シークレットな情報
「別に私は村雨さん担当ではないんですけどね」
「いや……なんかすいません」
塔の中で起きたことを管理するのは色々と難しい。
複数の国から繋がっている塔の中はどこの国の管轄でもないのだ。
一時期管轄権を争ってある国同士で戦争が起きかけたほど険悪にも緊張が高まった時もあった。
結局はどこの国のものでもなく、協力し合うことにはなったのだけど多少の遺恨は残った。
今回の大王ゴブリンについては日本側の入り口であるエントランスに近く関係していたのも日本人であったので日本が調査することになっていた。
リーダビリティギルドは覚醒者協会に呼び出された。
ギルドマスターである圭から話を聞かれることになったのだけど調査官は薫であった。
薫は小さくため息をついて圭との間にある机の上に資料を置く。
また圭が関わる事件があった。
本来塔に関わるのは別の担当者であるがなぜなのか薫が担当を任されることになった。
おそらく相手が圭だからだろうと薫は思う。
悪魔教のことでは協力もしてもらったのでちょっとした配慮である。
「まあ村雨さんならいいです」
実際には薫としてもそれほど文句はない。
普段している仕事ではないので多少面倒だとは思うけれど圭は相手するにも大人しい方なので仕事としてはやりやすい。
覚醒者協会で相手にするような覚醒者は自尊心が高い面倒な相手も少なくない。
そんな人たちと比べてみれば圭に対してはかなり好印象がある。
問題そのものだって圭が起こしたものではないのだから仕方のない話であるし。
「何があったのか一度お話していただいているとは思いますがまたもう一度お願いできますか?」
「分かりました」
圭は起きたことを説明し始める。
塔の試練をクリアするためにゴブリンを探していると護衛の1人にたまたま遭遇して重恭を助けに向かった。
そうして戦っているうちに急にシークレットクエストとゲートが現れた。
ゲートからゴブリンが出てきていて、このままでは危険だと判断したのでゲート攻略に挑んだ。
圭が最初からシークレットが見えていたことやスキルでゲートを見つけたことは言わない。
このことは圭だけでなく夜滝たちとも事前に話し合って共有してある。
そして中に入ると大王ゴブリンがいて、みんなでそれを倒した。
変に隠しすぎてもいけないので貢献度があったことや報酬をもらったこともちゃんと話しておく。
「貢献度……報酬まであったんですか」
薫はサラサラと圭の話をメモしていく。
きれいな字をしているなと思った。
「シークレットクエストとか初めて聞いたんですけどよくあるものなんですか?」
そんなわけないだろうとは思いつつも質問してみる。
塔から出てきた後ネットで調べてみたけれどシークレットクエストについての情報はなかった。
つまり誰も知らないか、知っていても表沙汰になっていない情報なのである。
「よくある話ではありません」
「えっ?」
今の言葉の感じでは薫が何かを知っているような雰囲気であるように感じられる。
「シークレットクエストは存在します」
「そう……なんですか?」
「アメリカのスカーギルド、それに中国の青龍ギルドはかつてシークレットクエストをクリアしているのです」
「へぇ……初めて聞きました」
スカーギルドも青龍ギルドも名前を聞いたことがあるほどのギルドである。
圭が知っている限りでは塔の攻略に成功したギルドということで名前が出ていた。
「そうでしょうね。非公開の情報なので」
「俺……それ聞いてもいいんですか?」
非公開の情報なのに薫はさらりと圭にそれを言ってしまった。
こんな単純なミスをするような人ではないと思うのだけど聞いてはいけないことだったかもしれないと圭は笑顔がひきつる。
「ええ、大丈夫です。塔の攻略を目的としている一部の大型ギルドにはお伝えしていますし、関係者にも言っていい決まりですので。
その代わりにシークレットクエストに遭遇した時の状況などを他の国の覚醒者協会などにも共有させてほしいのです」
シークレットクエストについては情報を非公開、つまりは秘密とされていた。
塔を攻略する上で守秘義務を守れる大きなギルドには情報を共有しているもので、その理由はシークレットクエストの発生原因が特定できていないことと利益を独占するためであった。
シークレットクエストがあるという情報だけを流して混乱を招くことを避け、なおかつシークレットクエストによる利益が欲しいという思惑が存在している。
ただ他にもシークレットクエストをクリアしたことがある人がいるかもしれないと密かに情報を他国と共有することにもしていたのである。
現在のところアメリカと中国がシークレットクエストをクリアしていたことを情報共有していた。
「それは構いません」
「ありがとうございます。情報公開の際にはお名前は伏せさせていただきますが……ゴブリンの事件も重なってしまっているのでどこからか漏れてしまうこともあるかもしれません」
「漏れると何かあるんですか?」
「もしかしたら他国からの接触などがある可能性もあります」
「危険……なんですか?」
「危ないことはないでしょう。ですがお話を聞きたいなどあるかもしれません。危険はないと思いますが念のため相手の国などにはいかない方がいいかもしれません」
「分かりました」
「それでは本日お呼びした用件は以上です。あっ、あの時倒したゴブリンですがゲートを閉じたことなどのご協力ありましたのでゴブリンの魔石の半分の権利がリーダビリティギルドにあることになりました」
「そうなんですか」
「お金に替えてお振込みしてもいいでしょうか」
「それでお願いします」
その後、夜滝たちも薫に同じような質問をされて覚醒者協会による聞き取りは終わったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます