1ー5【大人の決断1】



◇大人の決断1◇


 公国の東から帰った俺とミーティアは、それぞれやることの為に解散していた。

 そしてそれから二日が経ち、今日も今日とて俺は外仕事。

 ミーティアは【アセンシオンタワー】で、みずからが代表を務める【コメット商会】の仕事で大忙しだ。


 そんなミーティアの事を思う。


「【コメット商会】のシェア率は二位、か」


 それは先月の事だった。

 ミーティアが父を探す最大の理由。

 それが、世界一の商会を目指す彼女の障害……ダンドルフ・クロスヴァーデンが会長を務める【クロスヴァーデン商会】の、ここ一月での急激な売上増加だった。


「ダンドルフ・クロスヴァーデンめ、まさか銃を販売するとは……」


 【クロスヴァーデン商会】の急成長は、近代兵器である銃器の販売がになっていた。

 二年前に戦った、アリベルディ・ライグザール。あのオッサンが銃を持っていた時点で考えられてたが、まさか二年前で大陸中に売り出すとはな。


 しかもご丁寧に、【アルテア】(帝国・公国・女王国)には販売禁止と来た。


「【無限永劫むげん】……!」


 手をかざし、俺は能力――【無限永劫むげんえいごう】を発動する。

 この能力はウィズと同じ、神格を得た神の力だ。

 俺が女神に貰ったチート能力の数々を合成し、一つにまとめた能力。

 やれることが大幅に増え、今では物体以外も操作可能な万能能力にまで昇華した。


「ふぅ。アドルさんに渡す畑はこんなものかな」


 【アルテア】の帝国領、その最西。

 スクルーズの家がある場所からも更に離れた、少しだけ辺鄙へんぴな場所。


「考えなければならない案件はまだまだあるからな。【コメット商会】の売上を伸ばすにはどうするのか、広がり続ける【アルテア】の領土問題もだし、それに……」


 現状、三国の中で最も弱まっているのは女王国だ。

 女王シャーロット・エレノアール・リードンセルクが行方不明となり、国を動かす人物が一人もいなくなった事で、国は完全に崩壊。

 今はもう、三大国家などとは言えない状況になりつつあるんだ。


「シャロのやつ、何処どこ行ったんだろうな……」


 シャロこと、女王シャーロット。

 自ら生きる事を捨て、仙道せんどう紫月しづきに身体を明け渡した……しかし魂だけで残り続け、紫月しづきの暴挙を悔いた。

 自分で招いた結果ではあるが、それでも紫月しづきを止めようと俺に声を掛けた……そして、彼女はそうして戻ったんだ。


 だけど、二年前のあの日以降行方が分からなくなって、それきり。

 紫月しづき時代に悪辣あくらつ女王と名を残してしまった以上、自国民からも命を狙われる……隠れているのだと予想は出来るが、ウィズと同じく探せていないからな。


「――ミオ〜っ!」


 空から声が聞こえる。

 綺麗な声だが、どことなく圧を感じるのは、俺が弟だからだろうな。


「……クラウ姉さん?」


 光り輝く四翼を羽ばたかせて、俺の姉クラウ・スクルーズが舞い降りて来る。

 着地した瞬間に翼は消えた。この翼は【天使の翼エンジェル・ウイング】と言い、この小さな姉の転生者としての能力、【クラウソラス】の派生技だ。


「やっと見つけたわ、何してんのよ!」


 着地してズカズカと俺のもとへ。いきどおってるなぁ。


「何って、作業だけど?」


 そう言えば、家族総出の時に省かれてたなこの人。

 コハクがしっかり説明したって言ってたけど。うん、これは通じてないよな。


「はぁ?こんな偏屈へんくつな場所でぇ?」


 あなたと俺の義兄の畑ですけどね。


「アドルさんに贈るプレゼントってとこかな。レイン姉さんと二人で、新しい農園を作るんだよ」


「……?」


 はい、通ってない。コハクちゃんよ、説明下手なのか?

 ま、まぁそんな事はよくあることだ、特にこの人なら尚更。


「結婚祝いだって。二人は式も挙げてないし、頼まれたしさ」


「そっちは知ってるけど。こっちは私、知らないんだけど?」


 出来上がったばかりの畑を指差し、不満を漏らす小さな姉。


「はぁ?色恋にうつつを抜かしてるからじゃん?」


 そうやって言ってみる。わざとだ。


「ねぇその言葉、背中に思い切り刺さってるわよ」


 最近のクラウ姉さんとルーファウスが仲が良いと言う噂は俺も知ってるし、ルーファウスからも相談されてるからな。俺はいい事だと思うから、是非とも成就して欲しい。し、しかしまぁ、背中に刺さっているというお言葉も理解できる。


「しょうがないだろ〜、ティアとの関係は良好中の良好。今年で俺も成人だし、考えなきゃいけない事はあるんだし」


「結婚?」


「……まぁね、あはは」


 頬をかき、俺は笑う。

 だから浮かれるし、うつつを抜かしたくもなる。

 父さん母さんにも言われてるし、ミーティアのお母さん……マリータさんにも急かされたりもする。


「それってさ、ミーティアの気持ちを安定させる手段……でもあるんでしょ?」


「……」

するどいよなぁ)


 ミーティアは、二年前のあの日から心が不安定になっている。

 俺や仲間たちと一緒の時は気も紛れるのだろうけど……不意に一人になったり、気持ちが弱まった時は、酷く荒れる。

 だから氷の荊棘いばらを編み出して、自分をいさめるようにしたんだ。


 時には俺に甘えて、時には泣いて、時には力が暴走する。

 それでも前に、一歩一歩未来に進んでいるんだ、俺たちは。

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