2ー60【悪女な魔女8】



◇悪女な魔女8◇レフィル視点


 後の歴史には残らない、聖女が魔女に堕ちた瞬間。

 みずからその足を踏み入れ、神の御業でその身の邪を払われた……物は言いようだけれど、これは事実として、アタシの心に刻んでおこう。


「触れるぞ?」


 触れる。この顔の黒い空間に。

 削げ落としたようにえぐれる左半分の顔面にミオは触れる。

 痛みはない。それに、触れられない程に空間が異常な雰囲気に変質していて、触る……という言葉が正しいのかさえ、分からない。


「……やっぱりな。俺も強くなってるって事だ、これならイケる!!フレイ、直ぐに除去するから、レフィルが異常反応を示したら回復頼むな!」


「うん」


「レフィル。念のため、麻酔に似た効果のある魔法・・をかけとくから」


「……ええ」


 魔法?能力じゃ……ああそうか、先生夫婦がいるからぼかしたのね。

 って、よく見れば先生夫婦も周りにいるじゃない。もしかして、何をするのか凄く興味があるのかしら。


「手伝えることはあるか、坊主」


「なんでも言ってちょうだいねぇ」


「お二人共、ありがとうございます。これは非常に難解な手術になりますので、是非その眼でご確認ください。きっと驚きますよ」


 なんか偉そうな事を言っているけれど、きっと二人には理解できないと思うわよ。

 それにしてもミオ・スクルーズ……余裕ね、笑ってるじゃない。

 もしかして、自分で下らない医者ごっこのようなセリフを言ったことで笑ったの?


「ほう、なら見せて貰おうぜ、パメラ」


「そうですねぇ」


 ミオはボソリと「やべ、調子乗ったかも」と口を動かした。

 もう……調子乗りなのね、意外と。


 アタシは内心でため息をきつつも、その心は安堵していた。

 ミオの余裕が、その顔が、何故か安心感をくれていたから……おかしいわよね、この前……アタシからしたら、その程度の時間しか経過していない、そんな感覚なのに。


 アタシの意思がおかしい方向へ向いている数年の間、彼はもっと先へ進んだんだ。


「――じゃあ、始める。【無限永劫インフィニット・エタニティ】!!」


 ミオは左手をアタシの顔に翳し、右手で手首を掴んで支えた。

 虹色に発光する輝きは、黒く侵食する傷跡に触れるように、優しく語りかけるように近づいた。


 そしてその瞬間、アタシの身体に異変が起きた。


「――!!っづっ!!っぁああああ!!」


 数年失くしたていた感覚、痛覚がよみがえった。

 一瞬で、思い出すのは、あの時ミオに受けた黒い破片の痛み。

 全身が焼け付くように、一つの細胞も逃さないように燃やしてくる。


「フレイ!!くっ……【破壊はかい】の魔力えげつなさすぎだろ!!腕が持ってかれる!!」


 ああ……もう駄目、こんな一瞬で意識が奪われていく。

 これなら痛みなんて無い方が良かった……こんな思いをするなら、意識も戻らないほうが……。……。……。


 違う。それじゃもう、駄目なのよ。

 アタシはつぐなう為に、彼に従う決意を固めたんだ。

 これくらいの痛みに屈していたら、アタシはもう立てなくなる。

 数え切れない数の命を奪ってきたアタシに、つぐないの機会を与えてくれた彼に、世界に報いる為に……アタシが、魔女として生きていく為に。

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