エピローグ1ー3【正式発表3】



◇正式発表3◇


 【アルテア】の管理者、ミオ・スクルーズの宣言により販売が開始されると、告知されていた次世代への成長拡張型多目的端末……【AROSSAアロッサ】は、手始めに【ユニバース】のメンバーへ配布され、そして販売までの間は、レンタルという形で供給きょうきゅうされるという事になった。


 その理由は、第一として値段が高いという一点。

 この世界での機械の値段基準が決められない上に、一般人が買うとなると敷居が高い。

 それを踏まえ、まずはお試しで使用してもらうという事で、レンタルと決まったのだ。


 そして【アセンシオンタワー】一階で受付をし、登録をするという形で配布される。値段は帝国価格で五万【ルービス】。

 おそらく激安……とミオは思っている。


 しかし、正体不明な高額商品に金を出すのは怖い、それは異世界でも同じらしい。

 レンタル期間を終えると、正式な販売が開始されたのだが……結果は如何いかに。




「……生産追いつかんが」


 【アセンシオンタワー】の【工房】で、途方に暮れるミオ・スクルーズ。

 結果……【AROSSAアロッサ】は見事に好評。

 購入者の大幅な増加が見込まれ、想定以上に普及される事になったのだ。


 第一陣が終えた後も、【ユニバース】メンバーの実演もあり、好評な売れ行きとなっている。

 しかし……負担はミオに来ている。


「いっそのこと、信頼できる誰かに【創作そうさく】を【譲渡じょうと】したら?その人に、専門職になってもらってさ」


 椅子に座る姉、クラウに言われる。

 ミオはそれも考えたが……


「そうなれば、【AROSSAアロッサ】関連の全負担がその人にかかるから駄目だよ。それに魔力が圧倒的に足りないだろ……せめて、魔人、超人、天上人クラスの人じゃないと駄目だよ」


 少なくともミオやクラウ、ロイドにラクサーヌ、そしてカミュ並の実力者でなければ預ける事は出来ない。


「でもそれだと、ミオに負担が行くじゃない」


 クラウは心配しているのだ、姉なりに。

 それはミオも理解しているが、こればかりは譲れない。


「だから考えてるんだよ」


 目に隈をつけながら、ミオは【複写ふくしゃ】で完成した【AROSSAアロッサ】を複製する。


 しかしクラリ……と。


「ミ――」


 倒れそうになるミオを助けようとクラウが動く、が。


「――おっと、大丈夫ですか!?」


 同じく【工房】にいた、ルーファウスに支えられた。


「あはは……すまん、ルーファウス」


 ミオが【創作そうさく】や【無限永劫むげん】が作用した物体は、【複写ふくしゃ】で増やす場合大量の魔力を消費する。

 この世界に始めから存在する物体は、最小の魔力消費で【複写ふくしゃ】出来るが、魔力消費が倍化していくのだ。


 今日は、既に五十回も使用している。


「せめて、【創作そうさく】と似たような能力があればな……そうすれば、【譲渡じょうと】しても大丈夫なんだが」


 フラフラしながらも、絶え間なく【複写ふくしゃ】で【AROSSAアロッサ】をコピーする。

 これがパーツだけをコピーするなら簡単なのだが……そうなれば制作コストと時間が更に掛かる。機械知識がないこの世界の人たちにとって、それは難しいのだ。


「後少しだけですよ、ミオ君。それが終わったら、休んで下さい」


「分かってるさ。悪いなルーファウス、姉さんとの時間を貰っちゃって」


「――ちょっ!!」


 ミオは半分冗談だったが。

 クラウは本気で焦り、一方でルーファウスは。


「いいんですよ。後でデートしてもらいますから」


 と、輝くような笑顔で言う。

 クラウを見ながらだ。


「……へぇ、だってさ姉さん」


 ニヤッ――としながらクラウを見るミオ。

 クラウは赤面しながら、顔をおおった。


「な……なにを勝手にぃ……」


 微笑ほほえましいとミオは思った。

 そしてなにより、この空気を守りたいと思った。

 残していきたい、未来に繋げたい……この平和な時間を。


 ピクン――


「――そうかっ」


 それは、懐かしい感覚だった。


 心の奥底から、一気に駆け上がってくる光。

 その光を覚えている。これは――能力が目覚める兆候ちょうこうだと瞬時に気付くミオ。


「ミオぉ、何笑ってんのよ人が……ミオ?」


「ミオ君?」


「……そうなんだな。これがウィズの言う、能力が解放される感覚……」


 自分の両手の平を見ながら、ヒク付きながら笑う。


「え、まさかなにかの能力が!?」


「なぁんで今なのよ!!」


 ルーファウスは支えていたミオの正面に回る。

 クラウと並んでミオを見ると、ミオは。


「……ああ。クラウ姉さんとルーファウスのおかげだな」


「え」


「なんでよ!!」


 ミオはコピーされた【AROSSAアロッサ】が置かれた台に両手を乗せ。


「――【拡張エクステンション】!!」


 それは、【女神アイズレーン】の能力――【拡張探索エクステンション・サーチ】と似た名だ。しかし効果は全く違う。


「拡張って意味よね……一体何を」


 クラウは周囲を見渡す。

 【工房】も、台も、【AROSSAアロッサ】も何も変わっていない。

 部屋が大きくなった訳でもない。いったい何がと、クラウもルーファウスも戸惑いを見せた。


「……【複写ふくしゃ】」


「ちょっ!!ミオっ、これ以上使……ったら……?」


 再度の【複写ふくしゃ】使用に、クラウが怒ろうとした。

 しかしミオは余裕の顔で立っていた。そしてクラウが言葉に疑問を乗せた理由は……


「【AROSSAアロッサ】が……急増したっ!?」


「な!!ミ、ミオ……何をしたのよっ!!」


 五十回以上の使用で、【複写ふくしゃ】の魔力消費も桁がおかしい程に高くなっているはずだが、ミオは涼しい顔をしていた。

 そしてこう叫ぶ……


「もう……燃費は気にするなぁぁぁ!!」


「「はぁ!?」」


 ミオは両手をかざして、更に【複写ふくしゃ】を発動。

 流石にハイになってしまったのだと、二人は止めに入るが。


「え……これ」


「ちょ、ちょっちょ!」


 ドンドン増える。

 【AROSSAアロッサ】がドンドン増えていく。

 【工房】が溢れるのではないかと思う程に、目が追いつかない程に。


「これが【拡張かくちょう】の力……この力は、俺の潜在能力を広げるんだ。限界を超えて……な」


「それって……まさか魔力も?」


 クラウが気付く。ミオが【複写ふくしゃ】の連発で疲労を見せなくなったのは、魔力の最大値が極限を超えたからだと。


「その通り、これで誰かに重荷を背負わせることなく……【アルテア】の為に力を使える」


 拳を握り、ミオは再度【複写ふくしゃ】を。

 魔力が無限になった訳では無い。しかしそれでも、現在のこの世界で最高値の魔力量を所持したのは間違いない。


「さぁ……俺の物語は、ここからだっ!!」


 部屋に光る能力の輝き。

 それは未来への僥倖ぎょうこうか、はたまた悪運を巡らせる凶兆か……未だ見ぬ転生者たちの戦いは――ここから更に苛烈かれつを始める。

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