レベルアップ2
名前がダサいのはただ単に夜滝のネーミングセンスの問題である。
「これであの檻のモンスターを突き刺してほしい」
夜滝は圭に槍を渡す。
軽くて扱いやすい。
完成品ではないのにもう実戦にも使えそうなクオリティをしている。
「あっと、その前に記録の準備をしないとね」
ただ槍を刺して終わりにしてはいけない。
今後の参考のためにも記録用にカメラを設置して、実験に使うモンスターの状態なども記入しておく。
こういった準備は次からは助手である圭も出来るようにならねばいけない。
「それじゃあ始めるよ」
夜滝がカメラの録画ボタンを押す。
赤いRECのライトが点く。
「えーと……今日は何日だったかな?」
夜滝がケイタイで日付を確認する。
「そうそう、5月17日。低級運用毒属性武器実験。被験体はビッグラット1。武器の運用者はG級覚醒者村雨圭。それでは実験を始める」
いつになく真面目な顔の夜滝に圭も背筋を伸ばす。
「まずは何もしないでただ槍を刺してみてほしい」
圭が近づくと檻の中のビッグラットは激しく檻に噛みついて圭を威嚇する。
人ほどの大きさもあるビッグラットは戦闘能力のない圭にとってとても威圧的に見える。
檻越しでも自分よりも強者であることの圧を感じて逃げ出したいような気持ちにさせられる。
「いきます」
深呼吸をして恐怖に立ち向かう。
槍を構えて、一度夜滝に視線を送る。
夜滝がうなずいて、圭もうなずき返して槍を突き出した。
手にかかる鈍い感触。
戦った経験のない圭には初めてのものだった。
すぐさま槍を抜いて後ろに下がる。
痛みに怒ったビッグラットが出てくるかもしれないと思ったからだ。
檻の中で激しく暴れるビッグラットだが丈夫な檻が壊れることはない。
「お疲れ。もう一度頼めるかい?」
「もう一度?」
「そう。今度は別のやつを、槍に魔力を込めるようにして刺しておくれ」
「分かった」
と言われても結構難しい。
圭には魔力がほとんどない。
自分のステータスでもG級だったように一般人に毛が生えた程度の魔力なのだ。
最初に刺したビッグラットの横の檻の前に立つ。
今度は槍を構えて少し集中する。
自分の中にある少ない魔力をコントロールしようと試みる。
魔力が少ないというのも厄介なもので少なすぎると逆にコントロールすることも難しいものであるのだ。
体の中を動かして魔力を槍に込めていく。
魔力そのものは少ないがコントロールすることは意外と苦手でもない。
「やっ!」
魔力が少ないので長時間槍に魔力を込めていられない。
槍に魔力を込めてすぐ圭はビッグラットを突き刺した。
少なくとも魔力は魔力。
そのおかげか1回目よりもビッグラットに槍が深く突き刺さる。
「ほっ!」
しかし調子には乗らない。
すぐさま槍を引き下げる。
「うん、いい感じだ。これで刃先を拭いてくれ。毒があるから指を切らないようにね」
カメラを止めた夜滝に布を渡されたのでそれで槍の先についた血を拭う。
「次は私が槍で刺すから同じようにカメラや記入をお願いしてもいいかな?」
「わかったよ」
ちょっと実験のメモの取り方とかとかも教えてもらって今度は夜滝が槍を持つ。
カメラの録画を開始して夜滝がやったように記録を始める。
手慣れたように意識しないで槍を刺すのと魔力を込めて槍を刺す2パターンをやってみせる。
「これは何のために?」
魔力を込める方は分かるのだけど込めない意味が分からない。
「言っただろう、低級だと高級の素材を使った武器を扱えないって。けれど高い等級の人は特に意識しなくても武器を扱うことが出来る。中には通常の状態では扱えない人や扱えない武器もあるのだけどね」
そこで夜滝はその違いが何なのか考えた。
単純に等級が違うというだけでなく扱うために必要な何かがあるのではないかと予想を立てて実験をしてきた。
「魔力。これが武器を扱うために必要なのではないかと考えたのさ」
高い等級であればあるほど体に保有する魔力は多く、意識しなくても体の外に放出されている。
放出されている魔力が基準に達していれば武器も自然と効力を発揮するのかもしれないと予想を立てた。
逆に低級では魔力が低く放出されるものも少ない。
通常状態での武器の効果の発揮具合と魔力を込めた時の発揮具合とで比べる目的があった。
「ついでに……お手伝い頼めるかい?」
夜滝は護衛についているチームから1人の女性を手招きした。
「C級だったよね?」
「はい、そうです」
真面目そうな黒髪の女性。
夜滝はその女性にも槍を持たせて同じように槍を刺してもらった。
「あとは効果が出るまで待つだけだね」
護衛チームに監視をお願いして夜滝たちは研究室に戻る。
やったことなどをパソコンにもデータとして送ったりメモしたことを文字として起こしたりもする。
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「流石に早いねぇ」
そんなことをしていると護衛チームから連絡が入った。
駆けつけてみるとビッグラットが死んでいた。
「助手君、カメラを用意して時間を記録するんだ」
「はい」
圭はカメラを立てて回し、メモに現在の時刻を書き込む。
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