蛇と呼ばれる男、虎と呼ばれる男6
またしても予備動作がなかった。
北条の足元が大きく3回爆発した。
爆発の直前には魔力の高まりを足元では感知できるのだがそれでは回避までに時間がなさすぎる。
まともに爆発を食らって北条が飛んでいく。
品がなく中指を立てるという行為はあったけれどあれが爆発を発生させる動作には思えなかった。
先程はそのような行為もしていない。
なのに爆発が発生している。
「いつから仕込んでいた」
「気づくのおせーよ。最初から。戦いながら準備をしていたのさ」
北条は顔をしかめながら立ち上がる。
流石に度重なるダメージが蓄積してきている。
リウ・カイはオロチと呼ばれる。
覚醒者になる前から裏の社会で危ない仕事を請け負って生きてきた。
狡猾で残忍。
それでいながらどんな相手でも倒して、飲み込んできた。
カイは北条と戦いながら地面に魔力を送り込み隠していた。
それらの魔力はカイの意思一つで爆発を起こす。
北条は戦っている場所がいつの間にかカイの好きにできる地雷原にされてしまっていることに全く気がついていなかった。
「くっ……」
もはやどこが爆発するのかもわからない。
爆発の威力は全く馬鹿にできるものではなくこれ以上耐え続けるのにも限界がある。
「諦めなよ? そしたらさ、楽に逝かせてあげるさ」
「ふふ……そのようなつもりがないことは分かっている」
「あの爺さんみたいなこと言うんだな」
「遅かったな」
「……なに……が」
急に噛み合わなくなった不思議に遅くなったなどという言葉。
カイは北条が自分ではなくその後ろを見ていることに気がついたのは体に水の触手が巻き付いてきた後であった。
「なんだ……さっきの女か? いや、こんな力はなかった」
水の魔法なのでカイはとっさに夜滝のことを思い出した。
けれど夜滝の魔法は優秀であっても魔力が低くて力が確実に足りていなかった。
なのにこの水はカイの体に巻き付いて力を込めても抵抗ができない。
「だれだぁ!」
夜滝ではない。
カイはようやく後ろにいる強い魔力の存在に気がついた。
「遅かったではないか、上杉」
「森の中にもう1人やられた人がいたのよ。弱ってて魔力も感知できなくて探すのに手間取ったの」
その存在とは上杉かなみであった。
すぐに北条に加勢したい気持ちはあったけれど森の方に殴り飛ばされた和輝を探して救出していた。
死んではいなかったがかなり弱っていて探すのに手間取った。
さらには騒ぎを聞きつけたバイペッドディアも集まってきて走って追いかけてくるものだから和輝の容態を考えて殲滅までしていた。
そのために遅くなってしまった。
「それにしても手酷くやられてるじゃない、英雄様」
「おい、そこは!」
かなみがカイの横を通り過ぎ北条のところに向かう。
誰なのかは知らないが青い髪が見えた瞬間カイはニヤリと笑った。
まだまだ地面に仕掛けた魔力の爆弾は残っている。
明らかに北条よりも脆そうに見えるかなみなら簡単に爆破して殺してしまえると思った。
「いつもの決めた感じのあなたよりもワイルドで良いわよ」
しかしかなみは平然と北条の前まで歩いてきた。
驚きに目を見開いているのは北条だけではなく、カイも同様であった。
「な、なぜ……」
「あら? この地面の中の薄汚い魔力はあなたの魔力だったのかしら?」
当然にカイはかなみを爆破しようとした。
しかしいくら意識を向けても魔力が爆発することがなかった。
「何しやがった!」
今も爆発が起こせない。
カイは血走った目でかなみを睨みつける。
「そんな怖い目をして……簡単なこと。より強い魔力であなたの魔力を押さえてつけているのよ」
北条よりもはるかに魔力に関して優れているかなみは地面に魔力が不自然に固まっていることを感知していた。
北条がそんなことをして戦う人でないことは知っているのでその魔力がカイのものであると分かっていた。
だからかなみはカイと同じように地面に魔力を送り込んだ。
そしてカイの魔力を包み込むようにして封じ込めていたのである。
タイプとして北条は体力が高い接近系覚醒者であり、カイは力や速度、魔力も高い平均タイプ、そしてかなみは魔力が高い魔法タイプである。
かなみの魔力にカイの魔力は勝てなかった。
だから爆発しなかった。
「それじゃあ……うっ!」
このまま水でも拘束して連れていく。
カイの全身に水が広がり始めた瞬間カイの体が大きく爆発した。
「上杉!」
「私は無事よ! ……あいつ、逃げていくわ!」
周りに土埃が舞って視界がゼロになる。
その中でもかなみは魔力の感知を通して北条やカイの位置を大体把握している。
襲いかかられることも警戒していたのだが、カイは素早くその場を離れ始めた。
勝ち負けなど重要なことではない。
カイにとって1番大事なことはプライドでも金でもなく生きていることである。
生きていれば再起することなどいくらでもできる。
覚醒者としての能力があるなら尚更だ。
北条との戦いでかなり力を使ってしまった。
あのまま一対一で戦っていたならば北条の命も取れていた自信はあるけれどかなみまで参戦してきては勝機はない。
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