フィールドワークもするのさ6

「あっ、ごめ……」


「ダメだ」


 頭の後ろに柔らかく温かい感触。

 上から夜滝が見下ろすような体勢。


 自分は寝転がっている。

 膝枕されているということに気づくのに時間はかからなかった。


 起きあがろうとした圭の頭を押さえつけてそのままの体勢を維持する。


「や、夜滝ねぇ?」


 夜滝は優しく笑って圭の頭を撫でる。


「いきなり動くのは危ない。


 それに圭は私を助けてくれたんだ、これぐらいさせておくれよ」


 そう言いながら夜滝は圭の分け目を変えてみたりと少し遊んでいる。


「うっ!」


「け、圭!?


 どうした?

 まだ傷が痛むのかい?」


 急に頭にひどい痛みが走った。

 この感覚には覚えがある。


「ひ、平塚さん!」


 大竹がテントに飛び込んできた。


「どうしたんだい?」


「ゲ、ゲートが!」


「ゲートが?」


「とりあえず来てください!」


「よいしょ……行こう、夜滝ねぇ」


 流石に膝枕を人に見られるのは恥ずかしい。

 圭はサッと立ち上がるとと夜滝に手を差し出す。


「むっ……しょうがない」


 圭の手を取って夜滝も立ち上がる。


「ゲートが攻略されました……」


 出てみるとゲートの色が変わっていた。

 淡い青色だったゲートが色を失って白く光っていた。


 これはゲートのボスが倒されて攻略され、ゲートが消失する直前であることを示していた。


「ゲートの前には我々がいて誰も入っていないはずなのですが……」


 ゲートは攻略されると少し時間を置いて消滅する。

 消滅するゲートにいるとそのまま行方不明になってしまうのでこうなると中に入ることはできない。


「なぜ……」


「多分俺がやっちゃいましたね」


「心当たりでも?」


「俺がボスモンスターに刺したの毒の槍ですから」


「あっ……」


 先ほどの具合の悪さの原因はおそらくレベルアップだと圭は勘づいていた。

 思い返してみれば圭は夜滝を助けるためにとっさにサイレント叫ぶイノシシに槍を突き刺した。


 身近にあった槍は当然実験のために持ってきていた夜滝特製毒棒君である。

 急なことだったが夜滝を助けるためにありったけの魔力を槍に込めた。


 ということは毒が発動していたはずなのである。

 目に突き刺さった槍は持っていかれてしまったが毒はしっかりとサイレント叫ぶイノシシの体を侵食していた。


 つまり時間差でサイレント叫ぶイノシシは毒で倒れたのだろうと推測することができた。


「なるほど……確かにボスモンスターも等級的には槍の毒よりも下になる。


 毒に冒されれば死ぬことも考えられますね」


 圭の予想を聞いて大竹は納得した。

 圭を助けてそこから離脱することを優先していたので槍のことなど忘れていた。


「奇しくもボスモンスターにも槍が有効なことは立証できたね」


 一瞬強く光を放ってゲートが消失していく。


「まあ……一定以上の効果があることは分かった。


 いくつか考えていた調整を試せなかったのは残念だけど命がある方が大事。

 あとはまた君たちにモンスターを捕らえてきてもらうとしようか」


 圭の等級でも槍は効果を発揮し、ゲート内でも問題なく作動することも分かった。


「村雨さんお怪我は大丈夫ですか?」


「あ、はい。


 もうそんなに痛みません」


「よかったです。


 でも帰ったら始末書ですかね?」


「ん、そんなのいいよぅ。


 イレギュラーなことだったし君たちが外されたら私も困るからね」


 あれだけ存在感のあったゲートが跡形もなく消えてしまった。

 不思議なものであると圭は思う。


「それにしても……また、同じ道を帰らなきゃいけないのかい?」


「そうだね」


「圭、おんぶだ!」


「こっちは病み上がりだよ?」


「膝枕してあげたじゃないか!」


「ちょ!


 それは!」


 みんなの前で膝枕のこと言わなくてもいいじゃないか。

 少し悩んだけれど今山を降りれば麓の町でホテルを取れるかもしれない。


 ごねる夜滝を何とか宥めて圭たちは山を降りることにした。

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