捨てる神あれば1
目を覚ました時自分は死んだのだと圭はハッキリしない頭で思っていた。
しかし時間がたって意識がしっかりしてくると状況が分かってきた。
正確には分かってはいないのだが圭は死んでおらず病院にいる。
病院ならナースコールがあるはずと腕を伸ばす。
全身がひどく痛むけど何があったのかを知りたかった。
首を傾けてナースコールを押した。
「村雨さん、目を覚ましましたか!」
とりあえず何か聞けるナースが来れば良いと思っていたらナースを引き連れた医者が来た。
「あ、はい……」
「ご自分の名前は分かりますか?」
「村雨圭です」
「何があったか覚えてらっしゃいますか?」
「えっと、途中までは」
いくつか質問をされて圭が寝たまま答えると医者がカルテに記入する。
「村雨さんは重度の脱水症状と全身の怪我で運ばれてきました。記憶などに問題はなさそうなのでひとまずお体に心配はないと思います。後々検査をする必要はありますが今は休んでください」
「あ、はい……」
「それでは失礼します」
「あの、俺の荷物……」
「村雨さんのお荷物はベッド横にありますよ」
横を見るとサイドテーブルの上に必死に抱えてきた小さいカバンが置いてあった。
「あっ、どうも」
医者が出て行くのを確認して、慌ててカバンの中に手を突っ込む。
「ウソ……だろ」
目的の物はカバンの底の隅にあった。
指先の感触で予感めいていたものがほとんど確信に変わる。
圭はそれを優しく握りしめて取り出した。
深呼吸を3回。それでも心臓の鼓動はうるさい。
「あぁ……マジかよ……」
手を開いて圭は落胆にうなだれた。
手の上にあったのは割れたスキル石だった。
この生活を捨ててやり直せると希望を持たせてくれたスキル石は真っ二つに割れていた。
そんな予感はしていた。
『スキル真実の目を獲得しました』
医者にも看護師にも見えていない、圭だけが見えている表示。
まるでVRみたいに目の前に立体的にウィンドウが見えていた。
これが何なのか分からなかったけれど割れたスキル石を見て、このスキル石に込められたスキルを習得してしまったのだと気づいた。
おそらく倒れた時に下敷きにして割ってしまったのだ。
結果的に圭は自分でスキル石を使ってしまったことになる。
「しかも何だよ、真実の目って……」
聞いたこともないスキル。
戦闘系のスキルではなさそうで圭はガックリとため息をついた。
どうせなら戦闘系のスキルが欲しかったと首を振る。
「分かった……分かったから消えろ」
どうやって表示を消すのか分からず虫でも払うようにして手を振るととりあえず表示は消えた。
それにしても真実の目がどんなスキルか分からずに首をかしげてしまう。
目と言っているのだ、目に関するスキルであることはバカでも分かる。
鑑定スキルの亜種なのだろうか。
なら希望は持てる。
鑑定スキル持ちは一定の需要がある。
圭がスキル石を割るまではなんのスキルのスキル石だったのか分からないように、基本的に塔やゲートの中で得たアイテムの情報は使用してみるか、鑑定しないと分からない。
だからアイテムを鑑定できる人材は需要がある。
どの程度鑑定出来るかにもよるけど大型ギルドのお抱えになったりアイテムを扱う大きな企業で働くことができれば一発逆転とはいかなくても安定した生活を送れる。
「えっと、真実の目……う、うわっ! ちょっと待って!」
物は試しと真実の目を使ってみると見えるもの全てに表示が出て、慌てて目を閉じる。
「ちゃんと何に使うか決めないとダメか」
そっと目を開けると表示は消えていた。
情報量が多くて目と頭が一瞬で痛くなった。
何か特定のものを見るつもりで使わないと見える物全てに効果が発動してしまうみたいだった。
何に使うか悩んで、アレがいいかもしれないとカバンから魔石を取り出した。
「真実の目」
魔石だけにスキルが発動するように意識して使う。
『ジャイアントトロールの魔石
ジャイアントトロールの魔力が凝縮された魔石。
魔力は多いが純粋ではなく味としては微妙。
腹が膨れるぐらいはあるがジャイアントトロールの間抜けさが移りそう。
Cランク。』
「Cランク……Cランク!?」
Cランク等級といえば最上位から2つ下のランクである。
Cランクならボスクラスやモンスターの中でも強い方なので魔石もそれなりに高価なものになる。
この魔石を売れば一体いくらになるのか。
思わず圭がニヤつく。
一発逆転は難しいと思ったが案外できるかもしれない。
「村雨圭さん、いまお時間よろしいでしょうか?」
「は、はい!」
突然の来客に圭は飛び上がりそうになった。
落としかけたジャイアントトロールの魔石を枕の下に押し込み、ニヤけた顔を叩いて正す。
「失礼します」
病室に入ってきたのはスーツを着た男女の2人組だった。
圭も覚醒者の端くれなので相手が強いことぐらいは分かる。
特に女性の方は強い。
パッと見ではただの黒髪ロングのクール美人なのだが強い魔力が圧力となって圭に息苦しさを感じさせている。
「私たちは覚醒者協会の者です」
2人が手帳型の身分証を圭に見せる。
伊丹薫というのが女性の名前であった。
「覚醒者協会がどうして?」
圭は首をひねる。
覚醒者による犯罪など覚醒者の統括的な取り締まり権限を持つ警察的な組織である覚醒者協会。
どうして覚醒者協会の者が自分のところに来たのか理由が分からない。
「村雨さんが何かの容疑者というわけではありません。私たちは行方不明ゲートについて調査しています」
「行方不明ゲートですか……?」
それもなんの話なのか分からない。
「村雨さんが通ったと思われるゲートは他の覚醒者がついた時には既に消えていたんですよ。つきましては今後の事故防止のために原因について調査しております」
「消えてたって……どうして」
「分かりません。ゲートが消える時は中のボスが倒された時か…………相手が飽きた時です」
覚醒者が現れる前、世界中にゲートが現れた時はひどい惨事になった。
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