怖い女性たち2
「みんな、料理できたから運んで〜」
「はーい」
一方で和輝と優斗の話題にもなっていた圭はテレビを見ていない。
台所でせっせと料理を作っていたのであり、完成し始めたのでみんなに運ぶのを手伝ってもらう。
「主役は座ってろ」
「うー、じゃあお願いします!」
立ちあがろうとする波瑠を止めてカレンがサッと台所に向かう。
優斗もカレンに続いて台所に向かって料理を運び始める。
この姉弟、生活力が高い。
「夜滝は動かないの?」
波瑠はソファーに寝転がる夜滝の頬を指でつつく。
夜滝の頬はプニプニとして気持ちがいい。
夜滝も抵抗することなく頬を突かれている。
「あまり人が多くてもゴチャッとして大変だからねぇ」
カレンと優斗が行ってくれたのならそれで十分。
人が多く行っても邪魔になるだけ、と言い訳して夜滝はそのままの体勢を維持する。
「それに私は部屋を提供してるからねぇ」
「ずるいぞぉ〜」
「これが大人になるということだよ、波瑠」
「ズルい大人〜」
「はっはっは」
「ほら、どいたどいた」
普段は夜滝もちゃんと圭の手伝いをしたりする。
カレンが大きな皿を持ってきてテーブルに置く。
「おぉ〜」
「村雨さんすごいですね」
「昔から料理は好きだったからな」
圭と優斗も料理を持ってくる。
優斗は圭の料理の腕に感心している。
一瞬料理の道を考えたこともあるぐらいには圭は料理することも好きだった。
「それにカレンだって手伝ってくれたしな」
テーブルに料理が並べられるが全部を圭が作ったものではない。
カレンに手伝ったもらったものもあれば出来合いのものを温めたものもある。
「とりあえずこんなもんだな」
テーブルいっぱいに料理が並ぶ。
「それじゃあ……」
「あっ、待て待て!」
「なんだ?」
何かを思い出したようにカレンは台所に走っていく。
そしていくつかの缶を抱えて戻ってくる。
「なんだそれ? お酒か?」
「ハズレ! お酒風のドリンクだ!」
「いきなりなんだ、そんなもの出してきて」
カレンが持ってきたのはお酒風のノンアルコール飲料であった。
そういえばコソコソと冷蔵庫に何か入れていたなと圭は思った。
まさかそんなもの買ってきているとは思いもしなかったけれど。
「私あんまりお酒とか飲まないし波瑠と優斗はお酒飲めないしな。ちょっと気分でも味わってみたいから」
「まあノンアルならいいか」
「日本酒はないのか?」
「日本酒なら台所の棚にあるよぅ?」
「おお、じゃあもらっていいかな?」
「どうぞ」
みんなでそれぞれ飲み物を選ぶ。
アルコールの入っていない飲み物も色々あるのだなと圭は感心していた。
和輝だけは日本酒を小さなコップに注いでいた。
「それじゃあ……改めて」
みんな片手に飲み物を持つ。
「波瑠、大学合格おめでとう!」
「「「おめでとう!」」」
「みんな、ありがとう〜!」
軽く缶を当てあってグイッと一口飲む。
甘めのものも多いが意外と味は悪くない。
今日集まったのはお祝いのため。
実は波瑠が大学に合格したのである。
覚醒者枠の推薦で結構良い大学に行けることが早めに決まったのである。
だから波瑠の大学合格のお祝いのために和輝や優斗も誘って夜滝の家に集まったのだ。
一時期は大学に進学することもやめようと思っていた波瑠がちゃんと大学に進学することができてみんな嬉しくあった。
だから圭も腕によりをかけてごちそうを用意した。
「めでたいねぇ」
「まあ波瑠なら当然だよな! 普通に受験しても入れるだろうしな」
「へへっ、こうしてお祝いしてもらうのは照れるね」
みんなに口々に褒められて波瑠は嬉しそうに頬を赤くして飲み物に口をつける。
「どうだ?」
「うん、美味しい!」
「よかったよ」
ワイワイと話しながら食べていく。
「波瑠、どうしたんだい?」
みんなそれなりにお腹もいっぱいになってきてなんとなくまったりモードになってきていた。
急に波瑠が立ち上がった。
「波瑠?」
「圭さん……」
「は、波瑠!?」
なぜか少し目がトロンとしている波瑠はストンと圭の膝の上に座った。
そして圭の首に手を回して胸に顔をうずめる。
酔っているように見えた。
「カレン!」
「えっ、いや、だってこれもノンアルだぞ!」
夜滝がお酒を買ってきたのだとカレンを見るが波瑠が飲んでいたものは全くアルコールの入っていない飲み物である。
つまり波瑠はお酒など一滴も飲んでいない。
「圭さん……お父さんみたい」
「波瑠……」
「お父さん、いなくなっちゃった」
胸に顔をうずめたまま波瑠は少し重たい声で話し出した。
「大学合格したよって言いたかった。こんな素敵な友達できたよって言いたかった……」
波瑠の父親は不幸な事故のために亡くなってしまった。
不名誉はそそぐことは出来たけれど父親は自身は帰ってこない。
悲しくないはずなんてない。
普段は明るく見える波瑠であっても父親を失った悲しみがあったのである。
「圭さんは優しくて、あったかくて……お父さんみたい」
「……そうか」
こんなことを言われては夜滝とカレンも波瑠を引き剥がしようもない。
圭も波瑠の心中を思いやってそっと頭を撫でてあげる。
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