犯罪覚醒者9
カレンについてもそうであるが今理解できないのは圭の方である。
こんなことをして圭が黙っているはずはないのに未だに圭は木の側にぼんやりと突っ立ったままである。
明らかに異常な様子。
「うふふ、彼には私たちの味方になってもらったの」
「なんだと?」
「私のスキルはこの目、なの」
遠藤は自分の目を指差した。
すると目の縁が紫色に染まる。
「私の目を見た人は私の言いなりになるの。男の人限定だけど」
「はぁ? なにそれ!」
「全員殺しちゃったら私たちが疑われるでしょ? でもバカな男が1人か2人、事故がありましたって言えば大体疑われないのよ」
「くっ……圭、目を覚ますんだ!」
「無駄よ。さて、あなたたちには死んでもらうわ」
ピンクダイヤモンドが夜滝と波瑠に襲いかかる。
「波瑠!」
「こっちは大丈夫!」
2人が波瑠に向かっていく。
これまで戦ってこなかったので全く戦えないのかと思ったら意外と2人は連携を取って波瑠と戦っている。
そして夜滝の方には1人が向かっている。
「へぇ、魔法使いのくせにやるね!」
魔法使いは接近戦に弱い。
近くに寄って攻めてしまえば魔法は使えないと激しく夜滝を攻撃する。
けれど夜滝もただではやられない。
懐からナイフを抜いて対抗する。
夜滝もただ魔法ばかりの覚醒者ではない。
近づかれただけで何もできなくなる覚醒者であってはいけないと和輝は夜滝にもナイフを扱えるように教えていた。
夜滝としては体を動かすのは嫌だったので大変不服であったのだがこんなふうに役立つとは思わなかった。
まだまだナイフの扱いは下手くそであるが夜滝の能力は実際D級相当である。
筋力や速度はE級程度の力がある。
あまりそれを活用できないみたいであるが相手のピンクダイヤモンドの覚醒者はF級であり、能力差があるために攻めきれていない。
「何をしてるの! さっさと倒しなさいよ!」
そして波瑠の方も2人を相手に善戦していた。
波瑠の速度に2人はついていけていない。
上手く波瑠の攻撃も防がれているために拮抗しているような形にはなっているがやや波瑠の方が有利な状況である。
もっと簡単に片付くと思ったのに何をやっているのだと遠藤が苛立った顔をする。
どうせ死ぬのに無駄に抵抗なんかする夜滝と波瑠に少し焦りも感じる。
もうボスを倒してしまっている。
あまり長居をしてしまうとゲートが閉じ始めてしまう。
ゲートが閉じる時に中にいるとどうなるのか分かっていない。
しかしゲートが閉じる時に中にいるとそのままゲートの中に閉じ込められてしまうのである。
倒さなきゃ危険なことになるかもしれない。
「チッ……さっさと死ねばいいのに」
「お前がな」
遠藤は先に倒しやすそうな魔法使いである夜滝を狙おうと剣を抜いた。
次の瞬間後ろから声がしてゾクリとした恐怖と共に振り返るとそこに完全にブチギレているカレンが立っていた。
カレンが盾で遠藤を殴りつけた。
硬い盾の縁が鼻の下に当たり、何が起きたのか分からないまま遠藤はぶっ飛んでいく。
盾の力もあってE+の筋力値を誇るカレンの一撃。
折れた前歯と血が飛び散りながら遠藤は2回、3回と地面を大きく転がる。
「なっ……」
「油断はいけないよぅ?」
E級だった遠藤がやられた。
ピンクダイヤモンドに衝撃が走り、完全に油断して遠藤の方をみんなで見てしまった。
その隙を夜滝は見逃さなかった。
夜滝はスキルの力もあって短時間で魔法を発動することができる。
「きゃああああっ!」
夜滝は手のひらを相手に向けた。
夜滝の手から水の塊が放たれて、まるで壁に叩きつけられたような強い衝撃がピンクダイヤモンドの覚醒者を襲った。
「これでいいんだよな!」
「ああ、完璧だよ」
カレンには不屈の再生力を持つ肉体という才能がある。
死なず、魔力がある限りカレンの体はものすごい勢いでケガが治っていく。
たとえナイフで突き刺されたとしても心臓でも刺されていないのならカレンは死なないのである。
実は刺されて倒れてから比較的すぐにカレンは復活していた。
すぐにでも殴りかかろうとしたのだがそれを夜滝が止めていた。
起きあがろうとしたカレンの視界に水で書かれた文字が見えたのである。
“すぐに起き上がらずに隙を狙え”
怒りを覚える状況ほど冷静さが大事になる。
ふと和輝の言葉を思い出したカレンはそのまま死んだふりをすることにした。
戦闘が始まり、カレンのことなど忘れたタイミングでカレンは動いた。
こっそりと起き上がり、遠藤の後ろに回り込んでこれまでにないほど全力で遠藤の顔を殴りつけた。
ピンクダイヤモンドは先に倒すべき相手を間違えたのである。
「波瑠、今助けるぞ!」
そもそも夜滝たちの覚醒者等級はE級とD級である。
それに対してピンクダイヤモンドの覚醒者等級はF級とE級。
2人と3人、という人数差もあった。
勝てるはずがない。
「お前、私のこと刺してくれたよな?」
「ヒッ……」
ーーーーー
「村雨さーん、聞こえますか」
「え……あれ?」
深い霧の中に立っていたような気分だった。
右も左も分からない。
歩くこともできなくてただ真っ白な霧だけが見えている世界に取り残されたみたいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます