フィーネのことは心配だけどテレビを壊して以来問題は起こしていない。

 和輝の言うことを聞くように言ってあるのでフィーネの好奇心が爆発しない限りは大丈夫である。


 和輝の方も何回かフィーネとは会っているし一応危険な存在ではないと和輝も認めてはくれていた。


「こちら、今回のゲートの情報です」


「あっ、ありがとうございます」


 横からサッとホチキスで止められた資料を差し出されて圭は無意識のうちに受け取った。


「男……いや、女の子?」


「どちらにしても若いな」


 資料を差し出してきたのは男にも女にも見えるような中性的な顔立ちをした子であった。

 ただどちらの性別にしてもかなり若く見える。


 波瑠と同じか、下手するともう少し下かもしれない。


「声の感じ……いやどっちにも見える」


 高めな男性の声、低めな女性の声、見た目もさることながら声の感じでも微妙なところで圭も重恭も判別出来ずにいた。


「えー、あれ女の子じゃないの? 肌綺麗で髪長かったし」


「男じゃねえか? 胸なかったし」


「手は綺麗だったねぇ」


 波瑠とカレンの意見も分かれる。

 身長は女性にしてはやや高めなぐらいで男子なら平均より少し小さいぐらい。


 髪は長めで後ろで一つにまとめていたが今時髪の長い男性だっている。

 体格は華奢な方。


 カレンの言うように女性だとしたら胸は控えめという感じなる。


「まあ今は先に資料を読んどこう」

 

 女ですか、男ですか、どっちでも聞くのは失礼なので気にすることはやめてゲートの資料を読む。

 昔はゲートの中では機械類が上手く作動しなかったこともあるが今は技術が進歩している。


 事前にドローンなどを中に入れてある程度様子を確認することができる。


「アンデッドのスケルトン。武器を持たない個体がほとんどであるが時々武器を持った個体あり」


 資料の内容は一応メールでも先に受け取っていた。

 一通り読んでみたけれど目新しい情報もない。


 今回のゲートのモンスターはスケルトン。

 以前にもギルドとして認められるために他と共同して攻略したモンスターである。


 やっぱり人気ないんだなスケルトンと思う。


「それにしても武器まで支給してもらえるのはありがたいな」


 圭たちのバックには八重樫工房もついている。

 そのために武器や防具もバックアップしてくれる。


 重恭にもスケルトン用にメイスを渡していた。

 輸送会社の時は全て自分で用意して整備費用も自分持ちだったのでこれだけでもかなり違いを感じていた。


「みなさん」


 体つきのいい中年の覚醒者が呼びかけるように声を出してみんなの視線が集まる。


「今回の攻略を主導させていただきます、上原と申します」


 ニカっと笑った上原は人が良さそうに見えた。

 ここにいる覚醒者は圭たちのリーダビリティギルドを含めて3ギルド、14名が集まっている。


 その中でも登録上では上原がD級で1番上であった。

 なので一応全体のリーダー的な役割を上原が果たすことになった。

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