フィールドワークもするのさ4

 再び捕獲チームが叫ぶイノシシに向かっていく。

 こうして叫ぶイノシシを捕まえては何パターンか用意した槍を試していく。


「やはり魔力伝導率を高めたものが今の所1番毒の量も多くて良いね。しかし使用感としてはやや重くて手にずっしりと重さがかかってくる。一方軽量な素材を使えば槍としては扱いやすいかもしれないけど毒が弱い……。そもそも先端として用いるにはそのものの素材だけではやや硬さに難がある」


 これまでのデータなどを眺めながら夜滝はぶつぶつと思考に耽っている。


「おかしいな……」


 そして圭もちょっと悩んでいた。

 何体か叫ぶイノシシを倒したはずなのだけどレベルが3から上がらないのだ。


 大体こうしたレベルってやつは序盤ほど上がりやすいはずなのに中々上がらなくてヤキモキしていた。

 ついでに夜滝の方のレベルも見てみたけれど上がっていない。


 レベルアップも謎である。

 ゲーム的に考えると目に見えない経験値的なものがあってそれが溜まっていって一定のところまで溜まるとレベルアップすると考えていた。


 しかしレベルアップの原理がそうだとは限らない。

 例えば一定数の討伐が必要だったり何かレベルアップのための条件があったりする場合もある。


 もしかしたら一種類につき一度しか経験値的なものが得られないとかもっと高い等級の魔物でなければいけないとか情報が少なくてレベルアップの条件も特定できない。


「あとは大きな群ればかりですね。これ以上奥に進むとボスモンスターと遭遇する可能性もあるので一度引き上げてまた叫ぶイノシシが分散するのを待った方がいいかもしれません」


 大竹が周りの調査を終えてその報告を夜滝にする。

 別に多少数が増えても捕獲チームに問題はないけれど討伐が目的でもないのでリスクは避けておく。


「そうだね。今日のデータをまとめたり槍の細かい調整をするために外に出ようか」


 ぼんやりと真実の目を発動させたまま夜滝の方に振り向いた。


『サイレント叫ぶイノシシ

 黙ることを覚えた叫ぶイノシシ。

 それに伴いスキルとして隠身を手に入れた。

 ボスモンスターであり体が一般的な叫ぶイノシシよりも大きく力が強い。

 ただし知能などは叫ぶイノシシと変わらない。』


「えっ……」


 それまでは見えていなかった。

 しかし真実の目による説明を見て意識した瞬間にそれが見えた。


 やや背の高い草に体を少し隠すようにして大きなイノシシが夜滝の後ろにいたのだ。

 誰も予想していなかった。


 猪突猛進に突っ込んでくるだけのイノシシが黙ることを覚え、姿を隠すスキルを手に入れているなんて。

 警戒を怠っていたわけではないがスキルによって姿を隠していると知っているのとは警戒のレベルが違う。


「夜滝ねぇ、危ない!」


 判断としては間違いだったと思う。

 大竹もいたのだし先に彼に声をかければよかったのかもしれない。


 だけど気づいた時には圭の体は動いていた。

 側にあった槍を手に取り走った。


 夜滝の横を通り過ぎて足を踏み鳴らして突撃を始めようとしているサイレント叫ぶイノシシの前に飛び出した。

 圭がそうしてようやく他のみんなもそこにボスモンスターであるサイレント叫ぶイノシシがいたことに気がついたのだ。


「うわあああっ!」


 サイレント叫ぶイノシシの突進に真正面から突っ込むことになってしまった圭は叫びながら槍を突き出した。

 上手く狙い通りに槍はサイレント叫ぶイノシシの目に突き刺さってサイレント叫ぶイノシシがわずかに怯んだ。


 しかし一度走り出したイノシシは簡単には止まらない。

 止まってしまえば危険なことはサイレント叫ぶイノシシは分かっている。


 だから痛みに耐えてそのまま加速した。

 次の瞬間空が圭には見えた。


 地面が見えた。

 世界が回転した。


 不思議な浮遊感を感じた。

 一瞬で移り変わっていく視界の中で大竹が夜滝を抱きかかえるようにして助けているのが確かに見えた。


「圭!」


「総員戦闘準備! 村雨さんと夜滝さんを助けるんだ!」


 圭は宙を舞っていた。

 サイレント叫ぶイノシシの牙にはね上げられてグルグルと回転しながら上昇し、そして力なく落ちてきた。


「村雨さん!」


 小橋が飛び上がって圭を受け止める。


「クッ……追いかけるな!」


 緊張の戦いが始まる。

 そう思ったのだが目に槍を突き刺されたサイレント叫ぶイノシシは走り出した勢いのまま逃げ去ってしまった。


 このまま倒すべきか判断に迷ったけれど大竹は他の叫ぶイノシシも襲ってくる可能性があるので周りを警戒することの方が優先だと考えた。

 圭もケガをしているし防衛に力を入れるべきである。


「圭……圭!」


 圭は気を失っていた。

 脇腹に血がにじんでいる圭に夜滝が駆け寄る。


「圭!」


「ダメです。今は触れないでください」


 小橋が圭の体の状態を確かめる。

 服を手で割いて脇腹の傷の深さや酷さを確認したり呼吸や鼓動もチェックする。


 大竹がカバンの中からポーションを取り出す。

 ゲートから採れる素材で作られた魔力を含む薬でケガの治療を早め、魔力も回復してくれる。


 RSIもポーションの開発製造をしていて、会社から支給されたものをゲートに行く時には持っていける。

 ポーションを受け取った小橋が圭の口を開いて無理矢理ポーションを流し込む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る