飛び始めた小鳥を狙う闇4

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「どうしようか?」


 次の日にひとまず波瑠を一度家に帰した。

 流石に一晩中ホテルの前で待ち伏せしているようなことはなくて安心した。


 解散したのだけどレベルアップの報告やストーカーについて話し合う必要もあって、また圭が迎えに行くことになった。

 波瑠が家に居て襲われるのも心配だった。


 母親の方も心配は心配だがいつでも狙える母親ではなく波瑠の方をつけてきていたなら狙いは波瑠だろうと推測した。

 波瑠が狙いなら波瑠を離しておいた方が安全である。


 水野も呼んで夜滝の部屋に集まった。

 空気は重い。


「まさかお金を払いたくないとか自分たちの責任逃れのために波瑠ちゃんを? そんな……」


 水野の顔は青い。

 いかに冷たい世の中とはいえ自分の身の保身のために人を殺そうとするだなんて信じられない。


 だが圭が狙われるような理由は全く思いつかない。

 まだ確定ではないが波瑠の父親の会社から波瑠が狙われる可能性が1番高いのは言うまでもなかった。


 というか、それぐらいしか狙われる理由なんて誰にもないのだ。

 それでも暗殺するなんていうのは異常な手段であるとしか言いようがない。


「会社の方はどうでしたか?」


「まだ調査中で時間が欲しいとだけ……」


 どう考えても引き伸ばしている。

 その間に波瑠を消してこのことをうやむやにしようとしているとしか思えない。


「告発しちゃいましょう。あちらがさっさと払ってくれればよかったのにそうしないのなら覚醒者協会に話を持っていけばいいんです。問題が明るみに出ればあちらとしても手を出せはしないでしょう」


「そうした方がいいかもねぇ」


「ちょっと無理な話かもしれないが友達のところに泊まると言って数日こっちで匿おうか」


「うん、そうしよう」


「資料を整理して協会に出します。もうこんな時間だし今日中には出せ……いや、出してみせます」


 水野の時間の都合もあった。

 水野が来てから話し合っていたら時間的にはもう完全に夕方が近いぐらいになっていた。


 覚醒者協会も二十四時間営業ではなく一般企業にも近い形で動いている。

 今から資料をまとめて急げばどうにか提出出来るかといったところだった。


 ただどうするかの方向性は決まった。

 水野は早速教会に会社を告発するための資料を取りに行き、圭は波瑠と家に帰って波瑠が数日外泊する許可や準備をすることになった。


「こんなことに使っていいのかな?」


「しょうがないよね、危機的状況だから」


 家に帰る前にRSIで装備を借りてきた。

 以前借りたものよりも軽量で服の下に隠せるようなものを選んで借りて万が一に備えた。


 車も借りたかったのだけどそちらは予約が埋まっていて借りられなかった。

 仕方なく圭と波瑠は歩いて波瑠の家に向かった。


『スキル導く者が発動しました。

 闇が小鳥を狙っています』


「圭さん?」


 昨日と同じ場所。

 再び表示が現れて圭は立ち止まってしまった。


 しかしすぐに歩き出す。


「まさか……」


「そのまさかだ」


「……ど、どうしますか?」


「もうこのまま乗り切るしかない。家に帰ってすぐに準備をするんだ」


「そ、そうですね」


 つけられていることに気づいているのに気づかれてはいけない。

 出来るだけ平静を装って歩く。


「圭さん?」


「何か話しかけてて。外から見ても不自然じゃないように」


「えと……わ、分かりました」


 圭はスマホを取り出す。

 波瑠が話しかけているのに返事をしているように装いながら圭は夜滝に連絡を入れる。


 警察に電話してほしいと。

 今ここで圭が警察に電話をするのはまずい。


 無理矢理襲ってくるかもしれない。

 何もなかったら夜滝が適当な通報をすることになってしまうのだけど、なんだかとても嫌な予感がした。


 スマホをポケットにしまって角を曲がる。

 街灯が少なく、人通りもない。


『スキル導く者が発動しました。

 闇が動き出しました』


「……波瑠、伏せろ!」


 圭は波瑠を抱き寄せるようにして体勢を低くした。


「ほぅ? G級だと聞いていたのに勘が鋭いんだな」


 後ろから音もなく近寄ってきていた忠成がナイフを振っていた。

 圭が体勢を低くしなかったら後ろから首を切られていたかもしれない。


「だけど幸運は続かないぞ!」


「波瑠!」


 忠成のナイフの狙いはやはり波瑠だ。


「圭さん!」


 波瑠を庇うように前に出た圭の腹に向かって忠成はナイフを突き出した。


「なに……?」


「このクソ野郎!」


 ナイフは圭の腹に刺さらず止まった。

 圭は動揺した忠成の顔を殴りつける。


 備えあれば憂いなし。

 町中で大きな装備を持っていれば目についてしまう。


 動きの邪魔にもなるし警察や通行人からも目立たないようにしているはずだと思った。

 武器として持っているなら短剣やナイフなどの隠し持てるものだろう。


 魔法を使ってくる可能性も考えたけれど魔法を町中で使えばそれこそ目立ってしまう。

 なので魔法的な防御力は低いけど防刃性能の高い防具を選んで中に着ていた。


 ちょっと暑いけどこれが凶刃を防いでくれるならと我慢した甲斐があった。


「波瑠! 逃げ……」


「逃すかよ!」


「ぐっ!」


「圭さん!」


 殴られた忠成はすぐさま持ち直して圭を殴り返した。

 殴られた衝撃で鼻血は出ているが見た目ほどダメージもない。


 仮に同等級であってもその内部では差があると言われている。

 装備の補助があっても等級が上がらなかった圭はその等級の中でも能力は低かった。

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