ブラックマーケット2
「これです」
見た目も大事。
こうしたところほど意外と見た目が大事になるのである。
事前に箱を買ってその中に入れておいた魔石を手に持っていたカバンから取り出してスーツの店員の前に置く。
「それでは失礼いたします」
スーツの店員は白い手袋を着けて箱を手に取る。
開けると中にはやや青みがかった半透明の手のひらほどの大きさの魔石が入っている。
ヘルカトの魔石ではなくヘルカトの上に落ちてきた大きなモンスターの魔石である。
確かジャイアントトロールの魔石だったはずである。
「これは……」
これまで一貫して営業スマイルだったスーツの店員の顔に驚きが広がった。
「失礼ですがお客さま、こちらの魔石一度奥に持っていって調べさせていただいてもよろしいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
こうしたブラックマーケットでは商品を奥に持って行ってすり替えるということも起こりうる。
けれど圭には真実の目という鑑定スキルがある。
実際やられて、すり替えを指摘して無事に事態を収拾出来るかは別問題だがそれで騒ぎなるようなら目の前で持っていかれてもさほど差はない。
スーツの店員が奥に下がってすぐ入れ替わりで女性の店員が出てきた。
案内されて個室に通されてちょっと緊張感が高まる。
「ごゆっくりどうぞ。ご用がありましたらこちらのボタンを押してください」
何かあったのかと緊張するけれど女性の店員はなぜかグラスを圭の前に置いた。
そこに注がれたのは高そうなシャンパン。
ニコリと圭に微笑みかけて女性の店員は個室から出て行く。
訳が分からないけれどお客として認められたのかもしれないと圭は考えた。
マスクをずらしてシャンパンを一口飲む。
こうしたところで出されるのだからきっとお高いのだろう。
しかし圭は緊張でシャンパンの味がよく分からなかった。
ただ緊張で口は渇いてきていたのでありがたい。
時計もない部屋なので時間もわからない。
多分それほど長くないけど長く感じられるような待機時間を過ごした。
あっという間に飲み干してしまったシャンパンも追加で注いでもらった。
「お待たせいたしました」
スーツの店員が部屋に入ってきた。
「鑑定が終わりました。こちらの魔石は高等級、B級相当のモンスターの魔石であると確認されました」
「び……そうですか」
圭は驚いた。
魔石はてっきりC級だと思っていたから。
そういえばと思い出してみる。
魔石を真実の目で鑑定してみた時に書いていたのはCランクと書いてあった。
よくよく考えてみるとステータスでも総合ランクは覚醒者等級の1つ下で表示される。
つまりCランクの魔石はB級の魔石なのであった。
「より詳細な鑑定は必要ですがB級の中でも高品質のものでしょう」
店員としては本当なら圭にこの魔石の出自を聞きたいところであるがブラックマーケットでは物の経緯は問わない。
よほど危険なものならば事情も違うけれど裏にいる間に高等級の魔石についての情報も調べた。
どこからか盗まれたとかそのような話はなく、圭の背景は分からなくても魔石そのものに危険な経緯がなさそうなことは確認していた。
「ご希望は買い取りでしょうか?」
「そうです」
「こちらご提案になるのですが」
「なんでしょうか?」
「オークションに出品なされませんか?」
「オークションですか?」
予想外の提案だった。
てっきりさっさと買い取って終わりかと思っていたのでそのような提案されるとは想像していなかった。
「なぜオークションに?」
向こうとしても買い取ってしまった方が話が早いのにどうしてオークションを薦めるのか。
「高等級の魔石はなかなか市場に出回らない珍しい物となります。そのために欲しがる人もいるのですがなんせ貴重なものであるために値段の算定が難しいのです。それならいっそのことオークションに出された方がおそらくここでご提示させていただく金額よりも高値で売れる可能性が高いと思われます」
「そ、そうなんですか。オークション……」
圭は悩む。
高く売れるなら高く売れる方がいいに決まっている。
しかしオークションに出品するとなると今すぐ買い取ってもらうことよりも時間がかかってしまうことは明白である。
「今でしたら3日後にオークションがございます。そこまでにより詳細な鑑定を行いまして、商品登録等済ませてお出しになることは可能です。お支払いも落札者様から入金を確認後すぐに出品者様にお支払いできます」
「なるほど……」
それならばお金が手に入るまでそんなに時間もかからなそうだ。
「ここだけの話ですが今回のオークションでは出品の数も多く、目玉となる品もあります。そのためにオークションに参加なされる人も多いので高額になる可能性が高いと思われます。……どうでしょう、オークションに出品してくださるなら手数料は免除で順番は1番最初、そのあとに気に入ったものがありましたらオークションの落札金からもご入札出来るようにいたします」
「……分かりました。ではオークションに出品することにします」
お金は多い方がいい。
額面通りの借金を支払ってハイ終わりといかないかもしれないので用意しておく金額は高めに見積もっておきたい。
「ありがとうございます。ではそのように手続きいたします。お品物お預かりしてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「少々お待ちください」
スーツの店員は魔石を持ってまた部屋を出て行った。
そして今度はカードのようなものをトレーに乗せて持ってきた。
「こちらが出品者様の身分を証明してくれるものとなります。落札金など受け取る際に必要となりますのでなくさないようお気をつけください」
圭はカードを手に取ってみる。
真っ黒で何も描いていないカード。
「最後になんとお呼びしたらよいかお名前をお聞かせください。もちろん本名でなくても構いません」
「ええと……」
いきなり名前と言われてもと圭は焦る。
ここまで来て本名を名乗るわけにはいかない。
バレないためにきたのだから偽名を名乗らなければならないけれど普段から名乗っているわけでもないのでパッと思いつかない。
「ジェ、ジェイで」
「ジェイ様でいらっしゃいますね。承りました」
圭、ケイだからK。
アルファベットでKの隣でJ。
だからジェイ。
安直な名付け方だけどとっさに考えたにしては良いんじゃないかと思う。
「それではジェイ様、3日後のオークションにてお待ちしております」
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