犯罪覚醒者4
血がべっとりとした袋を車に積んで置くのもちょっと嫌なので波瑠とカレンが真っ先に同意した。
モンスターで実験を行うこともある夜滝はケロッとしていたが2人が嫌ならばということになったのだ。
スケルトンと違うのはモンスターを回収せねばならないということ。
無視して進めばボスまで倒せそうな気配もあったが適宜休憩を取り、モンスターを回収して一々ゲートを出ると思いの外時間を取られる。
適当なところで切り上げることも話の中であったのだけど圭たち側の都合もあった。
スケルトンの時は仕切り直しても波瑠の予定が空いていたのだけど今回はちょっと予定が空いていない。
ただ相手もそれは理解してくれた。
法人化していないギルドなので他で働きながらというのは向こうも同じだった。
敵はそれほど強くないので波瑠が抜けても攻略はできそうだったが出来るだけ波瑠にも経験は積ませたい。
だから時間を決めてそこまでで攻略出来なさそうなら日を改めることにした。
「波瑠、そこは大きく回りすぎだ!」
和輝の指導が飛ぶ。
突進してくるホーンラビットの後ろに回り込んでナイフで切り裂いたのだけど回り込む軌道も膨らみ、回り込んだ先もホーンラビットのやや後ろになった。
こうした無駄の積み重ねが波瑠の体力を消耗させてしまう。
スピードが速いのでより相手をよくみて動きを先読みする様に動かねば無駄が大きくなってしまう。
波瑠の場合それでも自分の速さで素早く挽回も出来てしまうので無駄を減らそうとする意識が弱かった。
そうしたところを和輝はしっかり見抜いている。
「あの爺さん怖いな」
「だが言ってることは間違っていない。彼らの動きがいいのもあの爺さんが指導しているおかげかもな」
和輝が叱責するところを見てイカマンギルドも少し動きを改めたりしていた。
見よう見まね、直接指導されたのでもないから下手くそであるが最初の5人全員突撃に比べると少し連携も取りやすくなった。
サクサクとホーンラビットを倒してサクサクと袋に入れて回収する。
「あれは……ボスですね」
また2回ほどゲートの中と外を往復した。
双眼鏡を使って周りを見回していたイカマンギルドの覚醒者がボスモンスターを見つけた。
体格はホーンラビットよりも一回り大きく、額に縦に2本ツノが並んでいるツインホーンラビットがゲートのボスである。
そろそろ引き上げようか、という時だった。
倒せるなら今日のうちに倒してしまった方がいい。
満場一致でツインホーンラビットを倒すことにした。
「では……頼みますよ」
先に見つけることができたので作戦を練ることが出来た。
全員でワラワラと詰めて行っても危険が高いのでしっかり攻め方を考えた。
身を隠す場所もないのでとりあえずツインホーンラビットに近づく。
するとツインホーンラビットは圭たちに気がついて激しく足を踏み鳴らす。
鋭く伸びた前歯を見せて威嚇するような表情を浮かべる。
しかしそんな顔してもそんなに怖くもない。
先に前に出るのはカレン。
しっかりと盾を前に出して先頭を行く。
「チッ、こっちだ!」
けれど足に力を溜めて飛び出したツインホーンラビットのツノの向く先は圭だった。
カレンの近くにいて、盾などの防具もなかったのでそちらを狙った。
カレンは魔力をツインホーンラビットに向かって放ち、挑発する。
するとそれにつられたツインホーンラビットが急に方向を変えてカレンの方に向かう。
「カレン、夜滝ねぇ!」
「おう!」
「任せておいて!」
ツインホーンラビットがカレンを狙う。
ここまで作戦通り。
カレンは盾をまっすぐではなくやや斜めに構える。
ツインホーンラビットは頭を下げてツノで串刺しにしようとさらに突撃の速度を速める。
そしてツインホーンラビットのツノが当たった瞬間に体を引きながら盾の表面をツノが滑るように防ぐ。
「ほっ!」
受け流されて大きく体が流れたツインホーンラビットに水の玉が衝突する。
カレンが受け流して夜滝が魔法で攻撃する。
事前の作戦通りに進む。
「ごめんね!」
水の玉が直撃してぶっ飛んだツインホーンラビットに波瑠が飛びかかる。
スキルで風をまとわせたナイフをツインホーンラビットの目に向かって振り下ろした。
「今です! 皆さんお願いします」
片目を突き刺されてツインホーンラビットが大きく怯んだ隙にイカマンギルドの5人がワッと突っ込む。
力の強い2人が2本のツノを掴んでツインホーンラビットをひっくり返す。
「やれ!」
残る田山を含めた3人で一気にツインホーンラビットに攻撃を叩き込む。
「圭さん!」
「トドメだ!」
最後に圭が真っ直ぐに剣を振り下ろす。
しっかりと魔力を込め、和輝に教わったように腕ではなく体で振り下ろされた剣はツインホーンラビットの首に吸い込まれていく。
首を深く切り裂かれてツインホーンラビットの体が大きく震えた。
足が伸びてピクピクと震えていたが数秒もするとパタリと力無く足が落ちた。
「…………」
完全にツインホーンラビットは動かなくなり、ボスを倒したことを確認した。
剣の血を拭う圭の後ろから手が伸びてきた。
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