酷い人たち4

「く……」


 仕方なく波瑠から距離を取るリーダーの男に今度は大きな水の玉が飛んできた。

 リーダーの男は水の玉を切り裂いたが形を失った水を頭からかぶることになった。


 スッと流れ落ちずにまとわりつくような水にリーダーの男の視界が奪われた。


「大地の……力ぁ!」


「グフっ……」


 リーダーの男の腹に地面から突き出してきた岩の塊が直撃する。

 レベルが上がって新しく覚醒したカレンのスキル、大地の力。


 能力として地の力を操る魔法に似ている。

 壁や盾を作って防御したり体を固くするといった力があるスキルである。


 魔法ほどの自由度はないけれどスキルの範囲内であるならば魔法よりも強力で使う魔力は少ない。

 さらにはノーキャストマジックのような発動の素早さもある。


 スキルをコントロールして壁を出すことによってある種の攻撃のまねごとまで和輝の教えでカレンは出来るようになっていた。

 ただし攻撃するためのスキルではないので攻撃力としては低めではある。


「少し……寝ててもらおう!」


 見た目の派手さ以上のダメージはないが水と土の攻撃にリーダーの男の意識は完全に圭から逸れていた。

 魔力を右手に込めた全力の一撃。


 リーダーの男の頬に圭の拳がめり込んだ。


「チームワークも出てきたな」


 リーダーの男が2転3転と地面を転がる。

 完全に気を失ってリーダーの男はピクリとも動かない。


「終わった……」


 途端に体が重たくなるような感じに襲われる。

 スキル導く者の効果が切れたのだ。


「た、助けてください!」


 けれどぼんやりともしていられない。

 女性が血に塗れて倒れた仲間の傷口を押さえている。


 急な戦いになって忘れていたがケガ人がいるのだ。


「血が……止まらなくて!」


 泣きそうな顔をしてどうにか出血を押さえようとしているが血が止まらない。

 傷口を押さえられている方の男性の顔色もかなり悪い。


「……ダメだ」


 圭がスマホを取り出すが電波の表示は圏外。


「波瑠、助けを呼んできてくれ!」


「分かった!」


 この中では波瑠が1番足が速い。

 危険はあるけれどこの辺りのモンスターで波瑠の速さについてこられる速さのものはいない。


 波瑠が全速力で走り出す。

 圭は荷物の中から救急用のキットを取り出す。


 大ケガに対応できるものではないが何もないより遥かにいい。

 倒れている2人とも男性で派手に血を流しているがまだ息はあった。


 状態は素人目にも良くないことが分かるぐらいで1人は後ろから大きく背中を切られていた。


「波瑠……早くしてくれ……!」


 ーーーーー


 波瑠が呼んできてくれた助けによってケガ人たちは搬送された。

 圭たちにも襲いかかってきた男たちは覚醒者協会によって逮捕されて圭たちは念のため検査を受けるために病院にいた。


 助けた女性は名前を上杉朱里うえすぎしゅりと言って覚醒したばかりで知り合いと練習がてらモンスター討伐をしていた。

 そこに現れたのがあの男たちであり、一緒に狩りをしないかと誘ってきた。


 いきなりの提案に当然怪しんで断ったのだけど男たちは付きまとってきた。

 どうにも気味が悪くて帰ろうとしていたら男たちがいきなり切りかかってきたのであった。


「朱里!」


 巻き込んでしまったからと正直に朱里が事情を話していると待合室に慌てたように女性が入ってきた。

 誰だと聞こうとしたが女性の方に目を向ければそれが誰なのかすぐにわかった。


 目を引く青い髪をなびかせて入ってきたのは上杉かなみであった。


「お姉ちゃん!」


「おね……上杉ね」


 圭はかなみと朱里の苗字が同じことに今気がついた。

 言われてみれば顔も意外と似ている。


 かなみは魔力の影響で青い髪をしているがもっと落ち着いた暗いカラーにしたら姉妹だと普通に分かりそうである。

 かなみに妹がいるとどこかのニュース番組か何かで聞いたことがあるなとも思い出した。


 まさかあんなところで出会うなんてことあるとは思わなかったので気がつかなかった。


「ケガはない?」


「わ、私は大丈夫だよ!」


 かなみは圭たちには目もくれず朱里に駆け寄ると頬を手で挟んでグリグリと動かしてケガがないかを見回す。

 朱里は困ったような顔をしてされるがままに頭を動かされる。


「新人狩りにあったんでしょう? だから覚醒者として活動しようとするのは反対だったのよ……」


「だって私もお姉ちゃんみたいになりたくて……」


「それで命落としちゃ何にもならないじゃない」


「そ、そうだけど」


「あなたたちが助けて…………」


 振り返ったかなみと圭の目があった。

 よくよく見れば何だか見たことがあるメンバーだなとかなみは思った。


「……まさかジェ……圭君が助けてくれただなんてね」


 何でこいつ下の名前で呼んでるんだと夜滝たちがいぶかしむようにかなみを見る。

 朱里から事情の説明を受けたかなみは驚いたようにため息をついた。


 かなみは完全にジェイが圭であると気がついているようであるが圭は曖昧に笑っていることしかできない。


「ひとまず感謝するわ」


「こちらは以前助けてもらいましたしね」


「あれはお仕事だったから。大事な妹を助けてくれたことはしっかりお返しするから」


「そこまで恩に着ることも……」


 命を助けられたことでいえばむしろ圭たちが感謝して然るべき。

 恩の大きさを比べるなんて無粋なマネをしないで考えるとこれでチャラぐらいでいいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る