不穏な潜入1

 拝金教はお金に関することでも勢力を持っている。

 そのためによく分からない財産系のセミナーなんかも開いていて、圭はそうしたものにも参加させられた。


 けれどそうしたものもただではない。

 一般の参加者だったりする人は常識的なお金を払って参加するのだけどすでに拝金教の信者でもあり、さらに入り込みたい思惑のある圭はより大きな金額を渡す。


 拝金教によればこれが信心深さらしいがとんだ現金な考えだと思う。

 相手は圭がお金を持っていると思っているので投資なんかにも挑戦しないかと誘ってきたりもする。


 興味あるフリをして話を聞いてみたりしたけれど悪魔教というより悪どい詐欺のような感じがした。


「申し訳ございません。もしかしたら村雨様にはもう少しお待ち頂くことになるかもしれなくなりました」


 もしかしたら儀式を受けられるかもしれないということで呼び出されたのだけど鈴木に謝られてしまった。


「何かあったんですか?」


「あまりこうしたことをお伝えするのは良くはないのかもしれませんが村雨様は特に信心深くていらっしゃいますのでここだけの話に。ご存じのとおり我々はマモン様という存在にお仕えしてしております。しかしこの世の中にはマモン様以外に仕える愚かなものもいてしまうのです。そうした者どもが我々とは敵対関係にあります」


 一口に悪魔教と言っても悪魔教にはそれぞれ別の集団が中にはある。

 拝金教、あるいは黒月会はその1つで、他の悪魔教と敵対関係にあった。


 それぞれの悪魔教も大体が敵対関係にあって信者の取り合いや利権の争いとなっている。

 今回そうした敵対関係にある悪魔教の1つが日本に進出を狙っていて戦争になりかけているのだと鈴木は言った。


 先日力を奪われた保坂という男は敵対する悪魔教のスパイだったのである。


「こちらとしても警戒を高め、戦ってくれる構成員に力を与えたりするので村雨様にはもう少しお待ちいただきたく思います」


 適当なウソで誤魔化すこともできた。

 しかし圭の献金の額は大きく、ウソだとバレた時に圭を逃してしまうのは痛い。


 けれど本当のことを言っても離れられてしまう可能性はあった。

 一種の賭けみたいなものだった。


 正直に話して時間を稼ぐ。

 事情が事情なだけに圭も納得してくれるだろうと思った。


「……分かりました」


「では」


「その代わり」


「そ、その代わり?」


 鈴木の説明を受けてマズイと思った圭は必死に頭を動かした。

 他の悪魔教と戦争が起こるのは良くないことである。


 悪魔教同士で潰しあってくれるならそれでもいいと考えがちであるが悪魔教同士での戦いに巻き込まれて被害を受けるのは一般人である。

 さらには拝金教が覚醒者に力を与えるのに他の覚醒者から力を奪っているところを圭は見てしまった。


 戦争のために戦力を増強するとなるとなんの関係もない覚醒者が犠牲になる。

 戦争が起こる前に止めなければ大きな被害が出てしまう可能性が高いと思ったのだ。


「与力の儀の儀式を見学させてください」


「また……ですか?」


「疑いたくはありませんが俺に隠れてやっていないだなんてことがあるかもしれません。目の前でやっているなら俺も納得ができます」


 圭がリストアップした名前を元に黒月会についての調査は進められていた。

 ヴェルターは未だに尻尾を出さないが黒月会を相当追い詰める程度には証拠集めは進んでいて、本来ならば圭が儀式に選ばれた時を狙って突入する計画も考えられていた。


 けれど儀式の場所が分かっていないことやヴェルターに関して証拠集めが進んでいないことなど問題はあった。

 せめて儀式の場所を特定するのにもう一回ぐらいは儀式に参加しなければならなかった。


 口では誤魔化して儀式をやっていないのではないか。

 そう圭が疑っているかのように見せかける。


 だからまた儀式を目の前で見せてほしいと話の流れを持っていく。


「うーん……まあ、ご見学なさるだけなら」


 与力の儀をやっていることにウソはない。

 受けさせろではなく見せろというだけなら無理な話ではない。


 悩みながらも鈴木はそれを了承した。

 見せるだけで金づるを引き留めて置けるのならお安い御用であると考えていた。


 ーーーーー


 どうにも圭だけでは儀式を行う場所を正確には把握できない。

 もはや時間の猶予もなく儀式を行う場所を見つけるためには古典的な手段も取らねばならない。


 今度は袋もかぶせられず車で移動する圭を車で追跡する。

 追跡するのは大海ギルドと覚醒者協会の合同チーム。


 慎重に選ばれたメンバーからなるチームであり圭の乗った車を尾行してどこに向かっているのかを突き止めようとしていた。

 バレないように慎重に尾行していたので一回では成功しなかった。


 特にルートを変えることなどしなかったので前回の続きからさらに尾行を開始したりして向かう先を明らかにしていった。

 3回目でようやく圭が着いた屋敷が判明した。


 その地域はかつて初期のブレイキングゲートによって破壊された地域で通信施設なども破壊されたので一帯が圏外となっているのであった。

 通信もできないという他からは隔絶された特徴はあるがアクセスも悪くないことに目をつけて逆に別荘地として利用されているのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る